26.正体
「あなた、王女様の護衛でしょ?」
私がそう言うと、しばらくして目隠しされていた布を外される。
目を開けると、先日の王女の急な訪問の際に現れた護衛がそこに居た。
「どうして分かった」
「発端は新聞の記事ですね。とりあえず、それ食べてもいいですか? 手足のこれも外してください」
「あ、あぁ。すまない」
護衛に手足を縛っていた布も外してもらい、早速スープを口に含んだ。
トマト風味の美味しい野菜の味が空きっ腹に優しい。
私は何故護衛かが分かったのかの説明を、食べながら続けた。
「”最近二人の愛が冷え始めたと言う者もいる。”っていう一文から、誰かが記者にリークしたんだと思ってました。でも、王女様はそんな事されてないって仰るし。メイド達もそんな事をするはずがない。まぁ、おばあ様やおじい様がぽろっと誰かに話した可能性も無くはなかったけど、こんな風には言わないだろうし。となると、この事実を知っていたのが貴方だけなんですよ。わざわざこんな小屋に連れてきても目隠しを外さないって事は、私が見た事のある人物だっていう事でしょう?」
私がつらつらとそう話すと、クールな印象の表情の変化が乏しい護衛が少し驚いたような顔をした。
私が貧乏男爵令嬢で片手で数える程の人間関係しか無かったからすぐ分かってしまったのだけど。そうじゃなかったら、きっとわからなかっただろう。
私は護衛に再度問いただした。
「それにしても、なんでこんな事したんです? 危害を加える気はないみたいじゃないですか、あなた。こんなに美味しいスープとパンも用意してくれたし。公爵様に個人的な恨みでもあるんですか? ……まぁ、あの人の事だから王女様はじめ貴方にもきっと迷惑はかけているんでしょうけど」
「違う……」
護衛は静かに否定した。そして、しばらく黙ったままだったが、ようやく口を開いた。
「……王女様とご結婚していただきたかったんだ」
「へ!? 頭大丈夫!?」
あまりにも信じられない事を言うものだから、思わず失礼な発言を叫んでしまった。
社交界の問題児と結婚だなんて、私が居る居ないに関わらず、絶対に無い選択肢だと思ったけど。だからこそ、ゲームでも結局王女様とレオンハルトは結婚していないんだし。
いくら王女様がレオンハルトをお好きだったとしても、人選が悪すぎる気がするのだけど、この護衛はこの国に反乱でも起こそうとしているのだろうか。
私の失礼な発言も全く気にしないまま、護衛は説明を加えた。
「王女様が隣国に嫁がれるんだ。友好な関係の国だが、更に国交を深めるという理由で。ご本人が望まれていないのに。貴族、王族の娘なんて、そういう風に扱われる存在だと分かっている。しかし、ずっと、王女様はレオンハルト様とのご婚約を望んでいたんだ。……それに、隣国に嫁がれたら私はもうお傍には居られない」
「あー……なるほど」
最後の一言で腑に落ちた。
なんだかんだ理由つけて言っていても、この人は恐らく……。
「ご好意を持っていらっしゃるのね、王女様に」
「違う! そんな下劣な感情ではない!」
私の一言にずっと冷静な様子だった護衛が初めて声を荒げた。あまりの気迫に私は体をビクッと震わせた。そんな様子を見た護衛は、私の様子に気が付き、気を落ち着かせ、トーンダウンした。
「ただ、お傍に仕えて居たいだけだ。王女様が幼い頃から私は傍にいた。せめて、不安な異国の地でお傍についてお支えしたいだけなんだ」
娘を送り出す父のような背中を見せながら、そんな事をお話しする護衛。私は話を聞きながら、残りのスープをずずずっと吸った。
「それ、王女様に言えば良いんじゃないですか?」
「この国を継がれるのは、王女様の弟君のレイモンド様。頼りないレイモンド様のお傍につけとのご命令だ」
「あぁ、レイモンド様……」
護衛のその説明に、私は小さく何度も頷いた。
そうだ。レイモンド様。彼も攻略対象の一人だ。
レイモンドは気が強くて頭の切れる王女と対照的だ。
王女様が気にされるのも分かる気がする。確かに彼は少し頼りないのだ。
良く言えば優しい。悪く言えば気が弱い。ただ、ゲームではヒロインと出会い、良い王へと成長していくんだけど。
ヒロインが違うルートに行っても、彼は特に問題なく国を治めていたはずなので、周りが心配している程、頼りない王にはならないはずなんだけど。
でも、やはり実際に近くに居る人達にとっては心配だろう。王女が聡明なら尚更。レイモンドルートでも、王女が男だったら良かったのにといった彼の発言も見た。周りからもそう言われて育ってきているから、あんなに気が弱くなってしまっている気もしないでもないけど……。レイモンドも王女様ほどではないだろうけど、優秀だし。
護衛や王女の言う事も分かるな、と頷いていると、護衛は更に話を続ける。
「それに、優秀な王女様と戦争で負けなしの公爵がご結婚されたら、この国の次の国王も王女様と公爵様になるやもしれない。その方が国は安泰だ」
護衛が放つ信じられない言葉に私は言葉を失った。
レオンハルトが次期国王? 本気でこの国を破滅させるつもりなのだろうか。
「えっと……本気ですか? レオンハルト様ですよ? 無駄な衝突を生んで、外交問題に発展して、戦争して、侵略して、色々な国に敵対心を抱かれる未来しか私は思い浮かびませんが……」
私が言う言葉に護衛は黙り込んでしまう。
それはそうだろう、レオンハルトだもの。彼に何を期待しているのか分からないが、戦争が強いとかそんな事で彼を上に据えようなんて浅はかすぎる。
そもそもレオンハルトという人間の酷さをよく知らないのだ、この人は。
それなら分からせてあげよう。
私はパンを勢いよく齧り、高らかに宣言をする。
「いいですか、レオンハルト様とご結婚されたなら王女様が幸せになれると思っていらっしゃるようですが、それは大きな間違いです。少しお付き合いを重ねた私が断言いたします。では、何故レオンハルト様と一緒に居たら幸せになれないのか。1ヶ月……いや、実際によく一緒に居たのはたったの1週間と少し程度ですが、そんな私からご説明いたしましょう」
護衛はごくりと唾を飲み込んだ。
今日の夜は長いぞ、覚悟しておけ。
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