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ただ隣にいたからという理由で俺様公爵の婚約者になっただけなのに、何故か溺愛されています  作者: minori


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18.嘘


「悪かったわね、逢引き中に」


 人気(ひとけ)のないところに着き、女性は目深に被っていたマントをすっと取った。

 やはり、予想通りの人物だ。


「王国の輝く星にご挨拶申し上げます」

「いいのよ、そんな固くならないで」


 王女様だ。

 長くウェーブがかった黒髪に陶器のように白く美しい肌。少し吊り目の緑の大きな瞳。紅い唇の下にぽつんとある黒子。声だけだと分からなかったが、口元が見えて漸く記憶の中の女性と合致したのだ。

 相変わらず気の強そうだけど、お綺麗な方。

 今までむしろ平和過ぎたくらいで、彼女の訪問が無かったのは不思議なくらいだった。


「本題から言うわ、レオンハルトは辞めておきなさい」


 王女は冷たい声でそう言った。

 やはりその話か。私としても全然レオンハルトとすぐにでもお別れしたいくらいなのだが、一応王女との婚約解消までは婚約を維持するといった話をしていた手前、はい喜んでー! とも言えない。


 それにしても、バックに豹でも携えているような圧迫感だ。流石王族、プレッシャーの与え方が上手い。私はそのプレッシャーに少し怯みながらも、頑張って反論する。


「嫌だと言ったら……」

「親切で言ってあげてるのよ」


 私が抵抗したような一言を言えば、抑揚のない声で淡々と話す王女。

 怒られるか怒鳴られるかするかと思ったので、少し拍子抜けしてしまった。

 しばらく黙ったままで居ると、王女はふぅと長く息を吐きながら見透かしたような目で私を見る。本当にすべて見透かされているのではないかと思うほどの目線にゾクッと体が震えた。


「しばらく、あの人あなたのところに来てないんじゃないかしら」


 どうして分かったのだろう。

 私が何も言えずにいると、肯定として受け取ったようで目を反らしてくすくすと笑った。


「ふふ、やっぱりね」

「お忙しいのです、きっと」

「戦争もないのに忙しい訳ないじゃない、あの戦争狂が」


 私の一言に、またピシャリと冷たく言い返す。

 まぁ、私も公爵家当主と言えど、1か月も何も音沙汰が無くなるほど忙しいなんて事、確かにあるはずないと思っていたけれど。

 私が黙り込んでしまうと、王女はまた楽し気に笑った。そして、私に近づき、私の鼻を人差し指でちょんと触った。


「いいことを教えてあげるわ、あの人はある目的のためにお前と婚約したのよ」


 ある目的……?

 尋ねようと口を開けようとした瞬間、王女は言葉を続けて私の問いを制した。


「そのうち分かるわ、だから会いにも来ないの」


 王女は私から再び距離を置いて、少し歩いた。

 そして振り返り、私に妖艶に微笑む。


「決してお前の事を好いている訳じゃないのよ。あの人はただの戦争狂。これしか頭に無いんだから。これは親切で言ってあげているんだからね、分かったらさっさと別れなさい」


 王女の言葉に黙ったままでいると、王女は微笑みを消して、冷たい眼差しで私を見る。

 しばらくじっと睨まれたままでいると、その内ふっと笑って私からようやく目線を反らした。


「じゃあ、聞いてみたら良いわ。会いに来なかった期間、何をしていたのか」

「何をしていたか……」

「誤魔化したり嘘をついたら、やめておきなさい」


 誤魔化したり嘘をつかれたところで、私は分かるのだろうか。たった1週間程度の付き合いで。

 王女様の助言について考え込んでいると、王女様はふっと笑ってまたマントを目深に被った。

 

