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ただ隣にいたからという理由で俺様公爵の婚約者になっただけなのに、何故か溺愛されています  作者: minori


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20/50

20.涙


 涙が止まらなくなってしまって、ずっとハンカチで目を抑えていると、ユリアン様が優しく背中を撫でながら私が泣き止むのをじっと待っていてくれた。


「いつもずっと一人で背負い込んできたんですよね……」

「ユリアン様、追い打ちをかけないでください……止まらなくなります……あ、これ昨日のお詫びで持ってきたんです。どうぞ」

「あ、こんな時にどうも」


 泣きながらバスケットを渡すと、ユリアンは戸惑いながらも受け取ってくれた。


「焼き菓子と……ヒック……果物です……ごどもだちと一緒にどうぞ……」

「あの、セシリア様。落ち着いてからでよろしいので。お水しかありませんが、すぐにお持ちしましょうか」

「大丈夫です」


 ユリアンの提案を断ったが、一向に落ち着かない私の様子を見て、すっと教会の中へ入っていき、コップに一杯の水を渡してくれた。

 私は水を少しずつ飲み、呼吸を整えていく。泣いちゃだめだと思うのに、そう思うほど涙が止まらなかった。泣いたのはいつぶりだろうか。両親が亡くなったあの日以来だったかもしれない。

 私はコップの水を飲み干し、ふぅと最後に息を整える。空になったコップをユリアンがそっと受け取ってくれた。


「すみません、そんなことを言っていただいたのは初めてで……お水もありがとうございました」

「いいえ、私の仕事はそういう役割も含まれているのでお気になさらず」

「こんなに丁寧に人と向き合う司祭様はユリアン様くらいですよ」

「ははは、そうですかね」


 ユリアンが私の一言に明るく笑った。

 ユリアン、なんて恐ろしいんだ。こうやってヒロインはユリアンにゾッコンになっていくのか。もう村の人たちの中には、既にユリアンに心惹かれている人たちも沢山いるのかもしれない。


「でも、金策ですか……それなら、私も色々と考えることは多いですねぇ」

「ユリアン様もですか?」

「私、というよりは子供達ですかね」

「子供達? ……あ、そうか」

「はい。様々な才能のある子たちを適切な職に導くにも、道が無ければそこに辿り着けませんから」


 教会は孤児院の役割も果たしている。

 教会で働く子も居れば、商人や職人、農民になったりする子もいるそうだけど。教会との連携がうまく取れていないと、なかなかそこまで繋がれないのだ。

 私もヘイスティングスの教会の孤児院と仕事を繋ぐのに、少し苦労した。何せ、仕事自体もうちはそこまで幅広い種類がある訳じゃないので、首都に依頼をかけあってみたり。


「大変ですよね。商人や職人さん、首都にもかけあってみたりしましたが」

「なかなか厳しいですよね」

「うちで何かできればいいんですけどね、それこそヘイスティングスの教会も同じ問題を抱えています」

「どこも、余程豊かな場所でなければそうですよね」


 涙はいつの間にやら引っ込んできた。

 声も落ち着いて出せるけど、今度はまたこの問題に頭を抱える。

 二人でうーんと唸りながら、悩んでいたところ、急に大きな声が飛び込んできた。


「お前、何してるんだよ!」


 声の方を見ると、レオンハルトだった。恐ろしい形相でこちらを見ながら近づいてくる。

 そして、レオンハルトが来るなり、ユリアンを思い切りベンチから突き飛ばした。

 地面に倒れるユリアン。勢いで手に持っていたコップは地面に落ちて割れてしまった。ユリアンの無事を確認しようと、駆け寄ろうとしたところを、レオンハルトに腕を掴まれ、思い切り引っ張られる。そして、レオンハルトの胸に収まった。


「おい、大丈夫か」

「大丈夫も何もユリアン様に何してるのよ!」

「だってお前を泣かしたんだろ」

「泣かされてない! 勝手に泣いて、慰めてもらってただけです!!」


 私の充血した目を見て勘違いしたのか。本当にこの社交界の問題児はなんてことを。

 私たちが怒っている中、ゆっくりと体を起こしながらユリアンが立ち上がった。

 ユリアンの手はコップの破片が手をかすめてしまったのか、血が出ている。私は駆けよって、ハンカチでその手を抑えた。


「大丈夫ですよ。ありがとうございます。誤解をされるような状況を作ってしまってすみませんでした、公爵様」


 ユリアンは私のハンカチを受け取り、傷をハンカチで抑えながら、レオンハルトにゆっくりと丁寧にお辞儀をした。

 こんなバカにそんな態度しなくていいのに、と思っていたが、お辞儀から顔を上げたユリアンの顔はいつもの優しい穏やかな笑顔とは全く違う顔をしていた。真剣で少し怒りを滲ませたような表情をしている。

 私は驚き、一方レオンハルトは憮然とした態度でユリアンをじっと見据えている。


 急なユリアンの態度とレオンハルトの冷たく放つ雰囲気に、私はただおろおろと立ち尽くしかなかった。


読んで頂きましてありがとうございました。

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