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番外編 イザベルと元婚約者

 レイモンド様の元婚約者、イザベルです。


 城内でも知る人は少ないですが、婚約は事実でした。


 婚約披露も内輪だけ。


 レイモンド様は王妃様やお兄様がたの後ろに隠れていて、お顔を見せてはくれませんでした。


 照れた様子が何とも可愛らしく、凛々しく、惚れ惚れいたしました。


 今生の運はすべて使い切ったかもしれません。


 今は回収されてしまった婚約指輪を、令嬢たちに見せて回り、第三王子妃の座は誰にも渡さないと、すごんだりもいたしました。


 なかなか信じてもらえなかったのは、焼きもちからでしょう。


 羨ましいと、素直に言えばいいのに。


 その後、王妃様にも父にもすごく叱られましたが仕方がないこと。


 国中、いえ近隣諸国の姫君たちも狙っていたのですから。


 私に暗殺者が向けられなかったのは、きっとレイモンド様が陰ながら守ってくださったからです。


 私、すごく愛されていたな。


 お誕生日にいただいたのは私の大好きなクッキー。


 箱にかけられた運命の赤いリボンと共に、箱も大事にしまい、今も一生の宝にしています。


 でも、たったの一年で、破棄されました。


 なんでも未払いの税金があったとか。


 計算もできない管財人は首にしました。


 ――私は泣きました。


 レイモンド様もきっと悲しんでいるはず。


 引き裂かれたふたりを、私の愛の力で戻して見せますとも!!


 でも、お会いすることすら、叶いませんでした。


 レイモンド様が密かに従妹のオリビア様とご成婚。お子様にも恵まれたと知った時はショックでしたが、なぜでしょうか。心より祝福したものです。


 乳母にはなれませんので、祖母にでもなった気分でした。


 もし私たちにお子が産まれたら、髪はピンクだったのかな。それはそれは可愛いかったでしょうね。


 独り身になったと噂でお聞きし、お慰めしようとまた追いかけました。


 とうとう陸の孤島と言われた領地にいることを突き止め、突撃しましたが……撃沈。


 ヴィンセント様との仲睦まじい様子を見せられ、私の恋は終わりました。


 でも私はただでは転びませんでしたわ。


 潔くレイモンド様をヴィンセント様にお譲りし、執筆活動を始めた私。


 お二人を見て、ビビっときたのです。


 儚げで美しい薬草士と騎士の禁断の愛をテーマに書き上げた小説は瞬く間に完売。


 次は温泉街を舞台に。カフェを舞台にと本を出し、同志を増やした私。


 陰に隠れていた同じ嗜好の女性たちに、希望の光を与えたのです。


 レイモンド様と同じ社会貢献ができました。


 さすが私! 元婚約者ですから。


 でもとうとう書くのは駄目と、言われました。


 お恥ずかしいのね。仕方がありません。


好きなものが書けない暗闇の中、ネタを探しに夜会へ参りました。


 王妃様のドレスショップでレイモンド様のお見立てで購入した淡いピンクのドレスは、装飾は控えめなクラシカルな一品。


 一目見て気に入りました。


 青紫は禁止されましたが、白銀のリボンはお目こぼしいただきました。


 睨まれた気もしますが、白までは禁止できないと、ため息をこぼしてらした。


 実はまだ私に、未練がおありなのかしら。


 その夜会でまたもや、ビビっときたのです。


 淡い金髪のご令嬢は間違いなくレイモンド様。


 おっかけ歴の長い私の目はごまかせません。


 愛しい私の王子様のお相手はなんと男装の麗人!


 モリーナ様のような身分差恋も、リリア様にようなお見合い百回以上の末の恋もいいけれど、次にくるのはこれですわ。


 あの方もレイ様とおっしゃるのね。


 もう、恋に落ちそう。


 カステル国ってひとりでも行けるのかしら。


 遠かったかしら。どこだっけ?


 王都で流行りの度のないおしゃれメガネをかけて取材旅行に、いざ参りましょう!



 僕はイザベルが苦手。


 オリビアと結婚したいのに、オルレアン侯爵が許してくれない。


 美人のうちには入るだろう。


 苺のような赤い髪に大きな緑の瞳。体は丈夫で家柄も悪くない伯爵令嬢。


 だからって勝手に決められた婚約者を好きにはなれない。


 失礼な話だが、大事にする気もない。


 さすがに、誕生日には菓子を贈った。


 菓子なら後に残らない。


 オリビアが「女の子は包み紙や箱も楽しみなの」と言うから、店オススメの花柄の箱に、彼女の髪に合わせた赤いリボンをかけさせた。


 カードには一言「おめでとう」だけ。


 これで呆れて嫌いになってくれないかな。破棄したいって言われたら、万歳しそうだった。


 そうはならなかった。


 分厚い礼状がきて、直接お礼も言いたいと書かれてあった。


 ――もう無理だ。戦場に行こうと決めた。


 あそこなら追いかけて来られない。


 すぐにエリオットに頼み込み、騎士団に入れてもらう。


 周りからの期待がすごかったが、小さい体で見つからずに前に出られたし、敵に見つかっても幼い子が可哀そうにと、手を抜いてくれた。


 こちらは容赦しないで斬りつけ、勝利に導いてしまった。


 オルレアンに帰ると、また分厚い手紙が届く。


「無事だろうか、怪我はないだろうか」


 それでも僕は会わない。


 会っても、手を取ることも、優しくもできないから。


 本当に僕は自分勝手で、酷い男だと思う。


 でも君も悪い。


 第三王子の婚約者だと言いふらし、未来は王妃かもなんて威張るのはやめて。


 継承者争いなんて、うちにはない。


 僕は王位に興味はないし、長兄にこそ王冠はふさわしいと思っていた。


 一度だけ王都の祝典でエスコートした時、青紫のドレスだけはやめてと言ったのに、着て来た。


 次は白銀のドレスが欲しいなんて言い出したから、曲がかかる前に逃げて、終わるまで森の奥に隠れた。


 婚約破棄した後も追いかけてきたが、ヴィンに恋人役をやらせて追い返した。


 まさかあれをネタに、本を出すとは思わなかったけど。


 なんだかんだあって僕はイザベルと友達にはなったが、やっぱり苦手だ。

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