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ただ隣にいたからという理由で俺様公爵の婚約者になっただけなのに、何故か溺愛されています  作者: minori


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27.レオンハルトという男


「いいですか、レオンハルトという人間に王女様もかもしれませんが、貴方も期待を抱きすぎているのです。大体、戦争が強いからトップに据えるだなんて。これだから男の言う事は……。もっと国民の側に立って物事を考えていただきたいですね。……とまぁ、小言はここまでとして、レオンハルトと付き合うと女性は一体どのように苦労をするのか、実際に苦労した私からお話ししましょう」


 私が厭味ったらしくぐちぐちと小言を言うと、屈強な護衛なのにどんどん小さくなっていく。


「まず、彼の性格から。端的に言うと、彼は超俺様で自己愛が非常に強く、大変面倒くさい奴ナンバー1です。この世界で」

「この世界で……」


 私の言葉を聞いて、絶句する護衛。

 この程度で何を弱腰になっているか分からないが、私はとにかく感情のままに話を続けた。


「たしかに見た目は良いでしょう。もしかして王女様は面食いでしょうか?」

「まぁ……それなりに……」

「近くに置いていたのが貴方のようなイケオジですもんね。あんなに聡明で美しい王女様がレオンハルトなぞにご執心されるなんて、顔が好みだったくらいしか思いつきませんもん」

「”イケオジ”?……あの、一応婚約者ではなかったのか?」

「そのうち”元”婚約者になるからいいんです!!」


 私は”元”の部分を強調して怒鳴ると、私の気迫に気圧されたのか、護衛は少し冷や汗をかきながらすっと身を引いた。

 話している内にどんどんイライラしてきた私は、野性的にパンを齧りながらレオンハルトがいかに酷い人間なのかを語り始める。


「あの人は、相手の意思や意向を聞く事も説明することもありません。聞いても、こちらの本意が伝わらないのか頓珍漢な事ばかり言ってきます。国語力が無さすぎるのかもしれません。この国語力が無さすぎる男が部下に指示を出すと? 王城に勤める使用人たちも激減するかもしれませんね! 雇用環境の悪化が酷すぎて!」


 同じく雇用される側である護衛も、それは嫌だなぁという顔を少し見せた。

 私だって、もしレオンハルトが上司だったらと考えたら、絶対に嫌だ。しかし、それがお前が選ぼうとした愚かな未来だ。

 私は話している内にどんどんヒートアップしていく。


「それに、あの人! 自分が喜ぶことは人も喜ぶとでも思っているのか、本当にこちらの話や意向なんて聞かずに、外出の予定を急に入れてきます。こっちも仕事で忙しいのに、急に朝の四時に山登りだとか海釣りに行くぞなんて言い出すんですよ? 頭おかしいでしょ!」

「朝四時……」

「しかも文句を言ったら急に何の音沙汰も無く、1ヶ月も急に姿を消すんですよ! その間何していたと思います? こっちはメイドやおじい様やおばあ様に散々関係を心配されていたのに、こっそり鉱山を掘っていたんですって! そんなもん、最初に鉱山開発の話やどの程度の買い取りの話をするかのきちんとした商談のお話をしていたら喜んで請け負ったし、婚約なんてしなくて良いっつーの!! ほら、人の事考えられないクソ野郎でしょ!?」


 興奮しきった私がずいっと護衛の顔の近くに顔を寄せて怒ると、護衛はこくこくと何度も頷いた。

 怒りを抑えられない私は、叫びながら護衛に最後の質問をする。


「私のこの苛立ちきった顔を見て、それでもなおレオンハルトと王女様をご結婚させたいと思いますか!!」

「ごめんなさい、思いません……」


 申し訳なさそうに縮こまる護衛を見て、私はふんっと鼻息を吐いて満足そうに最後のパンを口に放り入れた。 

 謎の勝利感で少し気持ちを満たす事ができたのだが、こんなに小さくなった40代前後の屈強な男性を見ると少し気の毒に感じてくる。私は少し深呼吸をして、気持ちを落ち着かせてから、静かな口調で話し始めた。


「まぁ、そもそもどの話の段階なのか分かりませんが、今更私が姿を消したり、レオンハルトとの関係が悪くなったところで王女様のご婚約を解消させるのも難しいでしょう。なんでこんな事……あぁ、一生懸命になり過ぎて周りが見えなくなってしまったんですね。本当にしょうがないですね」

「申し訳ございません。私もずっと王女様がご抵抗されている姿を見て、いよいよ本決まりというところで焦ってしまって……」

「いいです、結局何もされていませんし……あ、お腹は殴られたか。まぁ、それの慰謝料は追って対応していただきます」

「本当に申し訳ございませんでした」


 護衛は私に丁寧に頭を下げた。本当に悪気が無かったのだろう。新しい王への不安、可愛い王女様のご結婚への心配、色々な事への不安感でここまで暴走させてしまったのか。

 まぁ私も社畜をやっていた経験から、クソパワセクハラ上司の下につく事が決まったのが嫌過ぎて一回会社から逃走した事があった。まぁ、あの時は連日の長時間残業でまともな判断が出来ていなかったんだけど……。

 前世の自分をこの男性に重ねてしまうと、なんだか可哀想で何も言えなくなってしまう。ふぅ、と小さくため息をついた。


 私は小屋のドアを少し開けて、空を見る。

 朝焼けだ。少し遠くに夜の名残が見えるが、もう空はだいぶ白くなっていた。時刻で言うと4時を過ぎた頃だろうか。


「まだ朝方ですね……今なら、私がすぐに帰れば大きな騒ぎにもならないでしょう。帰していただく方向性でよろしいですか?」

「それだけで、よろしいのでしょうか?」

「えぇ、慰謝料さえいただければ。あと、もし今後私に何かあった時に協力者になってください。貸し、という事で」

「ご厚情いただき、ありがとうございます」


 護衛は少し肩を震わせながら、私に頭を下げた。

 まぁ、本来なら貴族誘拐の罪となれば相応に重い罪だ。王城に勤めていて真面目そうなこの人が知らないはずがない。

 この世界の男は不器用なのだろうか。ユリアン様以外、なんだかちょっと残念な男性が多い気がする。


***


 なんだかせっかくの誘拐イベントという乙女ゲームらしいトラブルだったのに自己解決してしまった……。普通なら攻略対象が助けに来るようなイベントっぽかったんだけど……。

 今度は荷馬車の中ではなく、護衛の隣に座って出発をした。

 何が起こって、何をしてしまったのか。この半日は一体なんだったのだろうか。

 ただただとても無駄で疲れるだけのトラブルだったな、と大きく欠伸をしながらぼんやりと座る。不安定な道をお尻を揺らしながら進んでいった。


 あ、そうだ。これは伝えておいてあげると良いのかもしれない。私は横に居る護衛に、親切心で少し先の未来を伝えた。


「あと、王女様が望まれないご結婚をされると心を痛めていらっしゃるようですが、このご結婚で王女様、とてもお幸せになるはずなので、そんなに心配しなくていいですよ」

「は、はぁ……」


 私の一言にきょとん、としたような感じで答える護衛。

 もうどうでもいいので、私はただただ欠伸をしながら眠らないようにだけ気を付ける。そこに、けたたましい馬の蹄の音が聞こえた。眠い目を凝らして見てみると、レオンハルトがこちらに馬に乗って走ってくるのが見える。


「セシリア!!」

 

 黒髪に赤い瞳のメインヒーローが事件解決後に姿を現した。

 遅れてきたヒーローの登場である。

読んで頂きましてありがとうございました。

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