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夜空の花

 翌朝、慌てたケントがレイを訪ねてきた。


「大変です! ハリー王子とサイラス国王が口喧嘩から、外で打ち合いが始まりそうです!!」


「好きにやらせてあげなよ。あの二人は口より剣の人たちなんでしょ」


 昨夜は遅くまでしゃべり通しで、レイはまだ眠い。


「もう少し寝かせて……わっ」


「おい、止めてやれ」


「仕方ないな」


 ヴィンに無理やり起こされた。


 王城の前庭にハリーとサイラスが睨みあっている。


「はい、双方剣をしまって。お姫様方が怖がっているよ」


 レイがあくびを噛み殺し、二人の間に割り込んだ。


 モリーナをはじめ女性陣も心配そうに見に出ていた。


「姐さん、こいつモリーナに挨拶しただけで怒り出してさ。口説いてないって、何度説明してもだめだ」


「おまえは生意気すぎる。征伐してやるわ」


「ハリーもすぐ熱くならない」


「なら、お前でいい」


 サイラスがレイに剣を向ける。


「煽ってものらない」


 レイはハリーを引っ張って行った。


「かわされた?」


 残されたサイラスは自身が振り下ろした剣を見る。


 たまたまか。


 二日目の話し合いはすんなり進んだ。


 アレス国に一時、預けることに決定。


「あそこまで腐敗した国の統治までは面倒だけど、色々取引させてもらいます」


 ダレン国の王太子ジョージはいい結果だと喜んでいた。アガーテもリリアも頷く。


「仕方がない。モリーナ姫からも独占しないとお聞きしたからな。間違いはなかろう」


 サイラスも同意した。


「うちはもう直接関わりたくないから、渡りに船です」


 アルバートも結果に満足だ。


「アレスの監視だけでは、足りないのではないか? 武力行使されれば、すぐに対応ができないだろう」


 ここでアガサスの女王代理、外交大臣グレイソンが口をはさむ。


「対処には、うちが出ますよ」


 ハリーが手を挙げる。


「しかし、現宰相や重鎮たちを残すなら、やはり名だけでも、ハロルド王子を使えば混乱が少ない」


「元王子ですね。絶対無理です。それこそ操り人形にされてしまう」


 レイがもう一度ハロルドの状態を説明する。


「回復の見込みはないのか?」


「時間がかかる上、回復するかは不明です」


 なら仕方がないとアガサスも同意した。



「うちの提案どおりにすすんだな」


「アガサスは渋々だったけどね」


 レイの客室でアルバートとお茶を飲んでいると、ヴィンが走り書きされたメモを渡す。


「これが扉に挟んであった。レイモンド様宛てだろう」


『油断するな』


 レイが、「何に……」とつぶやく。


 ヴィンはレイの側を片時も離れなかった。いつどこから狙われているかわからない。


「俺もいるし、姐さんも強いからそこまで張り詰めるなよ」


「ハリーは今回はクローク国王の代理だろ。自分の仕事をしろ」


「ヴィンはずっと何かに怒ってる? 僕が何かした?」


 レイはヴィンの苛ついた様子がずっと気になっていた。


「してない」


「ならいいけど」



「レイさまぁ」


 ケントが駆け寄って来た。


「湖畔の準備が整いました。楽しみだな」


 レイは大量の打ち上げ花火を荷車に積んできていた。


 湖上で打ち上げれば、湖面にうつる花火も楽しめ話題になるだろう。


 これから定期的に打ち上げれば、観光客を今よりも数倍呼び込める。


「温泉村は小さな手持ち花火にしたから、打ち上げ花火はここで見ようよ。兄様の戴冠式にはもっとすごいのを用意するからね」


「それは嬉しいな」


 湖畔には見上げやすいように、背もたれのある椅子が配置され、ウィステリア刺繍の入ったクッションが置いてあった。


 テーブルには飲み物がおかれ、食事も楽しめる。


「本当にあなた商売上手ね」


「本業は雑貨屋だからね」


「冗談も言えたのね」


 リリアが笑う。


 花火が打ち上がった。


 夜空に色とりどりの大輪の花が咲き、水面に映ると波にゆられ、どちらも見逃せない。


「綺麗ね」


 しばらく花火を楽しんでいたレイが、リリアに耳打ちする。


(リリア、僕がいいというまで、アガーテたちとテーブルの下へ隠れてろ。声を出すなよ)


(騎士様、しっかり守ってね)


(怖かったら、頭からかぶっとけ)


