34.ユリアンの華麗なるお悩み解決方法
「あの、ユリアン様……これは……」
「悩んだ時に一番元気にしてくれるお薬です」
「たしかに、元気にはなりますが……あ、髪の毛は引っ張らないでね。ほら、このハンカチどーじょー」
赤ん坊に髪の毛を引っ張られたのを、やんわりと手から外し、ひらひらと目の前でハンカチを振ってそれを握らせた。ハンカチに手を伸ばして、満足そうにぐっと掴んでいる。
ユリアンに連れてこられたのは孤児の子たちが生活する部屋だった。
赤ん坊から小学生くらいの子たちまで沢山いる。こんな小さな教会にも、こんなにたくさんの子供たちがいるなんて少し驚いている。
私も教会に伺う事はあるが、ユリアンのところは、規模の割に人数が多い気がする。ユリアンの受け入れがかなり、多いのだろう。
何をするんだろうとユリアンに着いていくと、この部屋に案内されたのだ。
どーぞ、とにこやかに部屋に入れられ、前にお菓子や果物をくれたお姉さんだと紹介してもらったら、子ども達から引っ張りだこになってしまった。
今は一番小さい子の相手をしながら、子ども達と一緒に居る。
「あ、そうだ。ユリアン様。今でも子供たちの就労先って悩まれてます?」
「そうですね、万年の悩み事ではありますね」
「例えばどんな?」
「うーん……やはり、女の子ですかね。力仕事が出来ないので、仕事が限られるというか。細かい作業が苦手な子だっていますし」
「なるほど……」
もし温泉が出来たら、旅館やホテルの運営だってありだろう。
帳簿をつけたりの頭脳労働から、対人対応を主とする接客業、様々な仕事が生まれるはずだ。
しかも、今の教会から程近い場所だから、心理的抵抗も少なそう。この子たちの為にも、良いかもしれない。赤ん坊の頭を優しく撫でながら、そんな事を考えていた。
ユリアンは私の質問に首を傾げる。
「どうして急に?」
「あ、いや……少し気になって」
まだ具体的に話が進んでいない内に期待をさせるのも、と思ってはぐらかした。
そこで、あぁ……レオンハルトもこんな気持ちで、私にずっと黙っていたのかなと気が付く。
なんでいつも自分勝手に色々するんだろう、とか。出てこないかもしれない前提で一度話してくれたって良いじゃない、とか思っていたけど。でも、期待させてがっかりさせるかもしれない側になると、また事情が違うものだな。
なんだ、私だって私の考えを押し付けて、随分と自分勝手だったのかもしれない。
決してレオンハルト程では無いけれど。でも、もっとレオンハルトに寄り添って聞けば、気が付く事も多かったのかもしれない。……いや、でも寄り添ってもらうにはそれ相応の態度ってもんがあるよね? それ、アイツなかったよね?
そんな事を頭の中でぐるぐると考えていると、ユリアンは私が色々思い悩んでいると思ったのか優しい口調で話し始めた。
「この小さな子たちの笑顔と力強さを見ていると、すべてを投げ出してこの笑顔だけあればいいなんて気持ちになるんです。私が悩んだ時の解消法です。選択肢が狭まっていくと言うか、クリアになっていく感じがして。少し押しつけがましかったですね、すみません」
少し困ったようにへにゃっと笑うユリアンの少し頼りなくて、優しい笑顔にふっと笑いが零れる。
ユリアンの励まし方は好きだ。寄り添ってくれて、押しつけがましくなくて、善意しか感じないこの穏やかな人柄がなんとも自分を癒してくれたのだ。ずっと、前世から今も。
そんな話をしていると、ユリアンと私の背中にそれぞれ勢いよく子供が乗っかり、首にぶら下がってきた。完全に私達大人を遊具として使っている。
苦しいな、と私はやんわりと手を外そうとしているのに、ユリアンは楽しそうに笑いながら、そのまま体を前に大きく倒したり、戻したりと人間ブランコになってあげていた。
楽しそうな笑い声に、なんだか心の靄が少しずつ晴れていくようなそんな気がする。
「いえ、少し分かる気もします」
確かに、なんだか自分の思い悩んでいた事が少しどうでも良くなってきた。
レオンハルトには実際に会ってみなければ、どうとも分からないだろう。
これからどうするのか、どうしたいのか。彼に会えば、少しくっきりと方向性が見えてくるかもしれない。
なんだ、それだけの事だったのか。
ユリアンの言った通り、小さな手を借りることで、少し肩の荷が下りた気がした。
***
皆でごはんを食べて、少し遊び、教会を出た。
子供達皆がお見送りをしてくれるそうだ。
皆と順番に握手をして、別れの挨拶をしていると、ユリアンに抱っこされた小さな女の子が空を指差した。
「ユリアン様、お空が焦げてる」
「ん? あ、本当だ。煙がもくもくしているね。火事、かなぁ……」
私は二人の声を聞いて、指を差した方の空を見た。
確かに煙がもくもくと空に立ち上っているのが見える。
もっと分かりやすい場所から、と少し場所を変えて見てみた。ユリアンも同じようにする、そしてユリアンがぽつりと呟いた。
「山の方ですね」
「……何かあったんでしょうか」
「どうでしょう。山火事の季節でもありませんし……そういえば、山の方で最近何かやっているらしいみたいな噂は聞いた事があるんですが」
嫌な予感がした。
私は慌てて教会の外へと走っていく。
「すみません、帰ります!」
私は走って走って走って、男爵邸へと急いだ。
もしかしたら、メイド達が何か知っているかもしれない。
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