護衛3人とあの方
まだレイが14歳。戦場に出る前だった。
剣の鍛錬の他、兵法を学ぶために騎士団へ通っていた。実地訓練にと班分けされたときに一緒になったのがあの3人。
「貴族のお坊ちゃんと一緒かよ。セオって呼んで。よろしくー」
先に声をかけてきたのはセオ。大家族7人兄弟のど真ん中。もまれて育ち、立ち回りがうまい。
騎士団の上役は貴族だが、騎士自体は実力があれば誰でも入団できる。セオもその中の1人。見習いのうちは身分差がない。気安く声をかけても咎められない。
「レイといいます。まだ新入りなのでお手柔らかに」
「俺はトーマス。お前もっと筋肉つけろ。へばるぞ」
トーマスは兄貴肌なのか、レイの細腕をつかんで夕飯の肉多めにしてやるなとか言ってる。
「まだ成長期です。トーマスまではいかなくても、そのうち筋肉つきます!」
この時レイは信じて疑わなかったが、成長期を超えても筋肉はあまりつかなかった。
「おや随分と品の良い子が来たと思ったら…」
金髪青目のどこかの令息といった感じのリアンがレイをじっと見る。
「なるほどね。私はマリオット子爵次男のリアン。よろしくお願いします」
身ばれしてるなと、レイは軽く会釈した。
実地訓練は、森に入り敵役の騎士を見つけ出し捕獲するだった。
「行くか」
トーマスをリーダーに森へ入った。
地面をじっくり観察し草の踏まれ具合や痕跡を探し、トーマスが大体のあたりを付けた。実家が森に近いらしく狩りと一緒だという。
しばらく進むと違う班の4人がいた。
「君たちもこのあたり探しているの? 僕らもずっと周辺歩き回ったけど敵役いないみたいだね。もっと先かな」
「はい、それ嘘!」
びしっと指を4人に向けたのはセオ。
「嘘なんて、君は味方を疑うの? かわいくないな」
4人のリーダー役らしき男がセオを睨みつける。
「だって歩き回ったわりには靴汚れてないし、お疲れでもないみたいだよ」
昨夜の雨で森の中はぬかるんでいた。レイたちはここまでくるのに靴もトラウザーズの裾にも泥が跳ねている。
「今年はなかなかいい子たちが入ってきたかな」
笑いながらも敵役4人が剣を抜く。
素早く前に出たリアンが、鮮やかな剣技を見せる。倒すそばからトーマスとセオによって後ろ手を縄で縛られる。
ここで訓練は終了。
「お前らが1番のりだな。帰ったら本部にこれ渡せよ」
1と書かれたカードを渡してくれた。敵役4人は腕をさすりながら、次の班には負けないぞと移動していった。
「3人ともすごかったです。手が出せませんでした」
レイは心からの賛辞をおくる。
「お前動く気なかったろ」
セオがレイの頭を小突く。
「いいんですよ。大将が出るまでもなかったですし」
リアンがレイの頭にこぶができてないか確かめてくれる。
「よくわからんが戻るぞ」
トーマスが歩き出した。
しばらく進んだところで不意にトーマスが小声でつぶやく。
「なんかいるな。このまま足止めずに行くぞ」
よく気づけるなとレイは関心してトーマスを見る。
「念のためですよ」
リアンがさりげなくレイの側へ寄る。レイはありがとうと笑みを返した。
「ちょっとあの木の上にアケビ生ってる! 取ってくるね」
唐突にセオがリスのような身軽さで木の上へ登っていく。
「はっ~け~ん! 4時に2人、10時に3人!」
いつの間にか隣に戻っているセオが皆に告げる。
「本物がいたとはね。手加減なしです」
リアンの横をすり抜けレイが前に踊りでると、鞘から剣を抜いたと同時に1人目2人目と倒す。
「さすがお見事!」
「何あれ? 見えないんだけど?」
「あちゃー。噂のあの方だったか」
リアンも負けじと後に続く。
セオも反対側に走った。
トーマスが投げた短剣が敵の腿に刺さる。
エリオットが騎士団を連れてやってきた。
5人の本物は隣国からの偵察隊。随分と王都に近いところまで潜り込んだものだ。
「お怪我はないようですね。遅れて申し訳ございません」
「あとの処理は任せるよ」
「さて君たちは本当に優秀だね。実戦まで見られるとは思わなかったけど」
リアンが丁寧に腰を折る。
「殿下にお褒めいただけるとは、ありがたき幸せです」
未だわけわからないセオは、レイとリアンの顔を交互にみる。
「噂に聞いたことないか? 剣の天才第3王子レイモンド様だよ。たぶん」
トーマスもリアンに倣い頭を下げた。
「なんかの試験? 俺、王子の頭叩いちゃったよ。懲罰ものかな」
「そんなわけないでしょ。でも逃がしません」
レイはとても満足だった。
騎士団の中に他に強いものはいる。賢いのも。その者たちには通常通り任務を与えればよい。
レイが側に置きたかったのは自分にない発想で考え行動する者。長く側に置くならそれなりに気をつかい合う必要のない者。気の合う奴がいい。
「お前ら、なんで主って呼んでんの」
「王子で領主で雑貨屋店主で主。いちいち変えて呼ぶの面倒だし」
「5人だけの時はレイでもいいな」
「俺も人数入れてくれんの。嬉しいよ」
「〈夜明けの空〉を殿下に与えられた者同士、仲良くしましょうね」
その夜、ヴィンはレイに〈夜明けの空〉について聞いてみた。
「あれは僕の象徴石。エリオットと君らだけに渡してます。少しづつカットが違うんで識別できるんですよ。ちょっと困ったときに質に入れてよし。敵に捕まった時に賄賂で渡してもよし。逃走資金にもできる。君たちに万が一のことがあれば、石をたどって地の果てだって犯人を逃しませんが、君たちが悪いことに使ってもばれますからね」
ほのぼのと言うが目は笑ってない。レイの独占欲を見たような、主従愛を見たような。
絶対失くさないように気を付けようと思うヴィンだった。




