リアンの休暇はまだこない
「リアンだけずっと待機でごめんね」
「お供させていただいただけでも、私は満足ですよ」
「僕もリアンがいるだけで心強いよ。頼りにしているよ」
ヴィンはそれを黙って聞いていた。
「工房を見学することになった。帰国は三日延ばすよ」
レイの機嫌を直すために、門外不出とまで言われるアルクの剣造りを見せることにした。
「了解です」
リアンが敬礼した。
「でも……時間がなくて双子のお土産を選びに行けないんだよ」
少しがっかりした様子は演技なのか、本心なのか。
「それなら、このリアンにお任せを」
「助かる。アナにゼンマイ仕掛けの人形を頼めるかな」
「さぞや喜ばれるでしょうね」
「ルーには本がいい。自分でできそうな工作の本とか図鑑はどうだろう。これはトーマスにお願いしよう」
「主、見繕って数冊買っていいか?」
「もちろん。お願いしたい」
セオも勘づいた。
二人は今すごくいい気分で、何でも「はい」と言いそうだ。
「それと、もうひとつ。リアンに任せたいことがある」
「もちろんです! なんなりと」
「ここの騎士団が、どうしても白銀の一閃と手合わせしたいって、国王からも頼まれてさ」
「それは無理です。遠目にしか影武者は通用しない」
「だよね。じゃあウィステリア騎士団の団長として相手してやって」
こっちが本題らしい。
「承知いたしました」
「トーマスも一緒にね」
「……セオの敵をとってやる」
レイにやりすぎるなと言われ、トーマスはかなりがっかり。
「俺は?」
「セオはアガサスの眼科医に診察を頼んである。違う診断が出るかもしれない。診てもらおう」
アガサスも独自で医療はすすんでいる。希望があるかもしれない。
「ダメもとでもいいや。診てもらうよ」
医者嫌いだなんて言ったら罰が当たる。セオがぐすんと鼻をすすった。
いい話で終わらせるのは策なのか、天然なのか。
「ヴィンとハリーは僕についてきて」
「ついて行くだけ?」
ハリーが身構える。
「俺じゃ、剣作り見てもわかんないけど」
「僕らの新しい剣を作らせる約束も取り付けたから」
「やった!」
「俺のもか」
ヴィンもそろそろ新しい剣が欲しかった。
「どれほどの技術が試したい。違うタイプの剣三本あればいいだろう」
「なるほど。了解だ」
リアンはアナのために、精巧な人形を選んだ。
シルクのドレスをまとう踊り子。音に合わせ、クルクルと輪る。
「すごいな。これはアナ様が喜ぶ」
高価だが気にしない。
もうひとつ手頃なものを選んだ。自分からの土産だ。
首をかしげる様子が可愛らしい小鳥。
喜ぶ姿を思い浮かべて、にやけてしまう。
トーマスも本屋で店主のすすめるものをどんどんカウンターに並べ、その中から五冊選んだ。
人の財布で買うのは気持ちいい。
自分からは小ぶりの金槌。
帰ったら一緒に何を作ろうか考えていた。
それぞれが気分よく買い物を終え、アガサス騎士団に向かった。
「白銀の一閃様はやはり無理でしたか……」
がっかりされるが、それはいつものこと。
白銀の一閃はそう簡単に姿は見せない。
「主の護衛兼ウィステリア騎士団長の私リアンと、同じく護衛のトーマスが代わりにお相手いたしましょう」
ふっ。
ほっとしたようなため息が、あちこちから聞こえてきた。
「緊張して、力が出せないところだった」
「リアン殿トーマス殿、ぜひお願いします」
「遠慮はいらないよ。お互い力を出し尽くそう」
「はい、みんな!気合い入れていくぞ!!」
「おう!」
騎士が並び始めた。
……いや、これ全員やる気か?
日が暮れるまで、休みなく相手をさせられ、リアンもトーマスも立ち上がるのも億劫だ。
「……なあ、俺ら、主に怒られることしたか?」
トーマスは大の字に寝ころぶ。まだ息があがっていた。
「どうして……」
リアンも座り込む。
「リアンが出番がなかったなんて言ったからじゃないか?」
「あれかな、ヴィオラちゃんネタが癇に障ったか?」
「リアンが本物が見たいって、珍しく囃し立てたやつか」
「トーマスもやれやれって手を叩いてたよね。でも、本物が見たいでしょ。ヴィンやハリーだけずるい」
「あのミアが、負けたって悔しがってたな」
――ヴィオラちゃんはあざとい仕草で、どんな男でも落としていくんです!
ミアは鏡の前で猛練習中だ。
「そろそろ、休暇取りたい」
「そうだな。俺も温泉村行きたくなった」
アガサス騎士団員から酒宴に誘われたが、……断った。




