幸せな時間
結婚式が終わり、馬車でゆっくりと離宮へ移動した。
「領地を出るのは初めて」
窓から見える景色に大はしゃぎのオリビア。
オリビアのための馬車は揺れが少なく、車内も広く座り心地も最高級。
「すごい! かわいいお屋敷ね!」
「大事な奥さんは僕が運ぶよ」
オリビアを横抱きしたままレイは屋敷へ入った。
夫婦の部屋には大きなテラスがあり景色がよく見える。
「見て! 湖が光ってる!」
「釣りもできるし、ボートにも乗ろう」
「私は今まで優しい家族に囲まれ十分幸せだと思ってた。でもレイと一緒にいると世界がまるで違うの。きっと同じ景色を見ても違って見えると思うわ」
「僕もだよ」
「今日から私が旦那様にオムレツを作ります」
朝からエプロンをつけたオリビアが食堂で待っていた。新妻が可愛すぎる。
「おばあ様に習ったの?」
「いえ初めて作るの。だって皆私にはやらせてくれないもの」
シュンとする新妻もすごく可愛い。
「じゃ僕が初めて君の手料理を食べられるのか。すごくうれしい」
オリビアの真後ろにぴったり張り付いた料理長が、手も出せず心配そうだ。
初めてのオムレツは塩気がきいて、形も崩れていたが、美味しいとオリビアの分までレイが食べてしまった。
「明日は僕も挑戦しようかな」
「旦那様。妻の仕事とらないでください」
新妻がやっぱり可愛すぎる。
オリビアは実家にいた頃よりかなり健康になった。
幼い頃の大病が、家族を超がつくほどオリビアを過保護にしすぎたせいもある。レイに誘われるまま行った散歩や遊びが適度な運動になったようだ。
「そうれ」
「キャー!! 怖いけど気持ちいい!!」
庭にはブランコがおかれ、レイがオリビアの背を押す。
「思った以上に高いのね。走るのはだめかな」
「こんなお転婆さんとは思わなかった。走るのはだめだよ」
アリアンに1度乗りたいとねだられ、オリビアを前に乗せてゆっくりと散歩する。アリアンもわかっているのか揺れはほとんどない。
オリビアは草の上に寝ころび青空を見上げ、たくさん着こんだ上に毛布でくるまれながら、夜空の星もみた。
最初エリオットが心配で様子を何度も見に来ていたが、次第に安心したのか顔を見せなくなった。
「お兄様は特に過保護すぎるのよ」
「夜の散歩だけは侯爵家への手紙に書かないで。絶対叱られる! 連れ戻されたら大変だからね」
寝支度を終えたレイが明日は何しようかと話していた時、先に横になっていたオリビアがベッドの上に座りなおした。
「まだ確証はないのだけど、月のものがこないの」
「えっ」
「だからね、もしかしたら赤ちゃんができたかも…」
顔を赤らめたオリビアを、レイは優しく抱きしめた。
「すぐに医者を呼ぼう」
今にも飛び出していきそうなレイの袖をつかむ。
「明日お願いします。できればレオン様の婚約者ブリジット様に診ていただきたいの」
「わかった。朝になったらすぐに早馬を出すよ」
その夜はどんな名前にしようか、どっち似かなと若夫婦は幸せな時間を過ごした。