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雪遊び

 レイがお祭りと聞いても渋い顔をしていた。


「だって寒いの嫌だから」


 グレイシャス国から雪祭りに雪像と氷像のコンクールをするから審査員になって欲しいと依頼がきた。


 雪と聞いただけで震えがくる。


 馬車で使うようにと毛皮の敷物まで送ってきたので、行かないわけにいかない。


 双子を誘うと、ウィステリア領に行きたいと断られた。知らない国よりも友達の方がいいのだろう。


 レイはひとりで向かうことになった。


「姐さんモコモコだな。雪だるまみたい」


 言われると思った。


 全身真っ白。敷物と一緒に送られた毛皮のコートは白だった。


「でもすごく暖かい。毛布を着てるみたいなんだ」


 前回は風邪をひいたが、今回はハリーの助言もあり、快適な旅だった。


「双子はおいてきて正解。雪国をなめちゃいけない。低体温で命を落とすなんてこともあるんだから」


「今回は頼りにしてる。足元にも注意しよう」


 ちらっとヴィンを見ると、知らぬ存ぜぬとそっぽを向かれた。


 グレイシャス国王城に着くと、女王アガーテと夫のヘンリクが出迎えてくれた。相変わらず仲睦まじい。


「結婚式に出席できなくて申し訳なかった。今回は来られて良かったよ」


 レイも品物は贈っていたが、やはり直接お祝いをしたかった。


「お忙しい中、ようこそおいで下さいました。レイモンド様からご提案いただいた雪祭りですもの。ぜひご覧にいれたくて」


 アレス国の姫会でそんな話をしたのだった。


 小規模には行っていたが、今年から観光の目玉にしようと、ヘンリクが頑張って開催にこぎ着けた。


 通された客室は暖炉で暖められ、ひとりでも眠れる。


 でも、廊下は極寒で出入りのたびに着込んだり脱いだりが忙しい。


 コンクール会場は屋外。凍えないだろうかと心配だった。


 ヴィンに懐炉を用意してもらい、毛皮のコートにすっぽり包まれ、レイは一つ一つの像を見て回った。


 凍った地面に足を取られたが、ハリーに支えられて、転んで無様な姿だけはさらさずに済んだ。


 表彰式は城内で行われたので、さすがにコートは脱いだ。


 下にびっしりと着込んでいるのを見て、残念そうな声が聞こえたが、素肌はさらせない。


「期待には応えられないけど、舞踏会では少し頑張るよ」


 広間はなるべく暖を逃がさないように王城にしては天井が低い。だが圧迫感がないように描かれた天井画が素晴らしかった。


 四季折々の風景。花々が咲き乱れ、蝶が舞い、鳥たちがさえずる。天使も描かれていた。


「前回は寒くて、楽しむ余裕はなかったな」


 レイはうちでも真似できないかと顔を上に向けている。


「首疲れるぞ。それに着崩したら、またやり直しだ」


 レイは薄いシャツを幾重にも重ね着していた。一枚一枚色を変えた襟が少しずつ見えるように工夫され、七色の虹のよう。保温効果もある。


 少しでもずれるとレイは違うと最初の一枚から着なおしたので、待たされたヴィンはうんざりしていた。


「ドレスじゃなくても、世界一美人な姐さんどうぞ」


 ハリーが腕を差し出す。


 会場までレイを送り届けたヴィンは、ハリーと交代し、気晴らしだと厩舎見学に行ってしまった。


 会場では初めて見る重ね着衣装に皆が驚き、アガーテも侍女に同じものが作れないか聞いている。


 談笑しているとハリーの元へ騎士団から使いの者が何か耳打ちし慌ただしく去って行った。


 何があったかと聞けば、ハリーに連れ出された。


 厩舎を訪れたヴィンは、雪の中で遊ぶ馬たちを眺めていた。


 あいつが馬服を見たら喜ぶだろうな、アリアンたちに作りそうだ。


 冷たい空気も気持ちがいい。


 ヴィンは頭上にはまったく、気が付かなかった。


「そこの客人、退け!」


 厩舎の屋根から雪を下ろしていた厩務員が声をかけたが遅かった。


 雪に埋まったヴィンはすぐに助け出されたが、数分でも軽い凍傷になってしまった。


「馬馬鹿を直す薬はないかな」


 ヴィンは暖炉で暖められたレイの客室で、毛布にくるまれていた。


 レイは呆れたというが、心配してくれていたのだろう。


 起き上がろうとすると、まだダメと怖い顔で睨まれ、温まるよと、生姜と蜂蜜をお湯に溶かしたものを差し出す。


 今回は何事もなく終わるはずだったのに……迷惑をかけてしまった。


「すまん……」


「それ以上何か言ったらチューするよ。黙って寝てなさい」


「○✕△!!!」


「ずるっ! 姐さん甘すぎ」


「甘くはないよ。ヴィンは治るまでここに居ること。僕らは先に帰るからね」


「ならいいや。ヴィンさんお大事に」


 ハリーも機嫌を直し、アガーテにヴィンを頼むとレイ達は先に出発した。


 窓の外を見ているレイは寂しそうだった。


「姐さんがヴィンを置いて行くとは思わなかったな」


「用も済んだのに僕がいる必要ないし、アランが書類抱えて待ってるからね」


 ハリーはレイを元気づけようと、馬車を止めさせ、少し遊ぼうと外へでた。


「すぐ暖まるからコートは要らないよ」


 それっと雪玉を作ってハリーが放る。


「どっちが遠くへ飛ばせるか競争しよ」


 子どもみたいだなと言いながら、レイもハリーを真似て雪玉を放った。


 しばらく夢中になって遊んでいると、先導していたグレイシャスの騎士が手を振っているのが見えた。


「やばい。姐さん、もうじき吹雪になりそう」


「手がかじかんできたし、しもやけになったかも」


 皮の手袋がびちょびちょに濡れてしまっていた。


「戻ろうか……」



「ただいまって言うのかわからないけど、戻った」


「姐さん、これでヴィンと一緒に帰れるな」


 ヴィンは「お疲れさん」とだけ言った。


 吹雪が続き、レイもグレイシャスにしばらく滞在する羽目になった。

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