双子の悪戯
双子の五歳の誕生日が近づいた。
レイは何を贈ろうか、お祝いはどうしようとそればかりで、書類仕事がはかどらない。
大きな仕事をやり遂げ、レイは肩の荷がおりたのだろう。気を抜くことが多くなった。
「働きすぎて、老けたらどうするのさ」
「今と大して変わらないだろう」
白銀も幼い頃は白髪とからかわれたことがある。自分より年上だろうと返り討ちにした。
お誕生日会は屋敷の庭で行うことになった。雨なら場所を屋内にすればいい。兄たちが建ててくれた屋敷には小規模なら舞踏会もできる大広間もある。
「明日は大勢のお客様が来るそうよ」
子ども部屋でルーとアナは毎夜その日の出来事や明日は何するのか話をする。常に一緒というわけではないので、ふたりにとっては大事な時間。
「アナに背を抜かされたから、ちょっと恥ずかしい」
「次はルーが私を抜かす番よ」
「そうなんだけどね。笑われないかな」
「なら、こうしない」
ひそひそ話をする。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
各々に与えられた部屋へ戻って行った。
ミアがルーを起こしに行くと、毛布の下から白銀の髪が見えた。
フローレンスがアナを起こしに行くと、毛布の下から柔らかい金髪が見えた。
「今日だけお願い。みんなを驚かせたいの」
お誕生日会に服を交換したい、と昨夜から部屋も入れ替わっていた。
「レイモンド様に聞いてみますね」
お客の中には気づかない者もいるかもしれないが、父の目はごまかせない。
「いいんじゃない? ふたりが考えたのなら何かあるんでしょ」
レイは「面白そうだ、楽しみにしている」と伝えてとだけ言った。
「迎えにきたよ。僕の天使たち」
お誕生日おめでとうと抱き上げる。
長い髪を帽子の中に隠したアナがルーの服を。
短い髪をごまかすように髪飾りをつけたルーがアナのドレスを着ていた。
「うん、とっても可愛い。似合うよ」
父にとって服装など関係なく、いつでも可愛い天使たち。
「さあ、みんなにご挨拶をしようね」
最近はグレースと一緒にお茶会にも出ているが、まだ双子の姿を見たことがない者も多い。
ルーは大きな声で挨拶をし、アナも綺麗なお辞儀でお祝いの拍手をもらった。
レイは大人たちのテーブルを挨拶に回る。
「うちの娘をルーカス様の婚約者に」
「将来はアナベル様を我が家にお迎えしたい」
もう争奪戦が始まっていた。レイはそれには無視して、お祝いの言葉だけに礼を言ってテーブルを離れた。
「油断も隙もないな。王家とつながりたいだけだろう」
「そうでもないと思うぞ。見ろよ」
ヴィンが指さす先に、同じような年頃の子どもたちに囲まれた双子がいた。
格好いいとか可愛いとかもみくちゃにされていた。
ハリーが救出に入った。
クローク国の王子がちょっと失礼するよと言えば、子どもたちも大人しく引き下がる。
これがヴィンならおびえて泣き出す子もいたかもしれない。
ハリーが言葉遣いに気を付けて、笑顔さえ見せれば、憧れの王子様なのだ。
「アナベル様、アイラさんがご挨拶に」
フローレンスがアイラを連れて来た。
「お誕生日おめでとうございます。ふたりしてどうしたの?」
アイラにもすぐわかった。「似ているようで全然違うもの」と笑っている。
「前髪は少し出てるけど、大丈夫。ばれないと思うわ」
「たまには僕達もお父様のように変身してみたかったんだ」
この親子、似合うなら好きに何を着てもいいと思っている。
「アイラちゃん、ソフィアおばあ様からお菓子を沢山いただいたの。こっちよ」
ルーに扮したアナが、アイラをお菓子の載るテーブルへ誘った。
今日はメガネを外しているので、アイラが手をつないでくれる。
それを離れたところから、ご令嬢がじっと見ていた。
「美味しいね」
「こっちは半分こしよう」
ふたりが仲良く話していると、燃えるような赤い髪のご令嬢が声をかけてきた。
「そこの方、平民ですわよね。お退きなさい」
後ろには友達なのか三人のご令嬢が、早くあっちへ行きなさいとアイラを急き立てる。
「アイラは友達なんだ。僕が招待した。何がいけないのかな」
ルーを真似たアナが、アイラに退かなくていいと手をつなぎなおした。
それを見たご令嬢が喚きだす。
「平民が貴族と並ぶことは許されませんわ」
アナとアイラは不思議そうな顔で令嬢を見る。
「とにかく手を離しなさい! ルーカス様が汚れてしまうわ」
「あなたは何をそんな怒っているの? アイラの手はとても綺麗だよ」
「お側に置くのは貴族だけでよいのです。特に私なんて叔母様がルーカス様の御父上レイモンド様と婚約なさったこともあるのよ」
だから何が言いたのかしら。父から近寄ってはダメと言われている赤髪のイザベル様のご親戚なら、なおさら聞かなくていいわね。
「アイラちゃん、あっちへ行こう。グレースおばあ様の新作を見に行こうよ」
「お待ちになって! 平民ではなく私をお連れ下さいませ」
面倒な子だ。話を聞いてくれないようだし、それにしつこい。
――困ったわ。
アナはミアに視線を送った。
アナベルに扮したルーカスも、聞きたくなかったと小さなため息をついていた。
アナの靴が合わず、女性用の控室に休みに来ていた。足のサイズはアナより大きい。
中身は男子なので衝立を用意してもらった。
靴を脱いで冷やしているところに、後から入って来てた女の子たちがルーの存在に気づかずに話しだした。
「見た? ルーカス様の髪はまるでお年寄りの白髪みたいだった。金髪って聞いていたけど違ってたね」
「でもお顔はいいし、優しそう。お嫁に行くなら将来有望ってお母様が言ってた」
「お父上の公爵様はよくドレスみたいな服を着てるって聞いたけど、剣を持つと怖いらしいわよ」
「ルーカス様は剣なんて持たないで欲しいね」
ルーカス様に気に入ってもらえるように頑張ろうと女の子たちは出ていった。
「僕はお父様のような騎士になりたいし、白銀の髪は綺麗でとってもいい匂いがして、僕たちは大好きなのに」
ルーはフローレンスに彼女たちの家名を調べるように頼んだ。
ふたりが困っていると聞いたレイだが、もう少し様子を見ることにした。
「ルーカス様、こちらで皆と話しませんか」
今度は男の子たちがアナを囲んだ。公爵家とのつながりを持ちたい親から仲良くしなさいと言われたらしい。
アイラはまた後でと、下がってしまった。
「自分は剣を習っているから護衛候補になりたい」
「勉強を頑張ってるから側近候補なりたい」「名だけでも覚えて欲しい」
仲良くなりたいんじゃなかったのかしら。男の子って大変なんだなとアナは思った。
「アナベル様、ぜひご一緒させてくださいませ」
ルーも女の子に囲まれた。
アナ扮するルーカスに取り入ろうとした赤髪のご令嬢たちはいなかった。
「グレース様に紹介して欲しい」
「ルーカス様に紹介して欲しい」
「アナベル様が一緒ならどこの店に入っても優遇されそう」
アナベルではなく、家門にしか興味がないらしい。お茶会に誘われたけど、アナを行かせたくないとルーは思った。
「ルー、アナ。楽しんだかな?」
父がそろそろお開きの時間だ、挨拶をしてお開きにしようと呼びに来た。
「今日は色々と勉強になりました」
「お父様が小さい頃、お友達がいなかった理由がわかりました」
お誕生日会の感想とは思えないが、父には予想がつく。
皆に礼を言って、父に手をつながれた双子は会場を後にした。
「これからが本当のお誕生日会だよ」
支度しなおした双子が大広間に入って来た。
ルーは体に合わせた騎士服を着せてもらって、どこか誇らしげ。
アナベルもサイズ直しをした、母とおそろいの父が着ていたドレスに着替えて、くるくると回って見せた。
テーブルには双子の大好物が並ぶ。
ソフィアのベリー・ベリーケーキ。
オルレアン侯爵夫人の蜂蜜パンケーキ。
クローク国のサーモンはクラッカーに載せて。
ノアール国からはチーズや牛肉が届き、料理長がハンバーグにしてくれた。
ベネノン国から届いた新鮮な果物は、手品のように目の前で飾り切りにされていく。
祖父母の国王夫妻、伯父たちも一家そろって来てくれた。
護衛たち、ポールとエヴァもいる。
みんなに沢山のおめでとうを言ってもらえた。
セオ夫婦も領から駆けつけて、教会の子たちからと手紙を渡してくれた。
あとで2人の時にゆっくり読もう。
「アイラちゃん。さっきはごめんね」
「大丈夫よ。あのご令嬢が平民をお嫌いでも、うちは構わないわ」
アイラの笑顔が怖い気もするけど、アナベルは気にしない。
「楽しかったね」
「面白かったしね」
今夜も双子は子ども部屋でおしゃべりをする。
この子には注意、この家にも気をつけなきゃね。招待客リストをみながら印をつけていくと、×だらけになってしまった。
「誰も僕たちのこと見てなかったね。背が高くても低くても気にしなくて良かったんだ」
「そうよ。髪色が違ってても誰も気づかないし。また交換しよう」
教会の子どもたちからの手紙を読んで、笑顔が戻る。
「ウィステリアが恋しいわ」
「僕もだよ。友達に会いたい」
また明日ね。それぞれの部屋へ戻った。
レイはミアとフローレンスから誕生会での双子の様子を聞いていた。
「それでも僕に助けを求めなかったか」
父としては頼もしいような、寂しいような。子離れは当分先だ。
アイラを平民と見下した令嬢の伯爵家は困惑していた。
ウィステリア領に本店のある大商会が、お嬢様は平民の作ったものはお気に召さないでしょうと、突然取引をやめてしまったのだ。
何か問題があれば、ウィステリア公爵家に問い合わせするようにとの手紙まで持ってきた。これでは何も言えない。
食料も生活必需品も装飾品も品ぞろえがよく、他で手に入らないものもある。
長年贔屓にしていたのに、どういうことだろう。
娘に聞くとウィステリア公爵の双子の誕生日会で、商会の娘に何か言ったらしい。
令嬢の取り巻きをしていた娘たちの家でも同様だった。
麦も野菜も貴族が汗を流して作ることはない。貴族女性がたしなむ刺繍にしても、その糸は平民が作ってくれたもの。
労い、感謝をしなければいけなかった。
娘達の家は国内でも遠方か、国外から取り寄せることしかできなくなった。
ルーカスは誕生日会の翌日から剣術も勉強も、すごく頑張るようになった。
「僕がお父様のように強くなって、アナを守るよ。それにお父様の悪口言った子は僕がやっつけてくる」
さすがあの父の子だ。黙って引き下がることはしない。
レイも双子に×印をされた家は把握済み。今後関わせることはないだろう。
「双子もやるな。護衛たち使って退けて、家を調べさせるなんてな」
「僕のことをよく見て、考えてるよね。僕が五歳の頃なんて走り回ってただけな気がする」
「俺もだ。食って、寝て、馬見て一日が終わった」
「絶対にグレース様が入れ替え用の服つくるな。変装用の名前考えようぜ」
双子の成長を祝って、もう一度乾杯だ。