「よく覚えておいて」


 そう言い残すと、王女は手を挙げて従者を呼んだ。

 そして、そのままその従者と待機させていた馬に乗ってどこかへ走り去っていく。

 近くに待機しているなんて気が付かなかった、いや王女が一人で城から出てくる訳ないか。


 ユリアンは大丈夫だろうか、心配していないだろうかと考えながら、元居た場所に戻ろうと踵を返すとけたたましい馬の走る音がした。

 王女様が何か言い残したのかと振り返ると、私はその人物を見て目を見開いたまま呆然とする。馬を走らせてきたのであろう髪を降り乱したレオンハルトがいたのだ。


 思いも寄らなかった人物が目の前に居て驚いた私は、彼の名前をポツリと呟いた。


「レオンハルト……」

「あ!?」

「な、なんですか」

「いや、名前……」

「あ、失礼しました。公爵様」


 つい驚いてゲームの時のように呼び捨てで呼んでしまった。

 私が言い直すと、ピクリと眉を動かし、ふんっと言いながら馬から降りた。

 

「どうかしたんですか、急に」

「花、くれたから」

「……へ? 先週の話ですよ?」

「家に戻ってなくて知らなかったんだ」


 はぁ、随分とお楽しみだったようですね。

 私は呆れた目でレオンハルトを見つめる。1か月も夢中になってしまうほどの誰かさん、想像がつかないが、きっと王女様とは違うタイプの綺麗な方なんだろう。

 考えていたらなんだかイライラしてきた。

 私は強い口調でレオンハルトに話す。


「あのですね、別に会いに来なくても良いですけど、おじい様とおばあ様とメイドさん達が心配するので適当にフォローくらいは入れていただけますか。あ、婚約解消をすぐにしていただくのでも構いませんよ!」

「待てよ、なんでそんな話になるんだよ!」

「だって、新しい方が出来たから来なくなったんじゃないですか?」

「ちげぇよ!」


 レオンハルトがそう怒鳴る。

 私はそのままレオンハルトに畳みかけた。


「じゃあ、なんで来なかったんです? 1ヶ月も。何の連絡もなく」

「それは……」


 レオンハルトの勢いが急に落ちた。

 しどろもどろになって目を反らしながら、少しして一言ぽつりと呟いた、


「ちょっと忙しかったんだよ」


 少し気まずそうに答えるレオンハルトの顔を見て、すっとイライラも熱も冷めていくのを感じる。


「へぇ」


 自分でも驚くほど冷たい声が出た。

 私のそんな様子に、レオンハルトは気まずそうに頭をかきながら軽く謝った。


「悪かったよ。……まだ、少し忙しいとは思う。たまに連絡はする」

「お気になさらず」

「……怒ってるのか?」

「私が? まさか。どこに怒る要素があるんですか」

「あーあー、そうですか」


 いつものように喧嘩のような会話が終わった後、二人でしばらく無言の時間が続く。

 しばらくすると、しびれを切らしたレオンハルトが私に話しかけた。


「乗れよ、送っていく」

「いいですよ、お忙しいんでしょ」

「うるせぇな、さっさと素直に乗れよ。仰る通り、忙しいんだからよ」

「わ、ちょっと! ぎゃっ!」


 レオンハルトは無理やり私を担ぐと馬の上に乗せて、自分の後ろに私を無理やり座らせた。

 私は不安定な馬の上に乗り、びっくりしてそのままレオンハルトの腰にしがみついた。


「もっとしっかり掴まってないと振り落とされて死ぬぞ」

「え、ちょっと!」


 レオンハルトは私の腕を引っ張り、もっと自分の体にきちんと抱き着けるようにした。

 間もなく、走り出す馬。急な勢いにレオンハルトの腰に思い切り抱きついた。

 馬に乗るのは初めてだ、幼い頃にお父様に手を引いてもらって1度だけ乗ったような気もするが、あまり覚えていない。

 頬が風を切る感覚を新鮮に感じながらも、すぐに頭の中で先ほどの王女様の言葉が何度も響く。


『誤魔化したり嘘をついたら、やめておきなさい』


 やめるも何も、そもそも私はレオンハルトを選んでいないのだけど。

 でも、王女様の仰った通り、本当に誤魔化されてしまった。

 一体、1ヶ月もこいつは何をしていたんだろう。


 もやもやと頭と胸が嫌な感覚に包まれる。

 風を感じながら、レオンハルトの腰を更にぎゅっと抱きしめた。ただ不愉快に感じるこの胸の詰まりがなんなのか分からないまま。


読んで頂きましてありがとうございました。

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