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初恋だったのかもしれない

「おまえ本当に飽きずに、毎日オムレツ食ってんな」

「大好き」

「王宮じゃもっと豪華なもの食ってたんだろ」

「卵料理は毎朝あったけど、ここでは作りたてのオムレツが食べられる。味付けも盛り付けも料理人の腕は最高だけど、毎日皆の想像するような御馳走なんて食べないよ。体に悪いし太る」


 王宮の厨房からテーブルに並ぶまでどうしても時間がかかる。スープは適温で提供されるが、あとはカロリー控えめの多少冷めても美味しく食されるものが並ぶ。王族の健康管理も料理人の役目だ。


 実家じゃ3兄弟そろって3食肉食ってた。体型なんて二の次、動けば筋肉!


「それにオムレツはおふくろ料理というか、母方のおばあ様がとてもお上手なんですよ」

「貴族の奥方が料理なんてしないだろ」

「最初は食の細かった従妹のためだと言ってましたが、今でもテーブルの横にコンロが用意されていて、おばあ様が目の前で卵料理を作ってくれるんです」

「へぇ、それはいいな」

「おばあ様がフライパンにジュッって卵いれて、フライパンゆすりながら手首トントンってすると綺麗な形になっていくのが不思議で、魔法みたいでしたね」

「レイ様は手を叩いてましたね。私はチーズ入りがお気に入りでした」


 エリオットにとってもおふくろの味らしい。


「叔母様の蜂蜜たっぷりかけたパンケーキもまた食べたいな」


 エリオットの母も料理上手だ。蜂は苦手だが俺もそれ食べたい。


「そういえばエリオットの妹は双子だよな。うちの領でも噂になった金と銀のすみれ姫だっけ?」

「それは…」

「双子のお姫様に会ったことあるのかな?」


 エリオットが言い終わる前に、レイがやけに食いついてくる。


「お袋がお茶会にでかけた時見かけて、あまりの可愛さに息子の嫁に欲しいってバカ騒ぎしてたよ。親父が馬納めに行くついでに俺らも連れて行かれてさ、マジ可愛くて驚いた」

「へぇ」


 レイが驚いた表情をしたが、どこかわざとらしい。


「上の兄貴が金のお姫さんに花束渡したら銀のお姫さんに木刀で叩かれた。俺は馬にドレスのまま乗るような元気のいい銀のほうがかわい…あれっ」


 最近、銀のお姫様見たよな。俺おかしなこと言ってないか?


「銀のすみれ姫のほうが何ですか?」


 レイがその先を言わせようとする。エリオットが憐れむような目でみてくる。


「エリオットの実家は王妃様の実家。ってことは!」


 レイもエリオットも我慢の限界か腹を抱えている。


「ごめんね。夢壊したかな」


 俺の初恋さよなら。言わなきゃ良かった。


「あの時連れてきてくれたのが、アリアンでしたね」

「何頭か連れていって、確か金のお姫さんがこの子がいいって言ってたな」

「そう、彼女がアリアンを選んでくれたんです」



 数年前。


「どの馬も毛並みがいいでしょう。足は速くいざとなれば敵陣へも臆せずに突っ込んでいきますよ」


 バーデット辺境伯が自慢の馬をいく頭も連れてきた。隣領のオルレアン侯爵はお得意様だ。


 ちょうどお茶会の後で、そろいのドレスを着た金のすみれ姫オリビアと銀のすみれ姫レイがエリオットについて馬を見に来ていた。


「そうだね。多少気性は荒くても、怖気づかない馬がいい」


 エリオットは1頭ずつ見定めていく。


「この馬を試してみようか」


 エリオットは父オルレアン侯爵に勧められた馬にしたようだ。


 レイもオリビアと一緒に大きいねとか真っ黒と言いながら馬を眺めていた。


「この子すごく目がきれいよ。レイちゃんこの子はどう?」

「牝馬か。じゃじゃ馬さんかな?」

「強情なところもありますが、賢いし普段は気性の穏やかな馬ですよ。もしやお嬢様がお乗りになるのですか?」


 バーデット辺境伯もまさかと思いながら一応聞いてみた。これは愛玩用の馬じゃない。戦場を駆ける軍馬なのだ。


 レイはその黒馬とじっーと目をあわせたまま数秒。


「試していいかな?」

「…少々お待ちを」


 試すだけならと渋々鞍を用意させる。お嬢様のご機嫌を損ねるわけにはいかない。どうせ怖い怖いと泣き出すのがおちだ。ちょっとレイの背が足りないが厩務員に手伝ってもらって、ドレスのまま跨った。


「お嬢様!!!」


 周りの声も気にせず囲いの中を1周して戻るとレイは馬の首をそっとたたいた。


「いい子だ。これは私用に」

「早くもないだろう。好きにしなさい」


 オルレアン侯爵も止めない。


「きっとこの子はあなたを守ってくれる。そんな気がするの。よろしくね。今日からうちの子よ。名前を考えなくてはね。後でグレース叔母様にリボンをいただいて、たてがみに飾ってあげるわ」


 オリビアがにっこり笑った。


 バーデット辺境伯は引きつった顔のままだが、売った後の責任はこちらにないと念書に書き加えることにした。


 その後、名前はオリビアの案でアリアンに決まった。



「懐かしいな。ヴィンもあの頃はもう少し可愛げがあったのに」


 レイがヴィンを上から下までみて笑う。


「お前あの後、兄貴と俺に『特別に蜂の巣箱見せてあげるわ』とか言って、わざわざ黒いコートを着させて連れ出したよな。蜂に狙われて散々だったの思い出した!」

「オリビアに求婚なんてふざけた真似するからですよ。僕だけじゃなくエリオットだって一緒だったじゃないですか」

「かわいい妹に変な虫はいらんからな」


 普段すましているが、エリオットもレイと一緒に色々やらかしている。


「お前らいつか絶対泣かすからな」


 蜂の多いところでは、黒い服を着てはいけないことを学んだバーデット兄弟だった。


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― 新着の感想 ―
こんな形で初恋がぶち壊されることになろうとは。ヴィンもお気の毒でした。レイはとんだ人ですね。一生物のトラウマとなりかねませんね。私だったら、死にたくなります(笑)今回もとても面白かったです。
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