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ルーカスは作りたい

 ウィステリアの草木染めは、柔らかな色から濃い色まで、とても人気があった。


 特に繊細な刺繍を施したものは高額で取引され、領の主な収入源となっている。


「今日は一緒に染物の工房に行ってみよう」


 ルーカスは何かを作り上げる工程を見るのが大好きだ。


 最初はトーマスの先の引っ込む剣を見た時。木を削り、形が変わる様子が面白かった。


 ソフィアおばあ様が作るお菓子も、粉や卵を混ぜて焼くだけで膨らむのが不思議だった。


 ハリー王子から貰った丸太小屋の模型も、釘を使わずどうして壊れないのか、飽きずに考える。


 でもわからない。


 いつか自分も何か作りたい!


 父も雑貨屋の裏でゴリゴリと薬草をつぶし、量りを使い、調合していく。


 剣を振るう姿も格好いいが、人を治す父はもっと格好いい。


「何かお手伝いさせてくれないかな」


「どうだろう。熱い湯や薬品もあるから、勝手に歩き回ったり、触ってはいけないよ」


 息子の尽きない興味とやる気に、レイも誇らしい。


 思い返せば自身の子どもの頃は、モノを壊して回っていた。


 時計など何でも後ろ側が気になって、やたらと弄りくり回しては、兄たちに叱られた。


 王宮の広い庭園を駆け回り、木登りしては侍女や護衛をヒヤヒヤさせ、池に入り、木刀を振り回す。


『姫』と呼ばれる一方、野生児レイちゃんとも呼ばれていた。


 座学もわりと好きで、要領よくこなしたから大目に見てもらえたようだ。


 いつも服は泥だらけ。少しでも大人しくさせようと母はドレスを着せていたのかもしれない。


 今は薬草を扱うので指先が紫や赤く染まることもあるが、手袋で隠せるから問題ない。


 中身は普通にやんちゃな男の子だった。


 子どもらが真面目なオリビア似で良かった。


「今日はルーカス様もご一緒ですね。こちらにどうぞ」


 新しく得意先となったグレイシャス国への納品で、工房はフル稼働中だ。


 出来たばかりの反物が並び、色とりどりで見ていて楽しくなる。


「これはどの草を使ったの?」


「これはですね……」


 工房長が丁寧に答えてくれる。


「お屋敷でも野菜の皮を使って簡単にできますよ」


「お父様、僕もやってみたいです」


「材料を料理長にもらってこようか」


 玉ねぎの皮が用意された。


 今夜の食事は少し苦手な玉ねぎがたくさん出そう。でも残さないように頑張ろう!


 雑貨屋の台所が、急遽ルーカスの染物工房に早変わり。


 ソフィアおばあ様にもらった白いハンカチをよく洗い、重たい鍋は父に任せてお湯で煮てもらう。


 お湯が沸いて、ポコポコするのが面白い。


 最近数字も読めるようになり、玉ねぎの皮はきちんと量れた。


 黄色いお湯にハンカチを入れて、薬につけたら色が変わる。


 色々な工程をやり遂げ、ルーカスは大満足だった。


「次は剣が作りたい!」


 ルーカスが次も一緒に作ろうよと父にねだった。


「ナイフを使うのは、もう少し大きくなってからだね」


「違うよ。カンカン叩くんだよ」


 レイは勘違いしていた。


 おもちゃの木剣ではなく、ルーカスは本物の切れる剣が作りたいのだ。


「待って。それは父様にもできないな」


「大人になれば何でもできるんじゃないの? お父様にできないことがあるの?」


 悲しそうな顔で見られて、レイは言葉に詰まる。


 レイにも興味はある。


 男子として剣士として。


 でも、できるかと言われたら、できそうにない。


「とりあえず鍛冶屋さんを見に行こうか」


 ルーカスは気を取り直し、元気に「行く」と答えた。


 鍛冶屋の工房は熱く、音もすごく、親方の迫力もすさまじい。


 何もかもが驚きで、ルーカスは父の後ろに隠れてしまった。


「僕もお父様みたいに、剣は使うだけの人になる」


 剣作りは諦めてくれたが――


 『使うだけ』って。


 少しだけ、父は寂しかった。

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