36.事故
鉱山夫や騎士団の男性達が懸命に落石の岩をどかしたり、穴を開けようとしている様子を少し遠くからじっと見つめる。
元々がどの程度の山だったのかが分からないから、この作業が果たしてどのくらいかかるのかも見ているだけでは見当がつかない。
日差しは強いのに、手足がとても冷たくなっていくのを感じる。
どうやら顔も青ざめていたようで、エマが力強い口調で私に語りかけた。
「現場の人間は鉱山夫としての経験が豊富な者達が多いです。私達騎士団も力仕事や統率力はかなりのものです。あまり心配しないでください、きっと大丈夫ですから。今、それぞれが出来る事をしましょう」
「うん。……ごめんなさい、連れてきてくれたのに足手まといになっちゃうわね。私はどうしたらいいかしら。簡単な怪我の手当てだったら出来るわ」
皮肉なことにここにきて貧乏男爵家の生まれだった事で、色々なことを自身でも対応をしていた事が活きてくる。
私の顔色が変わった事にエマも安心したのか、強張っていた顔が少し緩んだ。
「ありがとうございます。それもお願いしたいのですが、事故に遭った方に領主であるセシリア様がお傍について励ましてくださると助かります。その……けがの程度が酷い者もいて驚かれると思いますが、決して顔には出さずにただ励ましてください。決して助かると」
「わかったわ」
「私は現場の状況確認が済んだら戻ります、それまでリーリア。セシリア様をお願い」
「はい。では、セシリア様。参りましょう」
エマに報告をしにきた女性騎士はリーリアというそうだった。リーリアが小走りに走っていく後ろを私もついていく。
怪我をしている者はかなり多かった。怪我の大小は様々で、かすり傷程度で済んでいる者は手当が終わったら急ぎ現場に戻っているようだ。
しかし、頭を打った者。大量出血してしまった者。歩くこともままならない程の重症を負った者。エマの言っていた通り、酷い怪我の者も多数いる。
その一人一人に声をかけていく。手を握り、そっと寄り添い、清潔なタオルで体を拭き、励ます。自分にできる事はたったそれだけなのだ。
それでも体を動かせない人間がじっと視線だけ私を捉えている。安心してもらえるように、いつも私に寄り添ってくれるエマのあの微笑みを思い出し、エマのように微笑みながら懸命にサポートに当たった。
エマも戻ってきてから、医療チームに合流し、援護をしている。
怪我人の手当てもほとんど完了した頃、大きな音が響いた。
何かが崩れるような、落ちてくるような音。あの山からだ。
私とエマ、一部団員達は音のした方へ急いだ。
岩で埋まっていた山に穴が開いている。まだ人が通れるほどの大きな穴ではないようだ。
「ここから広げるぞ!! もうすぐだから頑張れ!!」
鉱山夫の逞しい声が響く。
そこからどんどん穴を広げるように皆で岩をどけていく。
私とエマはその穴の向こう側の人間に引き寄せられるように、山へ近付いた。足元の邪魔な岩たちをどかして穴を広げてくれる男たちの仕事が進むように計らう。
そして、運良くなのか、鉱山夫達の見立てが良かったのか、大きく穴が広がり、中の様子が分かるようになった。これでもう、中に居る人間たちは外へ出られるだろう。
穴から複数人の人影が見える。
私とエマは鉱山夫達の後ろからつま先立ちになり、中の様子を一緒になって確認した。
そこに、聞き慣れた声が、まるで昼寝が終わった後のような声でのんびりと呟いたのが聞こえた。
「おぉ、ようやく開いたか」
そこには涅槃像のように優雅に寝そべったレオンハルトと、仰向けになっている若い騎士が数名横になっていた。
読んで頂きましてありがとうございました。
私生活が忙しく、レオンハルトをしばらく閉じ込めたままにしてしまいました。
レオンハルトごめんね、という事で本日3話更新いたします。
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