ルーカスとアナベル
ルーは毎日ミアに付き添われ領主館の厩舎に通う。
仔馬はオブシディアンと名付けられた。
「オプ君は今日も沢山お乳を飲んでますね。早く乗りたいな」
「ルー様、あまり近寄らないで。また明日も見に来ましょ」
ルーはミアを気配りも上手で、話も上手で、時間が空けば剣の鍛錬をしているのを格好いいと思っている。
「ミア、僕にも剣を教えて」
「いいですよ、基礎からね。束の握り方から覚えるわよ」
まだ少し太い束を、手のひらいっぱいに広げ、ルーは力を込める。
「力入れすぎよ。肩はもっと楽にね」
「うー、手も腕も痛い」
「ルー様も毎日たくさん食べて大きくなりましょうね」
最近のルーとアナは別々に行動することが増えたが、就寝前にその日の出来事をおしゃべりする。
「行ってないところも行ったみたい。双子で良かった」
「ルーみたいに剣は持てないけど、私も強くなった気がするわ」
お互いをぎゅっとしてから、それぞれの寝室で休む。
アナはフローレンスと一緒に刺繍をしたり、ソフィアの手伝いや買い物について行ったりして過ごすことが多い。
優しいフローレンスが姉のようで、アナはすぐに懐いた。
マナーレッスンも終わり本を読んでいるアナの様子に、フローレンスが気になるものを見つけた。
「もしや、目が悪い?」
アナはよく目を細めてものを見る。
刺繍はこなせているので気のせいかとも思うが、念のためレイに報告された。
「今まで気づかなかった。しっかりと検査してもらおう」
レイが王宮に紹介を頼むと、ブリジットが目の専門医を連れて、ウィステリアにやってきた。
「遠いところ、来てくれてありがとう」
「問題ないわ。新婚旅行の下見も兼ねて来たから」
「立ち寄ってくれると聞いて嬉しいよ」
少したわいない話をして、本題にはいった。
「紹介するわ。目の専門医でミリーよ。女性の方がいいと思って」
「よろしく頼む。早速アナに会ってもらいたい」
「アナちゃん久しぶりね。お土産をいっぱい持って来たわ。あとでルーちゃんと分けましょうね」
「ブリジット様、ありがとうございます」
ブリジットの後ろから若い女性が挨拶をする。白衣を着ているので聞いていたお医者様なのだろう。
「初めまして、アナベル様。ミリーと申します。目の検査をさせていただきますが痛いことはありません。安心なさってくださいね」
「痛くないのね、良かった。先生よろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をする様がとても愛らしい。
「ここを片方の目で見てください、見えるかな?」
ミリーは子どもの患者に慣れているようで、猫や犬の描いた紙を見せると、アナは元気に答える。
「左目が少し悪いようですね。遠くを見るときは右目で補っていたのでしょう。早い段階で見つかってよかったです。今からならまだ回復の見込みがありますから」
「フローレンス、ミリーありがとう。気づかなかったら取り返しのつかないところだった」
レイが深く頭を下げた。
「嫌。かわいくない。絶対に笑われる」
アナはメガネをみて拒否反応を示した。
いくら可愛いメガネを作っても、嫌だとかけてくれない。
さすがのレイも途方にくれた。
そんな日が続いたある日、ルーが泣きながらレイに抱き着いてきた。
「ルーまでどうしたの?」
「アナが……アナが扉を開けてくれないの。昨日も今日も会えない。僕、こんなの嫌だ」
「そうか、父様が話してくるよ。少し待っていてね」
アナは部屋に閉じこもり、レイとフローレンスしか入れない。
「アナ、少しいいかな」
部屋へ入るとアナはベッドに潜り込んでいた。
「ルーが心配しているよ。顔を見せてあげて欲しいな」
「こんな妹、きっと嫌いになる」
「絶対にそれはないと、父様は言い切れるよ」
「どうして?」
「もしルーの目が悪かったら、アナはルーが嫌いになるの?」
「ならない」
「だよね。だからルーに会って。ルーも入っておいで」
アナは頭まですっかり隠れてしまった。
「アナに会いたいの。出てきて」
「……」
「アナは僕を嫌いになったの?」
毛布が左右に揺れる。
違うと言いたいのだろう。
「顔見せて」
もぞもぞと毛布の下から目を真っ赤に泣きはらしたアナが出てきた。
「アナが大好きだよ、僕たちはずっと一緒だ。だから何でも話して」
「メガネをかけても嫌いにならない?」
「見えるようにするんでしょう? 嫌いにならないし、僕はアナを自慢するよ」
ルーが笑顔で答える。
「それに僕の名前はルーカス、光だよ。もしアナが見えなくなっても僕が君の目になるから」
アナがルーカスに飛びつく。
「ルーごめんなさい! 大好きよ」
まるごと抱えるように、レイが腕の中に二人を抱いた。
「ルーもアナも僕の宝だ。君たちを誇りに思うよ」
「お父様ごめんなさい、メガネをありがとう」
メガネはアナの好きなピンク色、テンプルにハートの飾りがついていた。
青空教室にメガネをかけて行くと、子どもたちがすぐに気づく。
皆が寄ってくるので少し身構え、ルーはアナを背に隠すように前に出た。
「アナ様、すごいおしゃれ!! 可愛い!!」
親友のアイラがもっとよく見せてとせがむ。他の子どもたちもいいなーと羨ましげ。
双子は顔を見合わせて笑った。
「オリビアはすごいな。ルーの名前を決めたのはオリビアだった。やっぱり僕は敵わない」
レイがエリオットに、男親だけじゃだめだなと弱気を見せた。
「レイも必死に子育てしているじゃないか。あんないい子に育って、伯父としても嬉しい。レイもオリビアも双子も、私の自慢の家族だよ」
「子どもが子育てしてるって、最初は思ったけどな」
「ヴィン、今、そういう話してないから」
レイがヴィンを睨みつける。
「いい話だったのに」
エリオットが残念そうにヴィンを見る。
「それに一緒に昼寝してるの見たら、貴種の猫三匹だろ」
「確かに猫が重なってるようにも見える」
エリオットもよく見る光景に笑みが浮かぶ。
「もう知らない!」
「ほら子どもだ」
「ヴィンも早く嫁をもらって、子どもを産んでもらいなよ。少しは苦労しろ」
レイが大量の釣書をヴィンに投げつけた。




