4.初デート
「ったく、やっと着いた。お前がはしゃぐからだぞ」
「はしゃいでいません、怒っていました!」
レオンハルトが先に馬車から降り、私に手を差し出した。
私は怒りながらもその手を掴み、馬車から降りる。
街へ来たのは久しぶりだ。仕事が忙しくてなかなか来たことがなかった。来ても、用事を済ませたらお金もないのですぐ帰ったので街の事なんてよく知らないのだけど。
たくさんの人が行き交う賑やかな街、首都グレンデール。
レンガ造りの街並みにや石畳の道、西洋風の美しい街だ。
「ほら、行くぞ。まずは食事からだな、腹減ったろ」
私の返答なんて待つこともなく、ずんずんと私の手を引っ張っていくレオンハルト。私はため息をつきながら彼についていく。
これ。私がゲームで嫌いだったこの人の嫌いなところ。
俺様で自己中心的で、私の話を聞いて決めようなんて微塵も思ってもいないんだから。
私はむすっとした顔のまま、レオンハルトに手を引かれていく。
その内、荘厳で古い歴史を感じる大きな建物のレストランの前に連れていかれた。
よく明らかに爵位の高そうな貴族たちが静々と入っていくレストランだ。銀行の近くにあるからよく見かけた事がある。世界が違う人間も居るもんだな、といった目線で見ていたこんなところに入る日がくるなんて、夢にも思わなかった。
「ちょ、ちょっとこんなところ私……」
「あ? なんだよ」
「だって、ちょっと……敷居が高すぎますよ私には」
「なんでだよ」
私が戸惑っている事に不思議そうな顔をしている。
だってこんな高位貴族しか行かないような場所、私みたいな人間が入ったら、即刻追い出されるだろう。私が踏みとどまったままでいると、レオンハルトは私の考えている事を見透かしたようにニヤリと笑った。
「お前はもう見た目は立派な公爵夫人だよ。胸張って入れ」
あぁ、そうだった……。貧困が染みついていて忘れていたんだけど、私今日は足の先から頭のてっぺんまで美しく着飾られているんだった。
中に入ると、ボーイが丁寧にお辞儀をする。赤いカーペットが敷かれ、豪華なシャンデリアがお出迎えする豪華絢爛なレストラン。レストランなのかも分からないくらいだ、演劇をするホールやパーティーホールと言われてもおかしくない。二階席へ通され、誰も居ない店内にポツンと二人で座った。
メニューを持ってきたボーイに軽く手を振って、レオンハルトはまるで王様のように振舞う。
「適当に持ってきてくれ。嫌いなものは? 生のトマト以外で」
「え? なんで知って……」
「他にはないのか?」
「ないですけど……」
「聞いたか、生のトマトが入っているもの以外の料理で持ってきてくれ」
ボーイはかしこまりました、と丁寧にお辞儀をすると、注文を厨房に伝えに席からすっと移動した。他に数人離れた位置でピシッと姿勢正しく優雅に立ったままでいる。
客は私達以外居ないようで話し声や足音も聞こえない。そのうち、静かな演奏が流れてきた。
ムードたっぷりなレストラン、これから出てくる美味しいお料理、そして素晴らしいデートだろうと言わんばかりに満足気な顔をしている目の前の男性。
……なんというか、もうお腹いっぱいだ。
とりあえず、私は先ほどから気になっていたことをレオンハルトに質問をした。
「ねぇ、なんで私の嫌いなもの知っているんですか」
「さぁ、なんでだろうな」
少し嬉しそうにそう答えるレオンハルト。
どうせ私の祖父母から話を聞いていたのだろうが、たったそれだけの事でここまで得意げにされると少しイライラしてくる。
本当にいい加減にしてほしい、この俺様具合。
その内美味しいお料理が出てきた。
美味しいけれど、場に緊張して思ったより胃の中に食事が入っていかない。
しかし、残すのは絶対に勿体ないと無理やり口に入れていると、無理している様子が分かったのかレオンハルトがピクリと手を止めた。
「どうした、まずいのか」
「いや、そうじゃないですけど……こんなところ初めて来たから、食事が喉に通らないんです。緊張して」
「そんな繊細な胃してるわけないだろ、あのパーティーで一人で散々食っておいて。お前一人しかいなかったぞ、食事を食べていたのは」
「見てたの!?」
こんなごちそうしばらくありつけないし、攻略対象との出会いがまだだと踏んだ私の暴挙を見られていたというのか。あまりの恥ずかしさに顔がカァッと熱くなった。
「いやぁ、生命力を感じる姿が良かったな」
「生命力?」
「お前ときたら、会場に入ってから声をかけるまでずっと口を動かしていたじゃないか。あれは生きる力がすごい。細い体でぽんぽんぽんぽん口にいれて。誰一人食べていないのに、よくもまぁ一人であんなに食えたもんだ」
「しょ、しょうがないでしょ。お腹減ってたんですから! ……それに、うちの財政状況を考えればあんなごちそうなんてしばらく食べられないんだから、食べ納めしておかないと」
「それはそれは良かったな。公爵夫人になればそんな不安なんて全くなくなるぞ」
レオンハルトがにっこりと笑って言う。
私はムッとした表情で言い返した。
「だから、王女様がご婚約なさるまでですってば」
今度はレオンハルトの顔がムッとした表情になる。
そもそも、こいつはなんでこんなにも”私”と結婚をしたがっているのだろう。……あぁ、もしかしてゲームの強制力か何かなのだろうか。何をどう間違ってレオンハルトルートに迷い込んでしまったかわからないが、私の推しはユリアン様。このルートからはさっさと撤退させていただこう。
「なんでお前はそんなに俺と結婚したくないんだ」
「逆になんで私とそんなに結婚したいんですか」
「だから責任取ってやるって言ってるだろ」
「医療行為ですから結構です、と申し上げているでしょう」
にらみ合いながら運ばれてくる料理をぱくぱくと口に入れていく私達。
いつのまにか最後のデザートまで口に放り込んで、お食事デートが終了してしまった。
食べれないと思っていたのに、なんだか結局レオンハルトのペースに巻き込まれてすべて完食してしまった。もったいない事に味はあまり覚えていないけど、でも美味しかったような気もする。
「さ、これが終わったら買い物だ」
「へ? まだ行くんですか」
「当たり前だろ、デートはむしろこれからだ」
レオンハルトは無造作にナプキンをテーブルに置いて立ち上がると、私の前に来るなり膝をついて手を差し伸べた。王子様のような態度に少し胸がドキリと高揚する。
顔が良いだけ、顔が良いだけ。
私は何故か自分に何度もそう言い聞かせながら、彼の手を取った。
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