↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
51/119

湖沼の国

 話し合いは湖沼が美しい国、アレスに決まった。


 中立国としてどこにも属さず、どこの国ともほどよい関係を築いている。


 第二王子ケントがむくれるほど、国王夫妻は外交に注力していたからだ。


 湖沼しかなく、強い騎士団もいないからと言うが、外交だけで争いを回避するなど並大抵ではない。


 レイは詳細を説明するため、兄アルバートと共にアレスを訪れた。


「アル兄様と出かけるのは久しぶりで嬉しいよ」


「そうだな。いつもレイにばかり外回りさせているから、今回は私も頑張るよ」


 内気な兄も最近次期王として、外に出るようになった。


 集まった国は隣国周辺レイのフェリシティ国のほかに七国。


 会議場となるアレス国

 ハリーのクローク国

 黒百合のノアール国

 雪の女王のグレイシャス国

 南に位置するダレン国

 勢力拡大中のカステル国

 カステルに付き従うアガサス国。


 カステル、アガサスの者がレイ達の動向を探るように敵意を見せている。


 見当違いも甚だしい。フェリシティは隣国と関わりたくない。


「アル兄様。一緒に寝よ」


 レイがアルバートの客室に枕を抱えてやってきた。


「またそんな甘えたこと言って」


「せっかくだから、兄様と一緒がいい」


 レイは寝台にさっさと潜り込むと、いつものように何か話してとせがむ。


 アルバートは子どもが産まれたら一年は家族でゆっくり過ごしたいと思ってること。


 その後に王位継承することをレイに打ち明けた。


 アルバートが先に寝入りしばらくすると、コツンと音がした。


 レイはそっと寝台をぬけ、窓を開ける。そこにはセオがいた。


「三人捕らえた。身元が割れるものは所持なし」


「うちが隣国を欲しがっていると勘違いしてる国がいるようだね。引き続き兄様の警護頼む」


 レイはまた兄の隣に潜り込んだ。


「レイ起きて」


「ん……兄様、おはよ」


「ナイフ握ったまま寝台に入るな。レイがよく隠し持ってた黒い角のある虫より驚いた」


「お客様が来た時の用心だよ。セオが掃除してくれたから、ここには来なかったね」


「世話かけた。まだ眠い? ヴィンセントを呼ぼうか」


「大丈夫。ヴィンもセオと見張り番してた。今頃あくびしてるか寝てるはず」


「そうか。今朝は私がお茶を淹れるよ」


「兄様、苦くないのをお願いね」


 アルのお茶は薬膳茶。甘党のレイにはちょっと苦い。


「今日の話し合いはどうなるかな」


「レオンの案でいきたい」


 アレス城の広い会議室には大きな円卓がおかれ、それぞれの国の代表が座った。


 レイが男爵の育てていた植物の効能や副作用について説明し、国王も王子だったハロルドももう毒に冒されていることが話された。


「王妃から、国王と共に退位を決めたと書面をもらいました。王位継承できそうな王侯貴族からは責が重すぎると継承放棄。今後についてはこの話し合いで決めて欲しいとのことです」


