22.新聞
「えらい事になってしまった……」
朝から頭を抱える私と、頬を紅潮させながら興奮するおばあ様とそれを鎮めるおじい様。
せっかくの美味しい朝食の味が全くしない。
「誰よ、こんな事新聞にリークした人……」
パサっと新聞をダイニングテーブルの上に放り投げ、文字通り頭を抱える私。
その新聞を拾って、また広げるおばあ様。
「まぁ~! こんな新聞一面になって! 乙女を巡る二人の争い、ですって! ロマンチックね~」
「訂正の記事要求しなくっちゃ……」
「こんなものが出て、公爵様との婚姻に影響しなきゃいいが……」
そう心配そうに新聞の該当記事を眺めながら、おじい様が呟いた。
影響したところで何も困らないんだけど、という言葉を飲み込んでおじい様にフォローを入れようとする前に、興奮したおばあ様がおじい様の肩をパシーンと叩きながら楽しそうに話す。
「もう! 公爵様がこんなもの気にするわけないじゃないですか、こんなにも愛されているのに!」
おばあ様はそう言った後、該当の新聞記事を広げる。
そこにはレオンハルトが私を抱きしめているように見える昨日のユリアンとのいざこざの様子が面白おかしく書かれていた。
『衝撃! 真昼の愛憎劇 社交界の問題児が起こした次の嵐は、恋の嵐?
「セシリア様を巡る二人の緊迫した空気に空が割れたのです」
そう語るのはこの日教会へ訪れていた敬虔な信者だった。
〇月✕日、社交界の問題児レオンハルト・グランツ公爵がカルム教会の司祭ユリアンに熱い拳を震わせた。二人の争いはある女性を巡ってのものだ。セシリア・ヘイスティングス男爵令嬢。一輪の可憐な花をを巡って二人は熾烈な争いを繰り広げた。この争いを止めたのはセシリア・ヘイスティングス男爵令嬢当人。彼女は先日王立パーティーにて大々的にレオンハルト・グランツ公爵との婚姻を発表している。
家への援助から始まり、マダムベルを貸し切ってでのドレスやアクセサリー等のプレゼント、度重なるデートから公爵のセシリア嬢への深い愛は社交界を騒がせていた。しかし、ここ最近二人の愛が冷え始めたと言う者もいる。傷ついたセシリア嬢の心を癒したのは、カルムの良心であるユリアン司祭。公爵との愛が冷めていくのと反比例して、彼との愛が育まれていったのか。
この恋の嵐の終息はいかに……。』
私は怒りの余り、新聞を床に思い切り叩きつけた。
「バカじゃないの! 空が割れた? そんな事起こるはずもないでしょうが! 大体、誰がこんな記事喜ぶってのよ、政治家の汚職でも追ってなさいよ!」
「ごめんなさい……私、喜んじゃった……」
「あぁ、おばあ様。おばあ様の事じゃなくて……その……ごめんなさい」
静かに謝るおばあ様に慌ててフォローを入れるもうまく言えず、変な空気になる。
そこにメイド達が揃って、私に頭を下げた。綺麗に頭の角度が揃っている。
「申し訳ございません、セシリア様。このような事態を招いてしまいまして。公爵様の訪問が遠退いていた事もどこから漏れてしまったのか」
「いいのよ、こんなの面白おかしくいい加減に書いてるだけなんだし。大体、レオンハルトが悪いのよ。実際アイツがこんな風に書かれる事をして。あなた達は全然悪くないわ、公爵がなんか言ってきたら私が戦ってあげる」
「セシリア様……」
うるうるとした瞳で私を見つめるメイド一同。
大げさだなと思ったけど、そう言えばこの人たち、私に失礼があったら首を刎ねるって言われていたんだった。たしかにこんな反応にもなるのかもしれない。
それにしたって、一番の問題はユリアンだ……。今までも散々迷惑をかけているのに、こんなの超特大級に迷惑に決まっている。司祭様だって結婚できるし恋愛できると言ったって、三角関係だなんてスキャンダルは流石に大問題だろう。どうしたらいいだろうか。
大きくため息をつきながら、私はまた頭を抱える。
「はぁ……巻き込んでしまったユリアン様にも謝りたいけど、今行ったら格好のネタにされちゃうし……取り急ぎ、こっそり手紙でも出せるかしら……」
「それなら私にお任せください、記者や周囲に気付かれないようにお渡しして参ります」
「ありがとう」
「教会の子供達への寄付という名目で、お詫びの品もご用意いたしますね」
「助かるわ」
さすが公爵家のメイド、私の考える一手二手先まで考えてくれている。
私はため息をつきながら、長い長い謝罪の手紙を書き、メイドに持たせた。
メイドは村人の姿に返送して教会へ行くようだ。様子も見てきてご報告しますね、と歩いて教会まで行ってくれるそうだ。こっそり裏口から出て。
とにかく今できる事はこのくらいだろう。私は暗い気持ちが晴れる事なく、執務机に突っ伏した。
しかし、レオンハルトの訪問が遠退いている事をリークした人が居る、みたいな書き方だった事が引っかかる。レオンハルトや私の家の出入りを記者が張っていたのだろうか。でも、それだと『言う者もいる』なんて表現使うだろうか。まぁ、面白おかしく書きたがる記者の事だから読者が楽しめればなんだって書くか、と思いながら、ふとある人物の顔が思い浮かぶ。
……いや、レオンハルトの訪問が遠退いていた事を知っている人がもう一人居た。
私は大きくため息をついた。
これじゃ訂正記事は受け入れて貰えないかもしれないな……。
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