事件その後
王都へ戻りまた日常が始まった。
朝は双子と朝食をとり、午前中は執務室にこもる。
昼食は時間があればとるし、なければハリーに軽食を頼んだ。
そのまま雑貨屋にこもる日もある。
夜は双子が寝るまで一緒に過ごし、また執務室にこもる。
そう、ヴィンとはあまり顔を合わせていない。ヴィンは毎日騎士団に通っていた。
「そろそろヴィンにすねるのやめて欲しいって、言ってきて」
「疑惑をきちんと否定しない方が悪いっしょ」
チュー事件。あれは本当にシルバーの仕業で、ヴィンは濡れ衣だったらしい。
シルバーはよく、レイの顔をペロッと舐めるにくる。ついでに唇も。
なのにハリーに男としてどうなのか、意気地なしとなじられ、皆に散々からかわれ、ヴィンはすねまくっていた。
ミアに「顔を赤くしたのはなぜ?」と暴露された。ちょっと想像して……と言ってしまったから余計に気まずい、恥ずかしい。
困った男だ。意固地になっている。仕方ない僕が迎えに行こうと、レイが立ち上がった。
「ヴィン、もう遅いよ」
あたりは暗くなっているのに、ヴィンはまだ汗を流していた。
「もう少し」
「一緒に帰ろうよ」
主を長く待たせるわけにはいかない。帰り支度をしてくるとヴィンはひとり更衣室へ行ってしまった。
まだご機嫌斜めか。
「一度王都の酒場に行ってみたい。いいでしょ?」
「ハリーがいない。俺ひとりじゃない方がいいだろ」
「ふたりで行きたい」
もうこの流れはなんだよと思いながら、騎士仲間に以前聞いた店に案内した。
頭をすっぽりと覆うフードはお断りなんて店があるのは、調べ済みらしい。
レイは木綿の服に、髪を帽子の中に隠し、おしゃれメガネで変装していた。行く気満々で用意してきたんだな。
いまさら機嫌など、取らなくてもいいのに。
ヴィンは楽しげに隣を歩くレイに、ため息をついた。
温泉村では気安く入る酒場も、王都ではなかなか入る機会はない。
レイが来ているとわかれば、客全員に酌されるか、全員が店を出てしまうかだ。
レイの来店を迷惑と思うか、名誉と思うかは店主次第だが、まあ後者だろう。
キョロキョロと物珍しそうにしているのがちょっと可愛い。いや、今夜はそれダメなやつ。俺は護衛だ。
注文はすべて任せるとメニューを渡された。てきぱきと言わないと笑われるからと笑う。
乾杯は度数の低い酒で、つまみは適当にナッツや野菜スティックを頼んでやった。レイは味の濃いものを好んでは食べないが、自分用に塩気のある肉をがっつり頼む。
「それ一個、ちょうだい」
唐揚げを指さす。串に刺して渡そうとすると、受け取らずに、口を開けてパクンと食べた。
白フクロウ? これはシルバーか?
頬を膨らませてもぐもぐ食べるのが面白くて、次々に串に刺して食べさせた。
「もうお腹いっぱい」
相変わらず小食だ。じゃあ、飲めと追加で酒を頼む。
騎士団で聞いた面白い話、失敗談を話すとレイはニコニコと聞いている。
まずい、返事をしなくなったってことは、こいつ、もう寝そうだ。辻馬車でも拾うかと店を出た。
「歩こうよ」
外の冷たい空気に、目を覚ましたレイが歩き出す。
「……んん……」
鼻歌を歌っている。珍しいことがあるものだ。
「お前、楽器はからきしと兄殿下が言ってたな。あのヴァイオリンはどうした?」
「あれ。あれはねー……んん……」
また鼻歌。よく聞くと子守歌みたいだ。
「あれはオリビアを驚かすために猛練習した」
「そうか」
「でも一度も聞かせられなくてさ……」
切ない表情から察するに、闘病生活を少しでも忘れられるように、練習したのだろうか。
「だから、僕が人前で演奏したのはヴィンが初めてだね」
「上手だったぞ」
途中で「もう無理」とふらつくレイを担ぎ、雑貨屋の仮眠室に寝かせた。
今夜はこれで護衛の仕事はしまいだ。
後はプライベート。何をしようと俺の勝手。
メガネを外し、帽子をとると、シーツに白銀が広がる。白銀の髪をすくい、唇を寄せる。
「俺にはこれで十分」
ヴィンも隣の部屋へ休みに行った。




