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双子たち

 オルレアン侯爵の領地に向かう道中。エリオットがヴィンに話したと言っていたので、レイは遠慮なく我が子自慢をする。


「会う前に必ず手洗いをしてください」

「手袋までは言わないよな」

「抱っこしていいとは言ってません」


 親馬鹿すぎて頭が痛くなる。


「あれはやばい。かわいすぎて目がつぶれるからな」

「人の子じゃないな。天使か妖精だな」


 セオもトーマスも骨抜きのようだ。


「寄ってくる虫どもはすべて斬り捨てます」


 いつもは澄ましているリアンまでどうした?


 馬車にはレイの部屋にあったぬいぐるみだけでなく、菓子やら何かわからない箱がいくつも積まれている。荷馬車ではだめらしい。


 館に着くとアリアンから降りたレイが玄関へ走る。執事が扉を開けて待ち構えていた。


「レイモンド様おかえりなさいま…せ」


 レイが片手をあげ答えるが、執事の前を足早に通りすぎる。


「ルー!! アナ!! 会いたかった!!」

「おとしゃまだ~」

「おとしゃま~」


 今は3歳になるという双子が父親に向かって、とてとてと走ってくる。


 さすがあの金と銀のすみれ姫の子どもたち! 血統書付きのサラブレッドだな。たとえが馬という残念なヴィン。


 レイが大きく広げた腕の中に2人を閉じ込めた。もはや宗教画。


「エリオットおじさんが、お仕事を沢山持ってくるから帰れなくてごめんね」


 今も領主の代わりに王都へ行っているエリオットおじさんが聞いたら泣くな。


「レイモンド、お帰りなさい。今回はゆっくりできるのかしら?」

「おばあ様ただいま戻りました。2週間休みをもぎ取ってきましたよ」

「あなた働きすぎです。子どもたちに顔忘れられても知りませんよ」


 それを聞いていたルーカスが父の首に抱き着く。


「まいにちおとしゃまの絵をみてるから、わすれないよ」

「そうよ。おかあしゃまのおかおもわかるもん」


 今度はアナベルがレイの頬にキスする。


「うちの子がいい子すぎる! もう1週間のばせるかな…」


 レイはもう1度強く双子を抱きしめた。


 俺も帰ったら書類仕事手伝おう! ヴィンは柄にもなく思う。そう思っただけだが。


 母親を亡くし乳飲み子だった双子は、オリビアの実家に引き取られた。


 半年ほどはレイもオルレアンの屋敷にいて子どもらの世話をしていたが、父王の言いつけで叔父の領地を訪れたその後領主となり、親子は今離れて暮らしている。


「さぁ朝食にしますよ」


 双子と片時も離れないレイは引きはがされ、双子も子ども用の椅子へ座る。


「今日は久しぶりにオムレツを作りましょうね」

「ヴィン目を閉じちゃだめだよ。卵におばあ様の魔法がかかるから」


 双子もワクワク顔で何が起こるのかと興味津々だ。


「ほら見てごらん。トロトロ卵がくるって回ってオムレツに変身!」


 レイと双子がパチパチと手を叩く。


「ヴィンセントにもお出ししようかしら」

「大奥様。ヴィンと気軽にお呼びください」

「それはいけないわ。あなたヴィンと呼ばれてお行儀よく食べられるかしら? きちんと名前を呼んだらマナーも思い出すでしょう?」


 にっこり拒まれた。昨夜ヴィンは、いろいろマナーを忘れてやらかしたのだ。


「子どもの前ではマナーは守ってほしいですね。ヴィンセント・バーデット辺境伯」


 悪乗りしたレイがヴィンを追撃する。


「レイちゃんも冷めないうちに召し上がれ」


 レイちゃん? ヴィンが微妙な顔で、オルレアン前侯爵夫人とレイをみる。


「あらおかしいかしら。祖母くらいは孫を甘やかさないとねぇ」


 オルレアン前侯爵夫人が、ほっほっと上品に笑みを浮かべる。たぶん王妃様はじめ王家全員レイにかなり甘いと思うが、まだ足りないとでも?


「さぁ、アリアンに会いに行こう」


 レイは昼寝を終えた双子を厩舎に連れ出した。


 ルーカスはレイの持ってきた木馬がとても気に入って、本物のお馬さんが見たいとねだったのだ。アナベルもアリアンの左右に揺れる尾を触ろうと手を伸ばす。


「アナ危ないよ。優しく首をなでてあげて」


 レイがアナベルを抱き上げて、アリアンの首をなでてみせた。


「ルー。アリアンに餌をあげてごらん」


 次はルーカスを抱き上げ、手にニンジンを持たせる。


 護衛3人もきて、かわるがわる子どもらを世話したがるのには笑えた。ちなみに木馬はトーマスの手作り。


「アリアンがヴィンセントおじさんのオニキスと結婚して、仔馬が産まれたらルーにあげよう」

「うれしいな。オニキチュよろしくね」

「おとしゃま。わたしには?」

「アナにはかわいい馬車をあげよう。白いお馬をヴィンセントおじさんに頼もうね」


 ヴィンは頭の中で領地の厩舎にいる白い馬を思い浮かべる。あいつに仔馬ができたらさぞ見栄えがいいだろう。本当にこの親子ねだり上手だ。


 その夜、あくびをしてもなかなか寝付かない双子がぐずった。


「まいにちおとしゃまにあいたいの。でもだいじなオシゴトしてるから、がまんなの」

「おばあちゃまに、おとしゃまのおオテガミよんでもらうの。でもね。さびしくて、もういっかいよみたいけど、まだわたしたちジがよめないの」

「おいで」


 レイが2人を膝にのせる。


「またすぐにルーとアナに会いに来るよ。大きくなったら2人もお父様に会いに来て」


 双子が嬉しそうにレイに抱き着く。


「そうだ、今度は絵を描いて送るよ。そうしたら字がわからなくても大丈夫だね」


 安心したのか目がとろんとなり、レイを挟んで双子は眠った。


 翌朝その話を聞いた護衛3人は泣いた。


「バーデット領に1本街道を作る。少しは近道になるだろ」

「ほんとう?」


 ヴィンの提案に双子もよくわかってないが喜んでいる。


「はい。このヴィンセント・バーデットが承ります」


 恭しくヴィンが双子に腰を折って見せる。レイは満足そうにその様子を見ていた。


 明日には自領へ帰るはずだったレイの元に、夜通し馬を走らせたエリオットが王宮から戻ってきた。

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― 新着の感想 ―
可愛らしいお子さんたちでほっこりしました。3歳はいい年の頃ですよね。一番、良い時期かもしれません。離れなくてはいけないのもしんどいですね。今回も楽しく読ませていただきました。
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