37.救出
「な、な、な……何ですか、その格好は!!」
こんな危機的状況なのに、なんだかリラックスまでしていたようなこの男の無神経さに腹が立ち、思わず怒鳴ってしまった。
屈強な鉱山夫と騎士団の男たちが、私の前からさっと道を開ける。
そのおかげで、レオンハルトは私を認識したようで、「うわ、セシリア?」と驚いたような顔をして、すぐに穴から這い出てきた。
それにならって、中に居た団員も穴から這い出てくる。
私を見るなりレオンハルトはムッとした顔をして、横に居るエマを睨んだ。
「なんでコイツがこんな危ないところにいるんだ。おい、エマ説明しろ」
「私が連れていってと言ったんです! エマは悪くありません! それより……皆がこんなに心配していたのに、優雅にそんな寝っ転がって! 何をしているんですか貴方は!」
「おいおいおい、待てよ。落ち着けよ。ガスは上に行くから、下に居る方が安全だったんだよ」
噛みつくような勢いで怒る私の肩をそっと抑える。
なんだそうだったのか。てっきりこっちの心配を余所にのんびりしていてカッと頭に血が上ったんだけど、理由があったのか。
レオンハルトが落ち着いて話すものだから、少しずつ私も落ち着いてきた。
そんな私の様子にレオンハルトはにやりと笑って、言葉を続ける。
「それに、俺の選んだ人間は皆優秀だからな。すぐ助けられると思っていたし。ありがとうな」
鉱山夫や騎士団と目線を交わしている。
自己中心的な男だと思っていたけど、騎士団長としてこんなに信頼関係を築けているというのは、思ったよりも周りを見る事ができる男なのか。ゲームで見てきた時やデートの時で見せたようなレオンハルトの姿とは違った姿に、少し戸惑ってしまう。
そんな中、中から這い出てきた騎士団員が酷く疲れた口調でレオンハルトを軽く窘めた。
「でも、団長。危険ですから、若い団員が居たからって中に戻らないでください。団長に何かあったらどうするんですか」
「お前らだけだと、こういうのに対処できないだろ。対処できるようになってから文句を言え、この半人前共が」
厳しくそう言われると、中から這い出てきた騎士団員達がぐっと小さくなっている。
若い騎士団員も大変な目に遭ったのに、さらに小言を言われるなんて少し気の毒だな。小さくなってしまっている団員達を見て苦笑していると、レオンハルトはまた私に向き直った。少しむくれたような顔をしている。
「それより、なんで来たんだよ」
「なんでって……なんでだっけ」
「はぁ?」
私の返答に口を大きく開けて、文句たっぷりの顔で私を見た。
人に心配をかけておいて、この男は。私は静まりかけていた怒りを再燃させて、レオンハルトに詰め寄った。
「しょうがないでしょ! あなたがこんな事に巻き込まれているから混乱してしまっているんです! というか、おじい様には話していたらしいじゃないですか! なんでおじい様には話せて私には話をしてくれなかったんです? こんな風に何かあった後に色々知るのなんて嫌ですよ! がっかりしたっていいから、ちゃんとお話ししてください!」
「わかったよ……」
私がそう怒ると、レオンハルトは観念したように小さな声で返事をした。
いつも横柄な男が小さくなったからなのか、騎士団員と鉱山夫達がおぉ、と小さく感嘆の声を上げている。が、そんなことは後回しだ。
私は思いだした怒りを次々とレオンハルトにぶつける。
「大体、鉱山の場所くらいは言ってください! 山から煙が上がった時、もしかしてと思って気が気じゃなかったんですよ!」
「悪い」
「そうだ! それに、落ち着いたらまた来るって言ったのに、全然来ないし」
「それは……」
そう呟くと、気まずそうに頭をかきながら目を反らした。
なんだその反応は、と睨みつけていると、レオンハルトが小さくため息をつきながら、少し顔を赤らめて私に向き直る。
「どんな顔してお前に会いに行けば良いか分からなかったんだよ、あんな事言っちまったから」
私はその顔を見て、今まで事故の事で頭から吹っ飛んでしまっていたあの告白を思い出す。そして、私までレオンハルトのように顔が赤くなっていくのを感じる。
そうだ、私好きだと言われてからコイツと初めて会っているのか。
しかも、今は王女の婚約が解消されたと報道されている。
今後の私たちの事も話し合わないといけないという事だ。
そんなの当たり前に婚約解消に決まっている。決まっているはず、なのに。”婚約解消”という言葉に胸がチクりと痛み、不安を感じるのはなぜだろう。
しばらくの沈黙の中、馬の蹄の音が近づいてくるのが聞こえた。
音のする方へ私たちは顔を向ける。
「大丈夫ですか? 私にできる事があれば、と様子を見に来たのですが……」
そこには馬に乗ったユリアンが居た。
読んで頂きましてありがとうございました。
レオンハルト、結局雲行き怪しくしてごめんね。
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