護衛三人とあの方
レイが戦場に出る前だった。
剣の鍛錬の他、兵法を学ぶために騎士団へ通っていた。
実地訓練で班分けされたときに一緒になったのがあの三人。
「貴族のお坊ちゃんと一緒かよ。セオって呼んで。よろしくー」
先に声をかけてきたのはセオ。大家族、七人兄弟のど真ん中。もまれて育ち、立ち回りがうまい。
騎士団の上役は貴族だが、騎士自体は実力があれば誰でも入団できる。
セオもその中の一人。
見習いのうちは身分差がない。気安く声をかけても咎められない。
「レイといいます。まだ新入りなのでお手柔らかに」
「俺はトーマス。お前もっと筋肉つけろ。へばるぞ」
トーマスは兄貴肌なのか、レイの細腕をつかみ、夕飯の肉を多めにしてやるとか言っている。
「まだ成長期です。トーマスまではいかなくても、そのうち筋肉はつきます」
この時レイは信じて疑わなかったが、成長期を超えてもあまりつかなかった。
「おや随分と品の良い子が来たと思ったら……」
金髪青目のどこかの令息といった感じのリアンがレイをじっと見た。
「なるほどね。私はマリオット子爵次男のリアン。よろしくお願いします」
レイは軽く会釈した。
森に入り敵役の騎士を見つけ出し、捕獲する訓練だった。
「行くか」
トーマスをリーダーに森へ入った。
地面をじっくり観察し草の踏まれ具合や痕跡を探し、トーマスが大体のあたりを付けた。実家が森に近く、狩りと同じだという。
しばらく進むと違う班の四人がいた。
「君たちもこのあたり探しているの? 僕らもずっと周辺歩き回ったけど敵役いないみたいだね。もっと先かな」
「はい、それ嘘!」
びしっと指を向けたのはセオ。
「嘘だなんて。君は味方を疑うの? かわいくないな」
リーダー役らしき男がセオを睨みつけた。
「だって歩き回ったわりには靴が汚れてないし、お疲れでもないみたいだよ」
昨夜の雨で森の中はぬかるんでいた。
レイたちの靴もズボンの裾にも泥が跳ねている。
「今年はなかなかいい子たちが入ってきたかな」
笑いながらも敵役が剣を抜く。
素早く前に出たリアンが、鮮やかな剣技を見せた。倒すそばからトーマスとセオによって後ろ手を縄で縛られる。
ここで訓練は終了。
「お前らが一番のりだな。帰ったら本部にこれ渡せよ」
一と書かれたカード。
敵役は腕をさすりながら、次の班には負けないぞと移動していった。
「三人ともすごかったです。手が出せませんでした」
レイは心からの賛辞をおくる。
「お前、動く気なかったろ」
セオがレイの頭を小突く。
「いいんですよ。大将が出るまでもなかったですし」
リアンがレイの頭にこぶができてないか確かめてくれる。
「よくわからんが、戻るぞ」
トーマスが歩き出した。
しばらく進んだところで不意にトーマスが小声でつぶやく。
「なんかいるな。このまま足止めずに行くぞ」
よく気づいたな、とレイはトーマスを見た。
「念のためですよ」
リアンがさりげなくレイの側へ寄る。
レイは笑みを返した。
「アケビが生ってる! 取ってくる」
セオがリスのような身軽さで、木の上へ登っていく。
「はっ~け~ん! 四時方向に二人、十時方向に三人!」
いつの間にか隣に戻っているセオが皆に告げた。
「本物がいたとはね。手加減なしです」
リアンの横をすり抜けたレイが前に踊りでると、鞘から剣を抜いたと同時に一人目二人目と地に伏す。
「さすがお見事!」
「何あれ? 見えないんだけど?」
「あちゃー。噂のあの方だったか」
リアンも負けじと後に続く。
セオも反対側に走った。
トーマスが投げた短剣が敵の腿に刺さる。
エリオットが騎士団を連れてやってきた。
五人は隣国からの偵察隊。
随分と王都に近いところまで潜り込んだものだ。
「お怪我はないようですね。遅れて申し訳ございません」
「あとは任せるよ」
レイが三人の前に立つ。
「さて君たちは本当に優秀だね。実戦まで見られるとは思わなかったけど」
リアンが丁寧に腰を折る。
「殿下にお褒めいただけるとは、ありがたき幸せです」
いまだ状況が飲み込めないセオは、レイとリアンの顔を交互に見た。
「噂に聞いたことないか? 剣の天才、第三王子レイモンド様だよ。たぶん」
トーマスもリアンに倣い頭を下げた。
「なんかの試験? 俺、王子の頭叩いちゃったよ。懲罰ものかな」
「そんなわけないでしょ。でも逃がしません」
レイはとても満足だった。
騎士団の中に他に強いものはいる。賢いのも。その者たちには通常通り任務を与えればよい。
レイが側に置きたかったのは自分にない発想で考え行動する者。長く側に置くならそれなりに気をつかい合う必要のない者。気の合う奴がいい。
「お前ら、なんで主って呼んでるんだ」
「王子で領主で雑貨屋店主で主。いちいち変えて呼ぶの面倒だから」
「俺らだけの時はレイでもいいな」
「俺も入れてくれるのか。嬉しいよ」
「〈夜明けの空〉を殿下に与えられた者同士。仲良くしましょうね」
その夜、ヴィンはレイに〈夜明けの空〉について聞いてみた。
「あれは僕の象徴石。エリオットと君らだけに渡してます。少しづつカットが違うんで識別できるんですよ。ちょっと困ったときに質に入れてよし。敵に捕まった時に賄賂で渡してもよし。逃走資金にもできる。君たちに万が一のことがあれば、石をたどって地の果てだって犯人を逃しません。でも、悪いことに使ってもばれますからね」
ほのぼのと言うが、目は笑ってない。
レイの独占欲を見たような、主従愛を見たような。
絶対に失くせないと思うヴィンだった。




