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新しい家族

 バーデット家に泊まったレイは、ヘンリーの執務室でアガサスの使者と会っていた。


 アガサスのアルクの工房へフェリシティから鍛冶見習いを数名受け入れてもらう代わりに、他国へ出さなかったバーデットの馬を渡すことにした。


 アガサスへ連れて行く馬の確認がすみ、握手を交わす。


 これで数年後にはフェリシティー国の鍛冶技術が数段上がる。


 ハリーの鳩が、隣国ベネノンに滞在していたイーデンを見つけ出し連れて来た。


「アグネスに会うのはいつぶりかのう」


 可愛い孫娘と言いながら、ほったらかしにしていた。


「アグネスからは血のつながりはないと聞いたが、事実を聞きたい」


 バーデット家の居間でレイがイーデンに問いただす。


「あれは戦争孤児でしてな。男児と勘違いして引き取ったが、女児だった。一緒に住んでるうちにあれの運動神経がいいことに気づいて、跡継ぎに仕込んではみたが……」


「確かに女性騎士の中では腕はたつ」


 ハリーもそこは同意した。


「何か問題でも?」


「人と関わらないというか、とにかく話が出来ん」


「そのようだね。イーデンが留守の時はどうしていた?」


「近所のばあさんに預けていた。旨い飯を食わすんでアグネスも喜んでいたさ」


 金だけは渡していたので食事には困らなかったが、流行りの服を買い与えることもなく、近所付き合いも友達もなく、野山を好きに駆け回っていたという。


 騎士団に入っても遠巻きにされ、誰とも親しくなれず、たまに話をするのは食堂のおばちゃんだけ。


「まったく。引き取ったなら責任を持て」


 教会の前に捨てられた孤児だって、引き取られた後は大事に育てられているというのに。


 食べものや衣類が足りなくても、司祭やシスターはできるだけの手はかけていた。


「とにかく、この先が心配だ。どこかきちんと世話が出来る者に預けよう」


「なら、うちで引き取るわ」


 いつの間にかヴィンの母アガサが立っていた。


「アグネス。あなた、馬は好きかしら」


「乗るのは得意だし、食べるのも好き」


 裸馬が似合いそうだ。あとで馬肉をたらふく食べさせよう。


「うちは男三人で女の子がいなかったの。今はお嫁さんもいるけど、女の子は何人いても嬉しいわ」


「母さん、それは引き取って娘にしたいって事か?」


「それでもいいけど、行儀見習いでいいかしらね」


「それではイーデンと同じだ。責任をもって世話するなら、養女にすればいい」


 いつになくヴィンが言葉を挟む。


「白い魔女に待てと言われたけど、何を待つのかわからないし、爺ちゃんは好きにしてる。私も好きにしていいなら、ここにいてもいい」


 ハリーと腕組んで楽しそうにしていたから好意はあると思ったが、そうでもないらしい。何も理解していなかった。


 これはアガサに任せるしかなさそうだ。


「なら、娘として一から教えてあげるわね」


 嫌になれば縁組を解いてもいいと、アガサはアグネスを養女にすると決めた。


 ヘンリーも悪い子ではなさそうだし、父が不在で母も寂しいのだろうと反対はしなかった。


 イーデンはもちろん快諾。


「お前は本当に妹が欲しかったのか?」


 ハリーならお断りだ。義理でも縁組したら、一生の付き合いになる。


「お袋が世話して、そのうちに俺の嫁にでもと言われたら困る。その回避のためだよ」


 嫁に押し付けられるくらいなら、妹にして世話した方がよほどいいとヴィンは言う。


「立派なご令嬢になったら、お前の所に行くかもな」


 やられたとハリーが悔しがる。


 どう変わろうがアグネスはアグネスだ。一瞬でもいいかもと思った自分はどうかしていた。


「ところで、アグネスは僕に何の用だったの?」


「髪留めをもらったお礼をしてなかったから。これ、あなたにあげる」


 アグネスが鞄から取り出したものを見て、レイが悲鳴をあげた。


 シラカンバの森で見つけた白い蛇の抜け殻だった。


 レイも森で見たなら珍しいなで終わるが、いきなり女の子の鞄から出てきたら驚く。


 縁起がいいと聞き、それならあの白い魔女にあげようと思い立った。


 ウィステリアに行ったらバーデットにいると聞き、バーデットまで訪ねて来た。


「僕も野生児と言われていたけど違った。僕は少し元気な普通の子どもだったよ」


 抜け殻は森へ返してくるように言った。


 ルーは厩舎で見かけた馬にもう一度会いたいと、父に連れて行ってとお願いした。


「それはできないよ。あの馬はもうここにはいない」


「どこへ行ったの? まさか、殺されちゃうの?」


 レイとヴィンが顔を見合わせる。


「そうと決まったわけじゃないが……」


 ヴィンがレイに代わり答えた。


「どうして? あの馬は悪いことしてないよね」


 馬を飼い続けるための手間や経費など、幼い子にわかるはずもない。


「ルーはあの馬をどうしたいのかな?」


 レイがルーの目を見て、ゆっくりでいいから話すように言った。


「うちで飼いたいです」


「あの馬はシルバーのようなペットではないよ。シルバーだってネズミを捕って役に立つけど、ただかわいがるだけの馬は飼えない」


「オプ君もいるけど、僕が乗る。役に立たせるから殺さないで」


 どうしても頭から離れず、気になって仕方がないらしい。


 レイはおいでとルーを厩舎に連れて行った。やっぱり昨日いた柵の中にあの馬はいなかった。


「こっちだよ」


 レイが帰り支度中のウィステリアの馬車がおいてある一角にルーを連れて行った。


 そこにあの馬がいた。


「小さい馬車なら引けるかと思ってね」


 父が買い取ってくれていた。


「ルーが乗るなら馬車を引くのは、他の馬にしよう」


 乗ってごらんと鞍をつけた馬に乗せてもらった。


 高くて気持ちがいい。


 速くは走れないし、少し臆病なところもあるが、戦争に行くわけではない。移動だけなら十分だ。


「もう名前は決めていたんだ」とルーは馬の首筋をなでる。


「パッチ君、お家へ帰ろう」


 馬の額に白い小さな丸い模様と、黒い体躯もところどころ、白いブチになっていた。


 その後、ウィステリア公爵の若君のように、二頭目を持つならブチ入りがいいと流行った。

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