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ただ隣にいたからという理由で俺様公爵の婚約者になっただけなのに、何故か溺愛されています  作者: minori


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10.食事会


 友人が、今度彼のご両親と食事会なんだ~やだ~と愚痴っていたのを聞いて、一緒にご飯……しかもお高めのお料理食べるのって良いじゃん。何が嫌なんだろうと思っていた前世の私へ。

 これは苦行です、という来世からの私のアンサーを受け取ってください……。

 いや、私は婚約解消前提の仮初の婚約者なので、演技もしているから私の方が友人より苦行だと思うけど。


「それで! あなた達、どうやって婚約を決めたの? 馴れ初めを聞きたいわぁ!」


 目の前で目をキラキラと輝かせて嬉しそうに尋ねる公爵夫人を見ると心がくじけそうになる。

 すみません、私達仮初の婚約者で王女様がご結婚されるまでの関係なんです、と吐露していまいそうだ。

 今は夕食の時間。

 お茶をして、公爵夫人が私を大層気に入ってくださったみたいで、そのまま夕食もという話になったのだ。流石に断れなかった。

 

 しかし、馴れ初めと言われても……。そもそも婚約しているというのに出会いだったり、細かな設定なんて打ち合わせしたことも無かった。だって、こんな状況になるなんて思わなかったから。

 責任取りなさいよ、という目でレオンハルトを見るとレオンハルトは食事をしながら涼しい顔で一言だけ言う。


「俺の一目惚れだ」


 そう言って、レオンハルトは目の前のステーキを上品にカットして口に運ぶ。

 公爵夫人はそれを聞いて、嬉しそうに頬を紅潮させて笑った。


「あら、やっぱり? セシリアちゃんみたいな子がうちの息子を好きになるはずないと思ったのよ、だって社交界の問題児よ! あはははは!」


 そうレオンハルトを下げながらも、公爵夫人はとても嬉しそうだ。

 そして、息子の社交界の問題児という悪口をこんなにも楽しそうに言うお母様、なかなかすごい。恥ずかしさや申し訳なさも微塵も感じないところが、レオンハルトを感じさせる。間違いなく親子だ。


 レオンハルトは母親にそう言われている中でも、ずっと涼しい顔をしながら食事を続けていた。それにしても、私が場に馴染みやすいようにコイツが気を配らなければならないのではないか……と少々睨みつけるも、レオンハルトは全く気にしていない。なんなら気付いても居ない。

 ……まぁ、公爵夫人がとても賑やかな方だから居心地が悪い訳じゃないんだけど。嘘をついている罪悪感と緊張感を除けば。


「セシリアちゃんのお話は聞いているわ。お父様とお母様を早くに亡くされてから、領主として頑張っているって。今時珍しい実直で真面目なご令嬢さんだって。ご苦労も沢山あったでしょう、本当にご立派だわ」


 公爵夫人があたたかな目で私を見ながら、そう微笑む。

 おじい様やおばあ様には謝られたり感謝をされることはあったけど、こんな風に他の人に褒められた事はなかったかもしれない。

 私ってそういう風に言ってくれる人も居たんだ。

 両親のいない、しかも領地も貧乏で、そんな中あくせく働く事も婚約者がいない事も、後ろ指をさされる事はあっても、こんな風に褒めてくれる人は貴族社会では滅多に居ない。だから、私も関わろうとしなかったし、参加必須のもの以外はすべて出席していなかったけど。

 公爵夫人はそんな私をそう言った貴族の目で見ることなく、こんな風に言って下さる。その後も、私が話しやすい話題を自然と振って下さり、楽しい時間のまま最後に皆でハーブティーを飲んでいた。


 あぁ、幸せだな……。この空間。


 食事も終わり、あたたかくてほんのりと甘いハーブティーを最後に皆で飲みながら、ほっと一息つく。

 これでお義母様とのお食事会ミッションコンプリートだ。その意味でも、ほっと安心する。こんな優しい良い方にずっと嘘をつき続けているのも、なかなか心労にくるのだ。

 ハーブティーを飲み終わり、そろそろ帰るという話を切り出すタイミングで、公爵夫人が窓の外を見て、ふっと気が付いた。


「まぁ、もう真っ暗。なんだか風も結構強いわね」

「あ、本当だ……じゃあ、私お早めに……」

「これじゃ危ないわ、セシリアちゃん。今日はうちに泊まりなさい」


 公爵夫人が心配そうに私を見ている。

 思わぬ方向に進む話に、助けを求めるように今日一切恋人としての仕事をしていない私の婚約者様を見る。レオンハルトは相変わらず涼しい顔をしながら、ハーブティーを上品に飲んでいる。私をチラリと見ると、レオンハルトは信じられない一言を言い放った。


「泊まってけよ」


 何言ってるんだコイツ。

 そもそも、連絡もなしに帰宅しないだなんて、心配するに決まっているだろう。

 私は顔を引きつらせながら、必死に貼り付けた笑顔を維持しつつ、レオンハルトの意見にやんわりと否定する。


「でも、おじい様とおばあ様が心配するでしょう?」

「実家に挨拶するから遅くなるかも、とは言ってある。この風だ、察しはつくだろ。早馬を送ってもいいし」


 用意周到だな。余計に帰れなくなるんですが……。

 もし公爵夫人が目を反らした瞬間でもあればこの男の頭を叩いてやるのに。

 笑顔を貼り付けたまま、そんな事を考えていると、公爵夫人は嬉しそうに手をパンっと叩き合わせて私を見た。 

 

「あら、気が利くじゃない。じゃあ、部屋や入浴の準備をするわね。今日はゆっくりしていって、疲れたでしょう」

「俺の部屋でもいいんだぞ」

「また、この子は。ごめんなさいね。あ、でも急に泊まる事になって心細いかしら。なるべく近くのゲストルームを用意するから。自分の家だと思ってくつろいでね、もう近々自分の家になるんだし!」


 公爵夫人がムフフ、と嬉しそうに含み笑いをしている。

 公爵夫人は私の事をよく気に入って下さったようだ。しかし、近々婚約解消予定になるのに、こんなに喜ばせてしまうのは……。この優しい公爵夫人の気持ちを裏切るような事をするのはとても気が重い。

 レオンハルトはというと、ずっと涼しい顔をしていて、まるで他人事だ。自分が巻き込んだくせに。今日はずっとなんなんだろう、機嫌が悪いし、黙り込んでばっかりだし。

 

「新公爵夫人になるんだから、慣れておけよ」


 レオンハルトはニヤリと挑発的に笑いながら、私を見ている。

 あとで話付けに行ってやらなければ、この自己中ナルシスト俺様公爵に。

 私は額に青筋を浮かべながら、必死に笑顔を貼り付けたままでいた。


 そこにご入浴の準備が出来ました、と静々とメイドの方がやってきて丁寧にお辞儀をした。

 公爵夫人に促され、メイドについていき入浴をさせてもらうことになる。

 ……今日は本当に長い日になりそうだ。

 

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