どうすることもできない
背中に妹を乗せ、再び悟は歩き出す。久しぶりに背負った妹は、病気の所為か思っていたよりも重くなっていなくて、疲れた体には嬉しかったが、それ以上に寂しかった。
自分が一日中歩いてた事を考えると不思議ではないが、加奈子が心臓で苦しむ事もなくここまで辿り着いた事実は、不可思議な状況の中でも悟にとっては救いだった。
悟の足が一瞬止まる。特に目印があるわけでもなく、近くにある雑草の良く生えた畦や道の曲がり具合でしか覚えていないが、確かにそこは老犬や病気の猫が歩いているのを最初に見た道だ。自分がそこを同じように通っていることを悟は否応なしに実感させられる。
途中で角を曲がると家が近くになってきた。けれどそこに悟達が帰る事はない。行きたいと思う気持ちがあっても足がそこに向かわないのだ。加奈子と二人、名残惜しそうに家を目で追いながらその横を通り過ぎる。両親の姿は、当然ながら見えなかった。
遠目に見える黒い森は低い山のようにも見える。密集した木々は一つの塊のようだった。
静かな夜だった。虫の音もほとんど聞こえず、街灯もない闇の中を少年の足が地面を踏みしめる音だけが控えめに響く。
いつもの、何度も通った慣れ親しんだ道。視界が効かなくてもどこにいるかは悟達には大体分かった。ここを右に曲がればみんなと遊んだ小さな川に出る、この道を少し逸れれば友達の家に着く。
けれど、どれも選ぶことが出来ない。
着実に森との距離は縮まっていく。暗闇の中の森のシルエットは、境界線がぼやけていた。『いつか』、そこに行くことになるだろうという予感はあった。その『いつか』が来てしまっているのだ。悟は一瞬身を固くする。それにつられてか、加奈子も少年の首に回した手に力を込める。
(逃げられないのかな……?)




