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エリオットの結婚式

 本気の真剣勝負から、レイは遠慮をしなくなった。


 あれでまだ遠慮してたんだと護衛三人組は笑う。


 レイは本当にお化けが苦手らしく、ふと思い出しては、怖いと言って、寝るまで横に座らせる。


 朝の支度もヴィン。


 やたらボタンだとかが多い貴族服への着替えも、面倒だとそこらに脱ぎ散らかした服を集めるのもヴィン。


 基本貴族にメイドも従者もつくのだから仕方がないが、側近というより母親。


 ヴィンも傭兵時代は身の回りのすべてを自分でやっていたので、できなくはないが、それこそ面倒だ。


「今日のオムレツ少し焦げてる」


 レイがむくれても知らないふりをしてやった。


 エリオットの結婚式が迫り、書類仕事や雑事で目の回るような忙しさだった。


 傭兵に戻ると言い張ったが、さすがに公爵の第一側近が平民というわけにいかず、一代限りの騎士爵に収まり、バーデットは長兄が継ぐ。


 その手続きだけでも時間を取られた。


 久しぶりのオルレアン領に双子もソフィアも楽しみにしていた。


 特に双子は花嫁のエレノアからベールボーイ、ベールガールを頼まれていた。


「エレノア様のドレスきれいね」


 アナベルはメガネのおかげで、婚礼衣装の細部までしっかり見えた。


 アイボリーの優しい色合いが穏やかなエレノアによく似合っていた。これもグレースの手によるもの。


「エリオット兄様、おめでとう」


「レイも子ども達も来てくれて嬉しいよ」


 冷静沈着なエリオットも今日はさすがに緊張気味だったが……。


「で、そちらの女性は誰?」


 ヴィンの隣に美女がいる。


「一度顔合わせしたよ。ルーの護衛のミアだよ」


 ヴィンがレイの愛人だとか、妙な噂が出回っているので、ミアの変装がどこまでいけるか試しに女装させて、ヴィンにエスコートさせてみた。


 偽カップルだが案外お似合いだ。


「エリオット様、おめでとうございます」


 ニコッとミアがお祝いを述べる。ぎりぎり女声に聞こえる。


「ヴィン、もっと笑顔でミアに接しろ。これならどこへでも潜入できるな」


 レイは満足顔だ。


「私の大事な結婚式で試すな! この義弟を野放しにできない。ヴィンも言いなりになるなよ」


「出来るならもう断ってる」


 ヴィンは散々やりあっての結果だとエリオットにこぼす。


「あら、また可愛い子がいるじゃない。レイちゃん、紹介して」


「母上、ルーの護衛でミア・マリオットです。母上にもご協力をお願いすることもあるかと」


「いいわ。後で採寸しておきましょうね」


 グレースの着せ替え人形が増えた。


 オルレアン領の一番大きな教会で式は執り行われた。


 長いベールをもつ双子もしっかりと役割を果たし、新しく家族となったエレノアを祝福した。


 挙式と披露宴が終わり、静かな庭をレイは一人歩いていた。


 あちらこちらにオリビアを見つける。


 今でも鮮明に思い出す。


 初めて手をつないで歩いた小道。


 求婚したニオイスミレの咲く庭。


 二人の秘密基地だったガゼボは本を読んで、祖母ののお菓子を食べた。


 大きな木の下でうたたねしていたら、そっとオリビアが起こしてくれた。


「エリオット兄様すごく幸せそうだったよ。君はエレノアと仲良くなっていただろうね」


 今夜はいつもより沢山オリビアとおしゃべりをする。


 まだ胸はひどく痛むけど、それでいい。


 厩舎にも足を向けるとそこには先客、馬の様子を見に来たヴィンがいた。


「眠れないのか?」


「ここは想い出が沢山あるから……」


「お前たちとはここで初めて会ったな」


「金と銀のすみれ姫としてね。もうさすがに姫と呼ばないで欲しいな」


 レイが苦笑する。


「エリオット兄様には心配ばかりかけたけど、これで僕も兄離れできるよ」


「これからは俺が苦労すればいいだけか」


「頼りにしてる」


 屋敷に戻るとハリーが二人を探していたという。まだ飲み足りないらしい。


「エリオットまであんな可愛い嫁もらって、どうしてうちには誰も来ない。うわー」


 泣き上戸だったとは。


 翌日。新しい護衛二人に、付近を案内がてら双子を連れてピクニックに出掛けた。


 途中、頭を布で覆った老人とすれ違う。古株の園丁だろうか。


「レイ、あまり奥へ行かないように。今日は蜂が少し興奮気味だ。気を付けるんだよ」


「はい、おじい様」


 えっ、誰?


 双子も「大きいおじい様」と呼んでいる。


 もしや……。


「昨日の結婚式で会ってるじゃないか。オルレアン前侯爵で僕のおじい様だよ」


 今は隠居して大好きな養蜂に精を出している。すれ違っても元侯爵に見えない。


「大変失礼いたしました」


「気にせんでいいよ。蜂に気をつけなさい」


 オルレアン前侯爵はどこかへ行ってしまった。


「ここら辺がいいかな」


 フローレンスとミアが敷物を用意しバスケットから弁当を取り出す。


 今日は甘い香りのお茶でなく麦のお茶。


 匂いに蜂が寄ってくるので注意が必要だ。


 付近を見回っていたヴィンが戻ってきたが、腕を押さえている。


「蜂に刺された」


「見せて」


 針がついたままだ。


 レイがフローレンスを呼ぶ。


「対処はできる?」


「お任せください」


「まったく、黒い服で来るなんて。着替えろって言ったのに。前に刺されたの忘れた? 君は学ばないの?」


「すまない、忘れてた」


「フローレンスはよく対処できていた。後でもう一度診てやって欲しい」


 レイにフローレンスが褒められ、アナベルは嬉しそうだ。


 ヴィンは皆と少し離れた場所で一人弁当を食べた。


 また蜂が寄ってきたら双子が危ないから、あっちにいけと言われたら仕方がない。


 レイが自分の白い上着をヴィンの頭に被せてくれたから、少しは心配してくれているのだろう。


 自分一人では守りきれない時もある。


 ミアとフローレンス。良い仲間と出会えた。

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