飲み足りない面々
目覚めたヴィンは羞恥で、顔を真っ赤にしていた。
ぐっすり寝て、気持ち良く目覚めたら、腕の中にレイがいたのだ。腰を抜かしそうになるほど驚いた。
レイもウトウトしていたが、ヴィンが動いて目が覚めた。
「困ったな。こんなに求められているとは、知らなかった」
甘い声で言われると、どうしていいかわからない。
「いや、違う、寝ぼけてた? 俺、何もしてないよな」
「どうだったかな。ハリーにはばれてるからね」
ふふふとレイが起き上がり、着替えるからと、ヴィンは外に出された。
「おい、酔ったふりして姐さんを独り占めするなよ」
廊下に出るとハリーが仁王立ちして待ち構えていた。
「してない! 誓ってわざとじゃない」
「罰として、今夜は酒抜きな」
「……わかった」
失態は繰り返せない。今夜は酒の香りだけで十分だ。
晩餐は食事というより、酒と酒に合わせた料理で埋め尽くされていた。
「バール流のおもてなしですよ」
軽い発泡酒で乾杯した後は、好きな酒を好きなだけ出してもらえる。
「だから、ここに寄るのは避けたかったんだ」
ハリーから酒抜きを言われていたのに、ちゃっかりヴィンも飲んでいるし、リアンまでつぶれかかっている。
「レイモンド殿の口には合いませんでしたか」
国王が勧める酒を断り、レイは果実入りのアルコールの薄いものをなめるように飲んでいた。
「護衛達があのざまなのでね。でもこれも美味しいです。女性むけにいい」
「不思議な方だ。偉ぶらず、護衛の心配までする」
「僕の言うことを黙って聞くような者はいらないし、彼らがいなければ、僕は何もできない。嫌われないようにしないとね」
「それに村の者を無償で助けてくれたとか。医者不足で命を落とす者も多い。感謝します」
「薬草の知識も、あるなら使わないともったいないからね。それより容体は落ち着いただろうか」
「あの者は腕のいい職人で、最近自分の蔵を持ったばかりでした。……そうだ、これはあの職人が作った酒ですよ」
まだ瓶にはラベルも貼っていない。
グラスに注がれ、レイの前に置かれた。
「……香りがいい。それにまろやかでのど越しがいいね」
レイがゆっくりと口に含んでいると、「お前には強い」と横からヴィンにグラスを奪われた。
それをまたずるいと、ハリーと喧嘩になる。
「ね。僕がしっかりしていないと、大変なことになる」
「そのようですな。明日もう一度診察をお願いしたい。あの職人は失いたくないのですよ」
国王も気にかけるほどの職人らしい。
翌日、昼も過ぎてやっと起きて来た三人を連れて、レイは職人の家に行った。
痛み止めが効いたのか、顔色は随分と良くなっている。
「もうしばらくはこのまま。飲み薬は痛みが引いてきたら一日一回でいい」
「ありがとうございます。このご恩をどうお返したらいいのか」
「なら、ご主人の酒を僕に売って欲しい。昨日飲んだら、すごく美味しかったよ」
「光栄です! 最短でも三年ほどお待ちいただきますが、フェリシティ国に必ずお届けします」
「ラベルは、まだできてないのかな」
「独立したばかりで、まだ何もできていないのです」
「良い絵を描く者を知っている。ちょっと遠くにいるから、時間はかかるけど、高額にはならないよ」
「誰に依頼するか悩んでいたので助かります」
「樽に使う木材もこのハリー王子がクロークのものを格安で提供してくれるはずだよ」
「うちにも卸してくれるなら、喜んで提供するぞ」
「何から何まで、本当にありがとうございます」
「楽しみに待っているよ」
数年後、幻と言われる酒造り職人に出会えたことになるとは幸運だった。
残っていた数本を分けてもらい、レイ達はバールを後にした。
「ハロルドに頼むのか?」
二日酔いから醒めたヴィンヴィンがレイに尋ねる。
「そうだよ。彼に頼みたい。きっといい仕事をするよ」
「うちの瓶詰めのラベルは、姐さんが書いてくれたから文句ないけどさ……」
ハリーは口をとがらせ何か言い足りないようだ。
「ないけど、何?」
「扱いがちょっと軽くない? とにかく俺は、姐さんが足りない!!」
「よくわからないけど、今夜はみんなで寝ようか。それで良い?」
「隣ならいい」
「なら私も主の隣がいい」
リアンまでのってきた。
野営だったが、焚火を囲み、酒盛りして大騒ぎした四人は雑魚寝した。誰にも迷惑はかけていない。
一番年上のローガンは、やんちゃな四人のために、朝まで火の番をした。
「……私もウィステリア騎士団に移ろうか」
誰も聞いちゃくれない独り言は、夜風がさらっていった。




