33.迷惑な贈り物
「落ち着いたらって、いつ落ち着くのかしら……」
王女様の婚約が発表されて、数日が経過した。
レオンハルトは未だに会いに来ない。
落ち着いたら迎えに来る、と言っていたけど、まだ落ち着くような状況じゃないのか。いや、そもそも鉱山の採掘だなんて1ヶ月やそこらじゃなんとかなる話でもないと思うのだけど。
でも、あんな事言った手前、早めに一旦顔を出すとか手紙を出すとか出来ないもんかね……出来ないか、あの性格じゃ。だから色々言葉足らずになってしまってたんだし。
それに、いざ会いに来られても、私自身もどういった話をするのか、どんな顔をすれば良いのか分からないから、積極的にどうという事もないんだけど。
そんな風に思考が堂々巡りで、ただもやもやとした時間だけがこの数日流れていったのである。
そういえば、なんだか忘れているような気がするんだけど、何が……。
ふと目の端に古新聞が積み重なっているのが見えた。
「あー!! ユリアン様の新聞記事の件、すっかり忘れてた!!!」
私はあのスキャンダルがあった後の新聞をすべて確認した。
スキャンダルのあった日と翌日の記事は私たちの事が書かれていたが、それ以降は王女様のご結婚疑惑からはじまり、最近のご婚約発表、結婚相手に関する事等、王女様の記事だけで、ご婚約発表以降、私達の話は一切出てきていなかった。
「良かった、こっちは落ち着いているみたい……。あ、王女様の婚礼のドレスの値段まで書いてある、うわぁすご……これ服の値段よね。あ、しかもさすがのマダムベル。あの人がドレスを作るんだ……」
王女様のご婚約発表の記事をしげしげと眺める。
自分のスキャンダルの時はとんでもない記事を書きやがって、と怒り狂っていたが、こうやって王女様のご結婚のドレスやその値段まで沢山の情報を読み漁ってしまった。
外向きの穏やかで優しい笑顔で手を振る王女様。こうやって紙面で王女様を見られるのも、あまりないのかもしれない。
私は綺麗にその新聞たちを避けて、保存できるようにしておいた。
「じゃなくて、そうだ。ユリアン様の様子、見に行こうかな。直接今の状況を見てみたいし。あと、孤児たちの就職口についても聞きたいな。もし鉱山や温泉が本格的に始動するなら、今の状況じゃきっと足りないから」
万が一記者が張っている可能性を想定して、村の人に見えるような変装をし、ユリアンの元へ急いだ。
***
「ユリアン様」
教会の外で何やら大量の箱の傍で作業をしているユリアンを見つけ、早速話しかけた。
ユリアンは私の声を聞くと、すぐに作業の手を止め、立ち上がり振り返る。振り返った拍子に美しい銀髪が、シャンプーのCMかのようにさらりと流れて、キラキラとして見えた。
相変わらずの魅力だ。さすが、乙女ゲームの攻略対象、私の最推しなだけある。
「ん? ……あ、セシリア様! お久しぶりです。いつもと恰好が違うので、気が付きませんでした」
「お久しぶりです。また記者に撮られたら、と思って変装してきちゃいました」
ユリアンの穏やかな微笑みに心が癒される。
私とユリアンは微笑みを交わしながら久しぶりの再会を喜んだ。
それにしても、何をしていたのだろうかとユリアンの傍にある箱を覗いた。中には大量のコップが入っている。そして、その箱自体も大量にあるのだ。
木のものからガラスのものまで、たくさんの種類のコップが異常な量置いてある。
「あの……その後大丈夫だったか気になりまして、本日お伺いしたんですが……ちなみにその大量のコップは……」
嫌な予感が頭を掠めながらも、ユリアンに質問をする。
ユリアンは、嫌な顔一つせず、にこやかに答えた。
「あれから公爵様から大量のグラスや食器が届きまして。グラスが割れたので、弁償のおつもりなんでしょう」
「それにしても、この量……もう本当にすみません……」
「いえいえ、ふふ……不器用な方ですね。ありがたいですよ、余ったらバザーに出しても良いですし。村の人たちに分けたりして。子供達も村の方々も、皆さんとても喜んでいますよ。子供たち用に木のコップまで入っていて、気の細やかな方ですね。箱はこれでもまだ一部で、食器もたくさんいただいて。おかげで古いものを刷新できました」
恐らく事前連絡もなく、急にこれだけ送ったのだろう。
急にこんなにたくさんの食器を贈られたら、ユリアンのようににこやかに有難いなんて言ってくれる人の方が少数なのに、アイツときたら……。
ユリアンの海より広い心のおかげでこんな風に受け入れてもらった事を感謝するように言わなければ。
「あの後、仲直りはできましたか?」
私がレオンハルトの行動に呆れていると、私の顔を優しく見守りながら、にこやかにユリアンがそう尋ねた。仲直り……したのだろうか。
仲直りというか、進展したというか、いやどうしたら良いかわからないから、進んでもいないのか。
しばらく考えてみたのだが、なんと答えたら良いのか分からなかった。
「なんだか、色々ありすぎて……頭の中が整理出来ていないといいますか……」
「ふむ、それでは……使いますか?」
「使う?」
「中へどうぞ」
ユリアンがにこやかに教会の中へと私を招き入れる。
何をする気なんだろう、と戸惑いながらもユリアンの後ろへ続いた。
読んで頂きましてありがとうございました。
本日も2話更新予定です。
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