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剣術大会 四日目

 すでに決勝戦のような試合運びとなった。


 ヴィンとハリー。


 ふたりの対戦は、迫力が違った。


 相手の得意技も癖も把握済み。


 刃が重なるたび、剣戟が響き渡る。


 力でも押し負けない、もう終わりがないのではと思うほど長い時間を戦っていた。


 レイはどちらにも勝って欲しい、負けても欲しくない。


「さすがね。あなたの騎士様は」


 リリアが貴賓席から降りてきて、レイの隣に立つ。


「僕はすごく嬉しいんだ。敵だった者が今は仲間で、敵だった国も、疎遠だった国もこうして集まって、殺し合いじゃない試合を楽しんでいる」


「そうね。みんなが楽しそうだわ」


「平和っていいよね。知らない土地の美味しい物食べられてさ。寒い国、暖かい国、花や湖の美しい国。色々な景色が見られる」


「温泉も最高よ」


「僕らの子ども達が大きくなる頃には、戦争なんてない世界になって欲しい」


「そうあるように、頑張らないとね」


 だから今この人は、面倒だと言いながらも必死になって、あちこちに首を突っ込んでいるのだろうか。


 厄介ごとを引き寄せている気もするけど。


 隣に立つ白銀の髪をなびかせている美人さんの顔は見えないが、きっと今は笑っているはずだ。


「この景色。……ずっと見ていたいな」


 それは目の前の景色なのか、未来なのかはわからない。


 欲張りな王子様は両方をご所望だろう。


「そろそろ勝負がつくな」


 やけになったハリーの剣を、ヴィンが大きく振りはらった。


 レイはふたりに近づくと、お互いの手を握らせ、その上から自分の掌で包み込んだ。


 そしてふたりの健闘を称えた。


 次もレイにとっては大事な大一番になった。


 リアンとローガンが当たり、フェリシティ騎士団きっての強者勝負となった。


 客席からの応援がリアンに偏って多い気がするが、そんなことでぶれるふたりではない。


「お願いします」と騎士礼から始まり、見ごたえのある試合となった。


 静かに、厳かに。


 リアンが先に膝をつき勝敗は決まったが、どちらが勝ったかなど、どうでもいい。


「ありがとうございました」と騎士礼で終わった。


「素晴らしいな。剣の試合なのに、なにか演劇を見た後のようだ。フェリシティとだけは戦争したくない」


 いつの間にか隣に立っていたジョージ王子が拍手をしている。


「でしょ。うちの騎士たちは、みんな強いよ」


 次はレイの番だ。


 相手はダレンの騎士団長で、地元ダレン国民からの声援がものすごい。


 敵陣のど真ん中に立っているようだ。


「気をつけろ。あいつの剣も速いぞ」


 ヴィンは二回戦目の時に試合を見ていた。


「お茶とおやつ用意して待ってて。すぐ終わらせる」


 ――風を切る音がした。


 レイの宣言通り、――秒で終わった。


「なにが起きた? 始まったんだよね?」


 尻もちをつくダレン騎士団長に、観客、選手席からも戸惑いの声が聞こえる。


 開始の合図で、始まったと思ったら、終わっていた。


 そろそろ本気じゃないと勝てないとレイが一閃を仕掛けたからなのだが、初めて見る者が驚くのも無理はない。


 騎士団長は神業と言われる速さに、目の前で剣が横切ったような気がしただけで、実感がないが、審判の判定に異論はない。


「私ごときに本気を出してくださるとは光栄です。次こそは白銀の一閃と剣を交えたい。鍛錬します」


 お互いが握手を求め、次が楽しみだと笑い合った。


 髪も服も全身よれよれになったレイが、「もうだめ」と、ヴィンにすがった。


「ほら、肩に手を回せ」


「姐さんお疲れー」


 リアンも椅子を引いて、お茶を出してくれた。


 試合後に「すごい、さすが」とクリフの選手団に囲まれもみくちゃにされた。


「あの集団怖い。試合より疲れるってどういうことだろ」


「〈レイモンド姐さんの親衛隊〉だっけ? 有名税だ。諦めろ」


「ここで誰かが優勝してくれたら、離れてくれるかな」


「無理だと思うよ。べた褒めしてた」


「ところでさ。君たち、負けた方が僕の好きなところを三つ言うって本当?」


 しゃべったのはあいつらだ。姐さん呼びまで真似して。


「クリフをとっ捕まえて、説教しに行く」


 ハリーが出ていこうとした。


「ハリー王子は約束破るのかな」


 レイが言うまで、離さないとハリーを捕まえた。


「いくらでも言える! 上目遣いで小首かしげてハリー様って言って、笑うとこ!」


「それ主なの? ヴィオラちゃんでしょ」


 リアンがあとは主にしなよと囃し立てる。


「あの反則剣技は外せない」


 それには全員納得。


「あとはヴィンに甘えるとこ。完全に菓子で餌付けされてるな。すごく羨ましい」


 ハリーが子どもの頃に飼っていた白フクロウに、見た目も、首をかしげる仕草も似ているらしい。


 すごく可愛いがっていたのに、カラスに襲われて逃げ出し、今はいない。


「フェレットの次は白ふくろう……」


 レイはちょっと複雑。


 フェレットは可愛い、白フクロウは一度肩に乗せてみたい。


「……僕は白い生き物の仲間なのか」



 寝支度を終えたレイがヴィンをじっと見ている。


「もう部屋に戻るが、なにか用か?」


「君が僕のどこが好きって言うのか、考えていた」


「俺は負けていない」


「そうだね。だから無理には言わせない」


「ひとつだけなら。寝ているときは、無駄口叩かないから好ましいな」


「あとふたつは楽しみにとっておくよ」


 レイはにこっと笑い、お休みと寝台に潜り込んだ。

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