「なら我が国がもらう」


 カステルが手を上げる。


「いや待て。一国が領土を拡大するのはいかがなものか」


「領土を八分割して治めるのはどうかしら」


「それでは旨味が少ないな。民も困るだろう」


「いっそ中立国としてアレスに預けるのはどうでしょう」


 話し合いは平行線のまま、一日目が終わった。


 それぞれが与えられた客室に戻ろうと会議室を出た。


「おい、待て」


 呼ばれたかとレイが振り向くと、カステル国の若き国王サイラスが立っていた。


 濃い金髪に青目、体格がよく、鍛えているのがわかる。


 クローク国に攻め込んだが、大敗し国王と軍部が失脚。第一王子であったサイラスが新国王となった。


 レイの横を歩いていたハリーが睨み返す。


「何の用だ。まだやる気か」


「血の気が多いな。クローク国には散々謝って賠償金も払っただろ。今は国庫がすっからかんで何もできないよ。それに用があるのは白銀の一閃だ」


「僕に?」


「ああ、そうだ。俺はクロークとの戦いに出ていない。白銀の一閃とやらが噂通りか確かめたいんだが」


「断る。今回は話し合いに来たからね。誰ともやり合う気はないよ」


 なら、といきなり手刀をレイに向けたがレイは避けない。


 代わりに前に出たヴィンが、己の腕で受けた。


「白銀の一閃は噂とは違って、本当は弱いのか?」


「誰がどう僕を見ようが気にしない。だけどうちのヴィンセントは強いよ」


「男爵からも守ってもらえたのか? 確かにハロルド好みだし、男爵も欲しがるだろう」


「貴殿も同じ穴のムジナか」


 ヴィンがサイラスを睨みつける。


「俺は男に興味はない。特に弱い男は大嫌いだ」


「サイラス国王に好かれなくても構わない。いいか、もう一度言う。僕は話し合いに来た。夜中の訪問は断る」


「皆を出し抜く気はないようだとわかったから、もう安心して眠りな。明日また会おう」


 サイラスはレイの横を何事もなかったかのように通り過ぎていった。


「くそっ!!」


 ヴィンは近くの壁を拳で叩いた。


「気にすることないさ。行こう」


 レイも客室へと歩き出す。


「カステル国がまだ領土拡大を目論んでいるか、諦めたかは判断できない。何も言わなかったアガサス国のほうが怖いな」


 アルバートが腕を組み、明日に持ち越した話し合いを考えている。


 分割してはまた火種になる。一国が吸収するのも、パワーバランスが崩れる。


 フェリシティーはしばらく中立国アレスに任せたい考えだ。


 アレス王の監視下で元々のいる宰相たちが治めればよい。


 八国相手にそうそう変な気は起こさないだろうし、対処もできる。


「僕がちょっとこちらに風が吹くよう、扇いでこようかな」


 そういうとレイはアルバートに今夜は一人で寝ても大丈夫と告げ、大きなトランクを抱えて、どこかへ行ってしまった。



「なん ……であなた……が……いるの」


 レイが指を三本たてる。


「いい……じゃない」


 レイの指が二本になる。


「……」


 二分後、淑女たちは顔のパックを外した。


「リリア、君がパック持って来いって言ったんでしょ」


「これ乾燥したお肌が、プルンプルンになるのよ」


 その隣では、菓子箱に手が伸びていた。


「これ可愛くて美味しいです」


「ソフィアおばあ様の焼き菓子詰め合わせは、予約しないと買えないんだ」


「どれ寄越しなさい……。これ木イチゴのジャムとすごく合うじゃない」


 スコーンに、リリアはジャムとクリームを山盛りに載せた。


「このすみの砂糖漬けは、箱買いしたいですわね」


 アガーテは紅茶に砂糖漬けを入れて、香りを楽しんでいた。


 今はモリーナ専用の応接室で、夜のお茶会が開かれていた。王女たちは幼い頃からの顔見知りで、いい機会だと集まったのだ。


「レイ様、沢山お土産をありがとうございます」


 レイの膝の上にはケントがいる。


「ちょっと見ない間に背が伸びたかな? 重いから降りて」


 レイは足がしびれたと、ケントを横に座らせる。


「鍛錬が足りないんじゃないの?」


「君も子をもったらわかるよ。それにケントはもう十二歳で幼子じゃない。可愛いけど、重いものは重い」


「ケントは最高に可愛いですわ」


「モリー、可愛い以外も言いなさいよ」


「リリアちゃんは可愛くないです」


「まぁ、みんな喧嘩しないで」


「だから、なんであなたがいるの?」


「今夜はケントの保護者役とスミレ姫枠」


 パックのために前髪を頭の上でチョコンと結び、おでこ出しているレイを、可愛い可愛いとモリーナが連発している。


「その美への妥協のなさはグレース様仕込みね。私たちに教えなさいよ」


「じゃん。雑貨屋開店だ」


 レイが次から次に商品を広げる。


「これ新商品の入浴剤」


「いい香りね」


「リラックス用、美肌用、温浴効果用、香りも選べるよ。見本をあげるね。こっちは基礎化粧品」


 三人は端から順に化粧品を手に取り、試し塗りして、香りを嗅いだ。


「この美肌クリームはあなたの背中にも塗ってるの?」


「まさか。乙女じゃあるまいし」


「だってあなたの背中、シミひとつなかったわよ」


「あの時か。寒くて鳥肌が立ちそうだった」


「私ももう一度拝見したいですわ」


「アガーテ、ヘンリク様に言いつけるわよ」


「だって見たいものは見たいんです!」


「仕方ないな。ほら特別大サービスだ」


 がばっとレイがシャツの裾をめくって見せた。


「……しまってください」


 淑女三人が負けを認め、ため息をつく。


 壁際に立つメイドから、悲鳴にも似た歓喜の声を上がった。


「意外と鍛えてるわね」


「どこまで見てんの。リリアこそ婚約者殿に言いつけるぞ」


「レイ様の腹筋はすごいんですよ。ムキムキじゃないのに硬くて、僕は触らせてもらったんです」


「ケント、後で詳しく報告なさい」


「わかりました!」


 お菓子の詰め合わせが減っていくと、果物や生菓子をメイドに追加で持ってこさせた。


 散々おしゃべりを楽しみ、そろそろかなとレイが切り出す。


「話し合いはどうなると思う?」


「グレイシャスからは距離があるから、統治は難しいです。人も出せないし、諦めるしかなさそうです」


「 諦めちゃうの? 寒い地方では手に入らない農産物や貴重な薬草を手に入れるチャンスだよ」


「フェリシティはどうしたいの」


「アレスに当面預けたいかな」


「うちがですか? 」


「アレス国王なら独り占めなどせず、平等にわけるか格安で取引するはずだ。そうでしょ」


「父上は恨みを買わないようにするでしょう。争いは絶対に避けます」


「本当に賢王様だと尊敬するよ」


「レイ様に褒められました。僕も父を見習います」


 レイが「いいぞ」と、ケントの頭をなでる。


「ダレンはどうすると思う?」


「あそこは豊かな国だから、喉から手が出るほどとは考えていないと思う」


「そうね。手間をかけずに、何か恩恵があれば分割までは望まないはず」


「カステルとアガサスはどうかしら?」


「なぜかサイラスに敵対意識もたれててさ。意味不明。聞き出せそうにないな」


「馬鹿ね。あなたがモリーナを狙ってると思ってるのよ」


「えっ! そうなの? あいつ、モリーナ狙いか」


「嫌ですわ。筋肉隆々な方は可愛く思えません」


「そういえばあなた。荷車に何積んできたの? うちの護衛達が気にしてた」


 レイは荷車に騎士を立たせ見張らせている。他国にしたら非常に気になる。


「あれはアレスへのお土産。アレス国王がこの件を引き受けてくれるなら、一躍アレスを観光名所に押し上げる秘策を持ってきた」


「可愛いものですの?」


「きっと気に入るよ。モリーナにカステルを頼んでいいかな」


「お任せください。大きな熊さんだと思ってお話してみますわ」


 あとはアガサスか……。


 お茶会はケントが眠るまで続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。