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忘れ物には気を付けて

 娘溺愛の父と伯父たちのおかげで、アナベルは見合いすることなく、アイラと王都巡りを楽しんでいた。


「ルーへお土産を買いたいわ」


 父おすすめのティーサロンでレイ様プレートを食べ、次はどこへ行こうかと相談していた。


「何にするか決めているの?」


「ルーは最近お父様に木剣をいただいて喜んでいたけれど、私には剣のことはさっぱりわからないの。どうしようかしら」


「ルー様は読書もお好きみたいだから、栞はどうかしら。何枚あってもいいし」


「さすがアイラちゃんね。早速見に行こう」


 二人はリアンと供を連れ、文具などを扱う店に入った。


「これなんかどうかな」


「ルー様、きっと気に入るわ」


 アナが選んだのは剣が型抜きされている栞。


 メイドに会計を頼み、店内を見て回った。


「あれを見て」


 棚にはかわいらしいぬいぐるみや人形が並んでいた。


「うちの領にはこういうものを売っているお店はないわね」


 おもちゃ屋はない。雑貨屋の隅に、いくつか先の引っ込む剣やカードがあるくらい。


 木彫りの動物やあまり布で簡単に縫い合わせた人形を家族が与えているので、買うということがない。


 ただ忙しい家事の合間で作るので凝ったものはできない。


 アナは抱いている〈レイちゃん人形〉を見た。


 週末の夜は一緒に過ごすが、やはり留守がちな父が恋しく、祖母にねだって一緒に作った〈レイちゃん人形〉。


 騎士服とドレスの着せ替えができる。今日はドレス姿のレイちゃんと一緒に出かけていた。


 アイラも抱いている〈ウサギのぬいぐるみ〉を見た。


 以前アナの私室を訪ねた時に、部屋に置いてあった大きなウサギのぬいぐるみを真似て作ってもらった。


 アナのものよりサイズは小さいが、もう着れなくなった服をほどき、小さく切った布を縫い合わせた、世界でひとつのぬいぐるみをいつも持ち歩いていた。


「これなら時間がかかっても、自分たちで作れるわよね」


 次のバザーに出そうと、青空教室の後に、思い思いに好きなぬいぐるみや人形をチクチクと作っていた。


「上手にできたのだけ雑貨屋に置いてもらおうよ。リボンとかつけてバザーでは買えないものにしたらどうかしら」


「いい考え! さすが商家のお嬢さんね」


「そうよ。私はお父さんの後を継ぐつもり」


 二人は話に夢中になり、供に急かされ、馬車に乗り込んだ。


 そして、〈レイちゃん人形〉も〈ウサギのぬいぐるみ〉も店に置き忘れてしまった。


「大変、レイちゃんがいない」


「うさこもいないわ」


 王宮に帰って気づいた二人は大慌てだった。急ぎリアンに探しに行ってもらい、夜には手元に戻った。


「レイちゃんお帰り。無事で良かったわ」


「うっかりママでごめんね」


 二人は大事な人形たちを抱きしめ、領へ帰る馬車でも離さなかった。



 今は月に一度、教会でバザーが開かれている。


「今日も私たちのぬいぐるみを買ってもらおう」


 まだ針仕事に慣れていなくて不格好なのもあるが、それも味があり、材料代はないに等しく、子どもの小遣いでも手がでるため大人気だ。


 どれがいいかと悩む小さなお客さんたちの後ろから、大きな声がした。


「これは困った事だ。君たちの売っているぬいぐるみは、うちで扱っているものを真似たのかな? ただ同然で配るのは良くないな」


 恰幅のよい中年男性が、教会の前に並べられたぬいぐるみを指さしている。


「違うわ。これは私たちが作っているのよ。真似てなんかないわ」


「ほうこれでもかね」


 大きな鞄から出されたのは、大きさも、切れ端を縫い合わせた作りも、アイラのうさこと同じようなぬいぐるみ。


 さらに〈レイちゃん人形〉そっくりなものまで出て来た。値札もついていてバザーのものより十倍以上する。


「親御さんはいるかな? いくら子どもでもこれは見過ごせないからね」


 小さな子どもだけと思い、男は並べられたぬいぐるみを渡せと喚きたてた。


「この子の親ですが、何か?」


 レイが騒ぎを聞きつけやってきた。


「お父様、この方が私たちが真似て作っているって言うの。違うわ」


  女の子たちは男の大声に怯えていた。


 レイは心配しなくていいと静かに声をかけた。


 男は商人で、たまたま仕入れに訪れた王都の店で良い品を見つけた。購入しようとしたが、商品でなく客の忘れ物だった。


「買えなくても、少し見せておくれ」


 ぬいぐるみと人形をひっくり返し、じっくり見たあとメモも取っていた。


 商人の間で新しい売り込み先はウィステリア領が良いと聞いてやって来たら、あの時のぬいぐるみがバザーで売られている。


 これでは自分の作らせたものが売れなくなる。


「商人。その手に持つものを見せてくれるかな」


 レイが穏やかな顔で手を差し出す。


 子どもより大人の私を信じるだろう。ぬいぐるみと人形を差し出した。


「へえ、良く似せているね。子どもたちが作ったものよりは確かに出来がいいけど、うちのも見てくれるかな」


「どれどれ……ん?」


「よく見て。足の裏にWと縫い付けてある。これはウィステリア領主である私のお墨付きってことだよ。それに君の人形はひどいね。私はそんな下膨れじゃないし、お腹も出ていない。何よりこの〈レイちゃん人形〉は女の子じゃなく男の子だよ」


「そうよ。お父様は国一番のきれいなお顔なのよ。そんな不細工じゃないわ」


 ドレスを着ているけど、男の子?


 男の人形には値札に人形〈女の子〉と書かれていた。


 ちなみにアナとアイラのものにはWはない。


「そんな馬鹿な!!」


 ウィステリア領主は第三王子レイモンド様。


<レイちゃん>はレイモンド様だった。


 顔面蒼白の男が逃げ出そうとする。


「営業妨害現行犯。捕まえて」


 男は警備隊に引っ張られていった。厳重注意と罰金、ウィステリア領への出禁が言い渡された。


「あとで頑張ったご褒美に、ソフィアの菓子店から新作を買ってきてあげるね」


 レイがにっこり笑って立ち去った。


 あっという間に悪人を退けて、守ってくれた。かっこ良くて、優しい領主様。


 女子はみんな、領主様が大好き。

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