表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/119

兄たちは遊びたい

 兄離れ宣言をしてから、レイの行動は早かった。


 王都滞在の時は王宮の、子どもの頃からの私室を使っていたが、双子も大きくなった。


 何よりハリーはあれでも王子だ。


 来るたびに客室を用意しなければならなかった。


「俺のために、新居を用意してもらって感激だな」


「馬鹿は放っておこう」


「そうだな。商談も来客も、いちいち応接室を借りなくていいな。手続きが面倒だった」


 エリオットが全て手配していたが、今はヴィンにほぼ引き継がれている。


 手間が減るのは大歓迎だ。


 いくらでも部屋を用意すると兄たちに言われたが、そう甘えてもいられない。


 今後も双子を預けたい時用にレイの私室は残してある。


 新しく王都に購入した屋敷には、子どもの頃から仕えてくれているメイドと園丁、走り回るレイを追いかけていた騎士、ウィステリアの傭兵が雇われた。


「警備も万全、居心地最高、もう俺だけ離れた客室に追いやられなくて済む!!」


「さすがに王族のプライベートエリアに他国の王子を泊められない。今までお客様扱いで悪かったね。ここでは思う存分働いてもらうよ」


「……ほどほどがいいです」


 ハリーは早速、周辺の情報集めに行かせられた。


「ちょっと古いけど趣がある。修繕すれば大丈夫だろう。王宮にも近いし、広さもちょうどいい」


 壁にかかる風景画を眺めながら、レイもこの館が気に入ったようだ。


「厩舎がでかいんだ。いいだろ」


「ヴィンの物件選びはそこ重視か」


「いや、エリオットたちが選んでくれた中の一件だ」


「エリオットたち?」


「殿下方も選んだそうだ。良かったな」


「また子ども扱い。そろそろ弟離れをして欲しい」


「お前にも、殿下たちにも、絶対に無理だよ」



 外から帰ったハリーの報告を、レイが真顔で聞いていた。


「出るって。……何が? やっぱり言わなくていい」


「どうせ古い館にあるあるの、ゆうれ……ぐぐぐ」


 ヴィンがハリーの口を塞いだ。


「何も聞いていない、もう僕は大人だ。信じない」


「見回りは終わっている。不審なものは何もなかったから安心しろ」


「ヴィン」


「わかった。寝るまでな」


 その夜からレイは寝るまでヴィンに側にいるよう、約束させた。


 翌朝、メイド長のアメリアが赤黒い染みのついた、それも切り刻まれた女性の古いドレスを持ってきた。


「レイ様、朝掃除をしていたら階下の部屋にこんなものが……」


 レイが固まった。


「あれだ。ネズミでも出たんだろう。気にするな」


 ヴィンが明るく、処分していいとアメリアに頼んだ。


「地下室って、僕はまだ見てないんだけど。……何があるの?」


「食糧庫と洗濯場だな。ネズミが巣でも作ってんだろう」


「そうだよね。前の家人が忘れていったドレスをネズミがかじったに違いない」


 二日目は裏庭で、花壇が荒らされていた。


「人が這ったような跡が……」


「あれだ。犬だ。野犬がいたら危ないな。すぐに捜索させよう」


「ヴィン、犬は這わない。まさか大蛇でもいるのかな」


「どちらでもいい。園丁に探させる」


「……」


 三日目は壁の絵画が水浸し。


「雨漏りでは……ないよね」


「それと夜中に、どこからか悲鳴が……がが」


 ヴィンがハリーの口を塞ぐ。


「僕には何も聞こえていない。とにかく原因を調べて」


「気にするな。隙間風と、配管でも壊れているんだろう。すぐに修繕させよう」


「ヴィン」


「今日はハリーと片時も離れない」


「そうして」


 夜、仕事を終え廊下に出たレイの目の前を白い何かが横切った。


 声も出せないレイを、どうにかひっぱり寝室へ連れて行く。


「……絶対に……何かいる」


「幽霊なんていない。お前を恨んでる奴はいても化けて出ないさ」


「でもおかしなことが起きているじゃないか」


