はじめての狩り
最近ルーカスの様子がおかしい。
鶏を預けている教会に行った時から、口数が少ない。
「どうしたの? 父様にお話ししてほしいな」
「あのね。卵はね、ニワトリさんが産んだんだって」
「そうだね」
貴族の子として大事に育てられたルーカスたちは、卵も鶏も知っているが、結びついてはいなかった。
「ごはんのお肉もね、ニワトリさんだったの」
「そうか。それで最近ご飯も残すようになったのかな?」
「それにね、ぼくはニワトリさんにさわれなかったの。そしたらみんなが、いくじなしって笑うの」
「悔しかったんだね」
膝にのせたルーカスを優しく抱きしめた。
「父様だって小さい頃、女の子みたいって笑われたよ」
「おとしゃまが笑われたの?」
「そうだよ。だってお母様とおそろいのドレス着てたら、笑われちゃうよね」
ルーカスが目を丸くした。
「おとしゃまもくやしかった?」
「父様の一番大好きな人にカッコいいって言われたから、それで満足だよ」
いい機会だ。そろそろ色々と教えようか。
レイは双子と教会の子ども達を連れて山に入った。
「ほら、ルーの好きなキノコだよ。あっちにはアナのすきな梨がなってるね」
双子たちは初めての収穫に夢中だ。
「みんな、静かにここをのぞいてごらん」
子ども達がレイの周りに集まり穴をのぞくと、そこには罠にかかったウサギがいた。
「痛そうだよ! 逃がしてあげて!」
ルーが早く早くとレイの袖を引っ張る。アナは怖くて父の後ろに隠れた。
「すごい! シスターたちが喜ぶよ」
教会の子ども達には獲物にしか見えない。
「ルー、アナ。このウサギはみんなのご飯にするよ」
「嫌だ! 食べない!!」
「食べないとルーもアナも大きくなれない。だからウサギにありがとうって感謝して食べるんだよ」
嫌だと泣くばかり。
まだ難しいかな。
しばらく山の中を歩きながら、ベリー摘みをしていると、バリバリと木の枝を折りながら熊が現れた。
山へ入る前、トーマスが先に大型動物がいないか見回ったが相手は野生だ。じっとはしてくれない。
熊よけの鈴の音も、風に紛れて届かなかったらしい。
教会の子ども達はトーマスの側にいて、少し離れている。
レイは素早く双子を脇に抱え、熊の風上へ移動し、茂みに隠す。
「二人とも声を出してはいけないよ。ルーカス・ウィステリア。妹を守るんだ」
レイが真剣な表情でルーカスを見ると小さくうなづいた。
「おとしゃま、怖い」
「アナベルも泣いてはいけないよ」
双子が熊の視界に入らないことを確認して、レイは熊へ向かった。
「アナは僕が守るからね」
泣きたいのを必死でこらえ、ルーカスは妹の手をぎゅっと握りしめた。
双子はビュンとうなるような音にびくっとして、熊の断末魔の声におののき、ドサリと足元に響く音に震えた。
「二人とも静かにできたね」
双子が顔をあげると、返り血を浴びた父がいた。
さすがに熊を完全に仕留めるには、一閃だけでは足りなかった。
「おとしゃま、おけがしたの?」
「大丈夫だよ。あれ、ルーこそ膝から血が出てる」
必死で気づかなかったのか、どこかにひっかけたらしい
「ぼく、もう泣かない。おにいちゃんだもん」
「そっか」
目を細めたレイは、ルーカスの頭をわしわしとなで回した。
「うわー、領主様が血だらけ!!」
子ども達がレイの姿に驚き、トーマスの後ろに隠れる。
「主、顔くらい拭けよ」
「トーマス、援護助かった」
熊の額に刺さったナイフがなければ危なかった。
「すっげー、大きな熊!!」
「ルー様は怖くなかったの?」
「僕は騎士の子だからね」
「ルーはわたしを守ってくれたの。すごくカッコ良かった!!」
「一番小さいのにすごいな」
「俺なんて見ただけで漏らしたのに……」
「ルー様、帰ったら騎士ごっこしようよ」
帰り道。ウサギを誰が担ぐかでもめたが、じゃんけんでルーと一番年上の子が勝ち取った。
熊は予定外だったけどうまくいったみたいだ。
それにしても山奥でもないのに熊か……。
「トーマス、あとで傭兵たちと掃除しておいて」
「了解」
もしやと思い捜索させると、密猟者が見つかった。




