表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/119

温泉村その後

 ハリーから温泉村の丸太小屋完成報告があった。


 早速視察に行こうとしたレイは、エリオットに止められ、泣きながら書類を片付けた。


 レイは嘘泣き。ヴィンはあくびで涙が止まらない。事務官アランは帰りたいと涙を流していた。


「もうここは、村じゃないぞ」


 最初に来た時からの変わりようにヴィンが驚く。


 レンガを敷き詰めた通路。ウィステリアにちなんだ藤棚。建物の壁の色は白に、屋根は青に統一。窓辺には花を飾り、おとぎ話に出てくるようだ。


 女性客は喜ぶだろう。


 村民も金さえ出してくれるならと反対はしなかった。ちゃっかり家の修繕費も出させた。


 商店もいくつかあるが、街の人気商店が荷車に商品を並べていた。


 もちろんソフィアの菓子店もレイの雑貨屋も出店。


「ここに領主館を移そうかな」


「なおのこと村じゃなくもう街にしろ」


「わかってないですね〈村〉って言うのが商品価値なんです!」


 事務官補佐のエレノアが口をとがらした。


 可愛い村で足湯に浸かる、泊まる宿は素朴な小屋。それもあまり客を受け入れず、予約が少し混むくらい。


「これでだめなら、次の手です!」


  エレノアがこぶしを上げる。


 男性客向けの麦酒を出す店の食事は、悪酔いしないように胃に優しいものにした。至れり尽くせり。


「気持ちいいね」

「お父様ったら、寝ないでね。ルーもよ」

「ダメ、寝そう」

「僕も寝い」


 家族用の少し広めの足湯に浸かりながら、レイ親子はくつろいだ。


 レイ達が泊まるのは、いつの間にか作っていた領主専用の丸太小屋。客室を含め部屋は7つもあり、もう小屋ではない。


「だって、急な来客用にも必要でしょう」


 領主である公爵様が、金と権力に物言わせた。


「父上がアル兄様に王位を譲ったら、絶対住み着きそうだな」


 レイは阻止する手立てを今から考えていた。


 すれ違う足湯客は似たような服を着ている。


「これクローク国の保温性があって軽い生地を使って、母上が足湯客専用に新しく作ってくれました。いいでしょう」


 購入しても借りてもいい。女性用は脱ぎ着しやすいワンピース。男性用も上下ゆったりとした作りだ。


「親子そろって、恐れ入るよ」


 ヴィンもゆったり服を着せられた。


「今夜はみんなもゆっくりしてきていいよ」


 足湯の帰り、レイはヴィンたちに好きに過ごすようにと休みを与えた。


 夜間は警備隊員を日中よりも増やしている。のんびりした雰囲気にスリも出やすいだろうと、警戒は怠らない。


「たまには親子だけでゆっくり過ごすから」


 ヴィンと護衛三人はワイワイいいながら飲みに出かけて行った。


 次の日、朝から双子はエリオットとエレノアに連れられ散歩に出かけ、ヴィンたちも帰ってこない。


 レイは一人長いすに寝ころび、本を読んでいた。


 バタンと扉が開く。


「ノックも先触れもなく、失礼なお客は誰かな」


 レイが起き上がり、問う。


「そんな礼儀は俺たちにはないな」


 下卑た笑いをする男が三人。


「ここにそこらの女よりお綺麗な貴人がいるって聞いて、拝みに来てやったよ」


「もうお姫様は卒業したんだけど」


「少し俺らと楽しもうぜ」


「断る」


 剣が手元にない。いつも隠し持っている短剣もない。素手だけではレイには不利。


 三人がじりじりとレイに近づく。


 ちょっと面倒なことになりそうだ。後ずさりしたレイの背が壁につく。


「ほんとに男にしておくにはもったいないな」


 酒の匂いが鼻をつき、にやつく顔がさらに近づく。


「これ以上近づいたら、地獄に行っても追われる身になるけどいいかな。身内友人引き連れて地獄行の覚悟はある?」


「強がる美人もいいな」


 レイの目が男の懐にあるナイフを見つけ、取り上げようとしたその時。


「おい、何やってる?」


 顔を赤くしたヴィンが戸口に立っていた。


「護衛か? 酔っぱらって役にたつのか?」


 侵入者は相手にならないとゲラゲラと笑った。


 無言で近づき、ヴィンが一人目をドカーンと投げ飛ばした。


「この野郎!」


 二人目は腹を思い切り蹴り飛ばされた。


「ぐえっ!」


 三人目はナイフを向けているが、握りつぶさんばかりに腕をつかんでやった。


「えっと、ありがとう」


 レイが目を丸くしている。


「あまり……無防備に……その辺を歩かないでくれ……」


「忠告もありがとう」


 急に酔いが回ったのか、ヴィンの足取りがおぼつかない。ふらふらと歩き、レイの前でドンと片手を壁につけた。


 レイはヴィンを見上げる。


 ヴィンは青紫の瞳をじっと見つめる。


「……」「……」


「おい、何やってる?」


 エリオットが戸口に立っていた。


 妙な気配に双子はエレノアと中に入らず外にいる。


「えっと、酔っ払い客に帰ってもらうところかな」


 ヴィンの体をよけ顔をだしたレイが、床に伸びている三人を見下ろしながら答えた。


 警備隊呼んでくるとエリオットが出て行った。


「ヴィン?」


 立ったまま寝ていた。


 羞恥で真っ赤なヴィンと、うなだれる護衛三人組は平謝りする。


「もう飲みません。絶対に主君を置いていきません」


 エリオットに千回書かされた。


「もしあの時、俺が行かなきゃどう対処したんだ?」


「あんな素人から逃げるのは容易いけど、捕まえたかった。あとこれ」


 レイが手の甲をあげて見せる。


「綺麗な手だな」


「そこじゃない。これ」


 右手の指輪から細い針が飛び出て来た。


「目や首なら、ぐさっとできる」


 左手の指輪からは超強力睡眠剤が出せる。


 それを靴にも仕込んでいるという。


 だから近づけさせる必要があった。


 仕込み直しがすごく面倒で、最後まで出したくなかったというのがレイらしい。


 さすが俺の主だ。


 侵入者は、鉄格子付の荷車に乗せられ、下着姿のまま見世物になった。


 泥団子はご自由にお投げください、と書かれた木札も置いてある。


 案外こういった罰に効き目があるらしく、不届きものはいなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