剣術大会 中休みも大忙し
選手を休ませるために試合は一日休み――とは名ばかりで、ダレンにこのお祭り騒ぎを早々に終わらせる気はない。
各国の特産品を見に、レイたちが展示会場に足を運ぶと、お国自慢を並べた会場内は熱い商戦が繰り広げられていた。
フェリシティのブースに顔を出したレイは、「新商品、並べておいて」と係に渡す。
涼し気な色のミント飴。瓶の口には可愛くリボンが結ばれている。
ダレンが思った以上に乾燥していて、レイが救護室のすみで、ちゃっかり自分用と売り物用にのど飴を作っていた。
目ざとく見つけたご婦人たちが人だかりを作る。
「レイモンド様がご来場!」
伝言ゲームのように広がり、フェリシティのブース周りは、大混雑で警備員を増員しても足りない。
人がはけないうちにと、レイが台の上に立ち、精緻な刺繍の入ったウィステリア染めの布を肩にかけ、ちょっとしたファッションショーを行った。
「すごく素敵」「反物で欲しい」と次々に注文が入る。
さすが雑貨屋の美人店主は商機を逃さない。
警護に立つヴィンやリアンにも人だかりができ、警備員からクレームが来たので、一旦離れることにした。
クロークの魚の瓶詰めはあまり売れていなかった。
魚をただ皿に盛ってあるだけ。誰も寄り付かない状態だった。
仕方ないなと、レイが美味しそうに試食するが、これだけではまだ人を集めるには足らなかった。
係を呼び、小さく切ったパンに魚をのせ、ハーブを飾り、配らせた。
すると同じ魚なのに、試食に手を伸ばす人が増えた。
「これは舌の肥えたお客様にも出せる」
来場していた料理人たちが、あれこれレシピを話し出す。箱で購入したい者が列を作り始めた。
「さすが姐さん、用意したもの全部売り切れそうだ」
「さすがじゃないよ。売る気あったの? 明日はトマト煮でも作って配りなよ。あれは僕も好きだから売れるよ」
「よし、今から市場行ってくる!」
ハリーは選手たちを引き連れ、駆け足で飛び出していった。
「ここは問題ないね」
畜産業の盛んなノアールのブースには、ソーセージを頬張るリリアの婚約者ボビーがいた。
胸やけしそうな量だが、幸せそうに食べるのを見ていると、幸せな気分になる。
黒いエプロンを着けたリリアがソーセージを焼いていて、注目を集めていた。
香ばしい匂いに誘われ、購入する客は多い。
だが、お姫様の手料理に手を伸ばしづらいのか、試食はすべてボビーの腹の中に消えていく。
「リリアもお料理するようになったの?」
「ナイフは使わせてもらえないし、今だけよ」
ボビーに美味しいと言ってもらえるのが嬉しいのと頬を染める。
「レイもどうぞ」と差し出され、焼きたてのソーセージをもらうが……一口でやめた。
「リリア、塩振りすぎ! ボビーが病気になるよ。試食品回収して」
「えっ!」
青ざめ、ボビーの皿を奪い取るリリアがすごくかわいく見えた。あとでお腹がすっきりするお茶でも届けようと思った。
ダレンのブースにはジョージ王子が、さわやかな笑顔でおもてなしをしていた。
「うちのオリーブとチョコレートも美味しいよ」
ピンに刺したオリーブの実と色々な形のチョコが目を引く。
「これすごく美味しい。いくらでも食べられそう」
レイの手が止まらない。
「ワインが欲しいね」
「もちろんあるよ。どうぞ」
辛い料理ばかりと思ったら、こんな美味しいものもあったと、立ち飲みを始め、動く気配がない。
ワインでほんのり顔を赤くしたレイにつられ、人がどんどん流れて来た。
寛ぐレイの姿に、淑女たちがため息を漏らしていた。
「飲みすぎるなよ」
「だってここに来てやっとゆっくりできた。少しくらい、いいでしょう?」
酔っぱらった白銀の王子なんて見せたくない。
リアンがレイの耳もとで何かささやく。
「……」
レイは残念そうに、土産を買ってヴィンに渡した。
「何を言ったんだ?」
「食べ過ぎると吹き出物ができるって教えただけだよ」
「なるほど、その手があったか。覚えておこう」
ジョージはレイが去ってしまい残念そうにしていたが、「白銀の一閃レイモンド様も買ったチョコだよー」大声で客を呼び寄せた。
酔い覚ましに街を歩き、ゲストハウスには、夕方戻った。
今日はさすがに呼ばないで欲しいと言ったのに、救護室から応援要請があった。
「サイラス、君はどうして大人しくしていられないの?」
「すみません。レイモンド様の手を煩わせることになって反省してます」
「僕は薬草士で、医者じゃない」
「レイモンド様の治療なら怖くないです。たぶん」
「縫合は二度だけ。大丈夫かな……」
それも犬と猫だけだ。レイも少し不安だった。
大男のくせに縫うのは怖いとか言って暴れた。傷がさらに広がるし、医者は怒って帰ってしまった。
仕方がない。ここは縫合の練習台になってもらおう。
「はい、そこに寝て。消毒したら部分的に麻痺させる薬を塗るよ。全員でこれ押さえて」
白衣に着替え、自身も消毒を済ませたレイが早く済まそうと、付き添うカステルの選手にサイラスの体を拘束させた。
「怖いなら目をつぶって。途中暴れたら縫うの止めるからね」
サイラスは「わかりました」というがどうも怪しい。本当に怖いのだろう。結構可愛いところあるじゃないか。
左腕を三針縫った。ギザギザにならず、ほっとした。
顔だったらもっと慎重になっただろうが、腕なら隠せるし、本職じゃないと言ってあるから、傷が塞がれば大丈夫だろう。
「抜糸まで十日かな。それまでは大人しく。くれぐれも動かさないように」
涙目になりながら、大男は痛み止めの薬をもらい、仲間に連れて行かれた。
「今夜は、なに?」
ヴィンが椅子から立ち上がらない。
「お前のことだ。サイラスの様子を見に行くだろう」
「夜中に目が覚めたら行くかも」
「アーチーに頼んだ。何かあれば起こすが、それまでは休んでろ」
「ありがとう。それならヴィンも休めるね」
ヴィンが様子を見に行ったらレイがまた気にする。
アーチーなら試合がないので問題ない。
レイが寝台に入るのを見届け、ヴィンも部屋へ戻った。




