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最高のプレゼント

 王都に戻るとレイは雑貨屋にある調剤室にこもった。


 ハロルドから、待ちわびていた渡り鳥風邪に効くという薬草が届いたのだ。


 添えられた手紙にはレイから教えてもらった機能訓練を続けた結果、以前より右手が動かせるようになったと報告があり、別便でもうひとつ贈り物があると書いてあった。


 レイが長年ためていた研究、ブリジットや薬草士仲間にも知恵をかり、それは出来上がった。


 特効薬ではないが、悪化をかなり防げる。


 体力のある大人用と年寄りや子ども用とに分け、あとは実際に服用してもらうだけだ。


 希望者がいれば無償で配り、経過を観察する。


 複数人の薬草士や医者に観察記録を見てもらい、薬として認可をもらう。


 時間はかかるし、資金も必要だがレイは躊躇しない。


 集中力を切らさないよう、ヴィンもハリーもできうる限りのサポートをした。


 寝食を忘れ没頭しそうになるレイに、片手でつまめる軽食を用意し、わずかな睡眠時間を確保するため周りに物音ひとつ立てさせなかった。


「ありがとう。みんなのおかげで道筋が見えた」


 レイはボロボロだったが、薬草士としてひとつやり遂げたことに、自信と満足感を得ていた。


 長く占領していた調剤室を片付けていると、ポールが大きな包みを運んできた。


 ハロルドからだった。


 何か板のような固いものが入っている。開けてみると額縁に入った絵画だった。


 たわわに実る林檎の樹の下で、楽し気にピクニックをする男女が六人。


 レイは黙ったまま、見つめていた。


「姐さんに俺、ヴィン、ハロルド夫婦とこの後ろ向きの女の子はヴィオラちゃんかな」


 ヴィンがレイの横顔をうかがいながら、ハリーにそっと教える。


「多分、オリビア様だよ」


「ハロルドは昔から絵が上手いんだ。本当によく描けてる。離宮に飾ろう」


 レイは出来上がった薬と絵を持って離宮に向かった。


「おいでよ。私室からの眺めが自慢なんだ」


 レイは夫婦の私室へヴィンとハリーを招き入れた。


 レイは生まれたばかりの双子を抱く若き日の夫婦の絵の下に、薬が入った瓶をそっと置いた。


 ハロルドの絵は壁にたてかけた。


「オリビア、ヴィンセントとハリーだよ。いつも一緒にいる友達さ」


「初めまして。オリビア様。このハリーがレイモンド様をお守りします! だからたまに貸してください」


 ヴィンは何も言わずに手を胸に当て、騎士礼をした。


「君たちをきちんとオリビアに紹介したかったんだ」


 レイがやっと叶ったと嬉しそうに笑う。


 大きな窓を開け放ち、テーブルと椅子を出す。留守を任せている執事にお茶を運ばせた。


 ふたりがよく遊んだ湖がみえる。


「……ここはいいな」


 気持ちよい風が吹き、白銀の髪が揺れる。


「ハロルドは利き手が使えないのに、よく描けたな」


「彼、左利きだよ」


「姐さんは優しすぎる」


 レイが何も言わないから、そうなのだろう。


「ここで新婚生活してたの? いいな、俺も隠れ家的な家が欲しい」


「なかなか来られないのが寂しいよ」


「ふらっといなくなる時に、来てるんだろう?」


 ヴィンにはばれていた。エリオットが教えたんだろう。


 王都から馬を飛ばせば半日もかからない。早朝に出て何食わぬ顔で夕方戻っていた。


「追わないから行く時は言ってくれ。心配する」


「ありがとう」


 ――やっと手に入れた。


 最愛の人に届けたかった薬と心優しい友人たち。


 見えないけど君は隣にいて、願いが叶って良かったねって、僕に笑いかけているだろう。


 青紫の瞳からすうと、一筋の涙がこぼれた。


 あれ、どうしよう止まらないと、レイが困ったような泣き笑いになった。


「ヴィン、姐さんを泣かせるな!」


「何もしてないだろ、おい泣き止め。ゴミか? そうか、目にゴミが入ったんだろう」


 優しい噓にまた、涙がこぼれる。

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