「落ち着け。今、茶でも持ってくる」


「ねえ、ハリーはどこ? 夕方から姿を見ていない」


「そういえば、いないな。黙っていなくなるなんて。どこに消えたんだ?」


「ヴィン」


「わかった朝までここにいるから。寝れるか」


「無理。宿とるか王宮に戻る」


「わかった」


 ――王宮へ戻った。


「レイ、青い顔してどうした?」


 兄アルバートが優しくレイの肩を抱く。


「何でもありません。館の修繕が済むまでここにいます」


「レイ、何か欲しいものはないか?」


 次兄レオンも気遣ってくれる。


 やっぱり兄様たちは優しい。僕は世界一の兄たちを持った。


 兄たちに甘やかされ、お茶を飲んでいると、エリオットが顔を見せた。


「なんだ、もう根をあげたのか」


「うん?」


 エリオットが、含みのある笑みを浮かべた。


「エリオット兄様は、なんで笑っているのかな?」


 レイの背に、ぞわりと嫌な予感が走る。


 たが、もう何かを勘づいている。


「ごめんレイ。この間、「もう兄様の部屋に行かない」、兄離れ宣言とやらをするから」


 アルバートがポンポンとレイの頭を叩く。


「十年以上も! 僕を騙して散々怖がらせてさ! 兄様たちも弟離れしなよ」


「許せ。私たちに黙って館を買おうとするからから、ちょっと遊んであげようかと」


「遊ぶ? あれは遊びとは言いません。本当に怖かった。……まさか、全員グル?」


「みんな嫌々だったが、協力してもらった」


「ヴィンも?」


「殿下たちには逆らえない。……命が惜しい」


「ハリーは?」


「ここにいます。引きつった顔の姐さんも可愛いらしかった」


 レイはむくれた。


 もう絶対帰りたくないくらいに怖かった。


 思い出しただけで鳥肌がたつ。


「レイ、明日一緒に出掛けよう」


「嫌と言っても馬車に乗せるんでしょ」


「そうだね。楽しみにしておいで」


「ヴィン」


「今夜は王宮だが側にいよう」


「ハリー」


「俺も入れてくれるの? 飲む? カードでもする?」


「僕はゆっくり寝るから、二人は部屋の前で、朝まで立っていなさい」


 レイは部屋の明かりを消さずに、ベッドに潜った。


 翌日もまだ不貞腐れたレイを馬車に乗せ、目的地まで兄たちは何も言わなかった。


「着いた。さあレイ、機嫌なおして」


 先に降りたアルバートがレイを手招く。


「……新しい館が二軒」


「ここは私とレイの館。実は手ごろな土地が手に入って、レイに内緒で建てていたんだ」


「レオ兄様!!」


「エリオットにも協力してもらって、双子にも快適に過ごせるようにしてある」


「忙しいって言ってたのは、これか」


「ウィステリアとオルレアンと王都を一週間おきに回ったよ」


「アル兄様、あそこは何?」


 二軒の館の間に、小さな建物が2軒並ぶ。


「あそこはレイの雑貨屋二号店になる」


「ブリジットが診療所を欲しいっていうから隣に建てた。レイの民間療法も取り入れたいらしいよ」


 レイは薬草士でありながら薬草店としない理由。


 お婆ちゃんの知恵袋、民間療法も大事にしていたから。雑貨屋なら薬以外も気軽に置ける。


「嬉しい! もう何て言ったらいいか、わからないよ」


「レイがもう私たちの部屋に来ないなら、私達が訪問するからね」


「また、秘密の会議をしよう」


 最初にアルの部屋をノックしたのは、母への誕生日プレゼントの相談。


 幼いレイは兄に真っ先に聞きに行った。


 レオンも交えて決めたプレゼントの押し花を、母は今も大事にとってくれている。


「もうあの古い館は要らないね。実は購入はしていない。取り壊す前に少し使わせてもらっただけだよ」


「僕はまだまだ兄様達が必要みたいだ。いつから住める? 双子も呼ばなきゃ」


 僕には世界一最高に優しい兄が三人いる。


 今日は記念日のお茶を淹れよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