 レイは羽織っていたマントをリリアに渡した。


「皆様、少し喉が渇かない?」


 リリアがさりげなく女性陣をテーブルの方へ誘った。


 火薬の匂いと大きな音に紛れ、男たちが客を取り囲んでいた。


「ヴィン! セオ! 兄様を頼む!!」


 レイはサイラスの横を駆け抜けた。


 レイの目配せを受け取ったハリーが、リリア達の隠れたテーブルを守るように剣を抜く。


「これは多いな。サイラス、姐さんの邪魔だけはするなよ」


「こっちのセリフだ」


 サイラスも腕を前に突き出し、目の前の賊を叩きのめす。


「仕組んだのはアガサスか。何がしたい?」


 レイはグレイソンの前に立つ。


「すべて、アガサスがもらう」


「すべて?」


「ここで全員を始末する」


「馬鹿を言うな」


「優男!! そいつには勝てないぞ! 下がれ」


「だから、邪魔するな!」


 飛び出すサイラスをハリーが押しとどめる。


 外交大臣は表の顔。グレイソンは狂犬と恐れられる男だった。


「顔に傷はつけたくないが仕方ない。それでもハロルド様は許してくれるだろう」


「本当に厄介。帰ったら今度こそあいつを始末する」


 レイが姿勢を低くして構える。次の瞬間、纏う空気が変わった。



「怖いわ。外はどうなってるのかしら」


「モリー大丈夫よ。最強の騎士様が必ず切り抜けてくれるわ」


「リリアちゃんはレイモンド様を信頼しているのね」


「だって私の王子様がただひとりと決めた方だもの」


「バーデット卿は王子じゃないよ」


「ケントにはわからないわ。女の子が恋したらお相手はみんな王子様よ。これ、頭にかけて」


「いい匂いがする」


「これはレイ様のいつもつけている、のんびりしたい時用の特製ブレンド精油だ」


 姉弟がレイのマントを抱きしめる。


「本当に気の利く雑貨屋さんね」


 うふふと忍び笑いをして、嵐が過ぎるのを待った。



「噂通り早いじゃないか。でも力はそれほどじゃない」


「強いなんて言ったことないよ」


「君よりあの黒いのが欲しいな」


「ヴィンは誰のものにもならない」


 レイが爆風のように剣を振り続けるが、グレイソンを斬れない。


「赤子の手をひねるようで心苦しいよ。ここまでの褒美にひとつ教えよう」


「余裕だな」


「今頃、王不在のカステルは我がアガサスの手に落ちている」


「狙ったのか」


「前王は馬鹿のひとつ覚えのように戦争ばかりしかけた。アガサスはそれをかわすために味方のふりをしていただけだ。今のカステルに戦う騎士も金もない」


「おしゃべりして、よそ見するなよ」


 グレイソンが斬りかかった時、レイが剣を投げ捨て、拳を前に突き出すが、体を伏せられ、指輪の針は避けられた。


「もう終わりか。小細工などしても無駄だ」


「まだまだ!」


 レイは体をひねり、グレイソンの頭を回し蹴りした。


「がっ!!」


 グレイソンの体が倒れ、頭にはレイの靴から飛び出した麻酔針が刺さっていた。


 レイがきょろきょろとヴィンを探し、見て見て、と手招いた。


「見た。歩けるか?」


「靴脱ぎたい。兄様は?」


「避難させた。セオもアレス兵もついてる。ちょい待て」


 ヴィンがレイを傍らに抱え、椅子へ座らせる。


 周辺はすでにハリーやサイラス達の手により制圧されていた。


 倒された賊と椅子やテーブル。食事も散乱していて足の踏み場もない。


「リリアたち出ておいで。ただし悲鳴はあげないでくれるかな」


 テーブルの下からリリアたちが這い出る。


「あら怪我?」


 リリアは動じなかったが、モリーナたちは口元を押さえ悲鳴をこらえる。


「心配してくれるの? 僕の回し蹴り、見せたかったな。一度やってみたかった」


 レイはすごい満足顔だ。


「お前が斬れないって、どういうことだ?」


「下に鎧でも着ていたのかな。今の剣は気に入ってるから折れたら嫌だし。動きが鈍くなっていたから、僕でも簡単に狙えたよ。石頭でなくて良かった」


 賊を縛り上げたハリーが駆け寄ってきた。


「さっきの何? 姐さん体術もいけたっけ?」


「侮るなよ。これからは腕力だけでもいける気がする」


「無駄なことすんな」


 ヴィンがパシンとレイの頭を叩く。


「温泉寄ってから店に帰りたい。手配しておいて。たぶん明日は筋肉痛だ」


「……」


 サイラスが言葉もなく、立っていた。


「サイラス国王に話がある」


 レイは会議室へ六か国に招集をかけた。

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