宝物
レイが早馬を出した翌日、ブリジットが看護人を連れてやってきた。
「さあご主人とはいえ、男性は出てくださいな。すぐお呼びしますよ」
ブリジットに言われ渋々寝室を出たが、すぐに呼ばれる。
「おめでとうございます。ご懐妊ですよ」
お腹に手をあてたオリビアを、レイが壊れものをさわるように、優しく抱きしめた。
「私もまさか本当に赤ちゃんができるとは思ってなくて……」
「ただですね、双子かな」
「「えっ」」
「安定期に入るまでは無理せず安静にしていてください。私も様子を見に来ますし、看護人を常駐させましょう。それから……」
顔を見合わせた若夫婦は、注意事項をメモした。
「また来ますね。お大事に」
「ブリジットを送ってくるよ」
レイはオリビアの頬にキスを落とし、また後でと部屋を出た。
「正直申し上げますと、双子の出産は母体の負担が大きいです。ご判断は早いうちに」
ブリジットは帰り際レイに告げた。
「二人で話し合うよ」
寝室で休むオリビアの傍らにレイは腰をおろした。
「オリビアの気持ちを大事にしたい。でも……」
レイは二人の子をとても喜んでいること。双子の出産が母体に負担になることを伝えた。
「レイお願いよ、私はあきらめない。私とこの子達を信じて」
何度も話し合い、二人は出産を選んだ。
レイも決めたら行動にうつす。
「お母様だってそこまでしないわよ」
オリビアに笑われほどの熱愛世話ぶりに、メイドたちも若干引いた。
散歩には必ずレイと一緒に行くこと。絶対にひとりにはならないこと。お湯に長く入らない、必ず二人付き添わせる。編み物も刺繍も時間を決めること。
他あげたらきりがない。
そうして、穏やかに過ごしているうちに出産の日を迎える。
朝から離宮はあわただしくなり、レイも食事が喉を通らないほど落ち着きがない。
「陣痛が始まってもすぐ産まれませんよ。お父様になるんでしょう? どんと構えて!」
ブリジットが泊まり込みで幾度となく様子を知らせてくれるが、時々聞こえるオリビアの痛みをこらえた声にレイが顔を青くする。
「代われるものなら代わりたい」
「女は今だけ無敵ですよ。男には無理ですね」
日をまたぎ、朝方ようやく出産が始まった。
ひとり目、ふたり目と無事に産まれた。
汚れた白衣を脱ぎながら、ブリジットがレイを寝室へ呼び入れた。
「奇跡だった。先に産まれた女児の頭の位置も良かったし、思った以上に出血が少なくて母体も大丈夫よ。お母さんに負担をかけないように産まれきたわ。不思議よね。誰が教えたわけじゃないのに」
オリビアのベッド脇の籠に、小さなふたりの赤子が眠る。
産道を通って疲れたのだろう。直に目覚めて乳を欲しがる。
「オリビア、お疲れ様。本当にありがとう。嬉しすぎてどうにかなりそうだよ」
妻の顔じゅうにキスを落とした。
「私、天使の声を聞いたの。もう痛みも忘れるほどに清らかで、一生忘れない」
まだ興奮からさめないオリビアの目がキラキラと光る。
「僕も部屋の外で聞いていたよ。僕らの天使たち、初めまして。僕がお父さんです」
恐る恐る抱っこしたレイが微笑む。
若い夫婦は、ふたりの天使の重みと温かさに感謝した。
か弱くなんかない、守られるだけじゃない、母って強いなと感心してしまう。
それに比べおむつの交換くらいしか自分の出番はないのに、乳母や看護人にそれもとられかなり寂しい。
今度こそ素直に父を招待しようと思うレイだった。
男児はルーカス。
母親似の淡い金髪に青紫の瞳。
女児はアナベル。
父親似の銀髪に青紫の瞳。
双子は両親に愛され、すくすくと育った。




