ただ森へと──
現実として森が近くに迫って来たことで悟の恐怖が高まり、これまで何度となく行ってきた抵抗を繰り返すが何も出来ない。体を自分の意志で動かそうにも、可能なのはせいぜい歩くペースを遅くすることのみ。呼吸が荒くなっているのを実感した。そうしている内に悟は抵抗する気力が萎えてしまった。そして森へ行くしかないと言う結論が、理屈も無しに出てきていた。
ついに悟は道から外れる。しかしそれは一方通行の行進から抜け出せたわけではない、道が曲がっていて森とは別の方向に行くから外れたに過ぎない。
悟はこの地点には覚えがあった。ほんの一週間前、加奈子が森に魅入られたようになった場所だ。必死に止めてその時は事なきを得たはずだったが、結局無駄だったのかと悟は無力感で一杯だった。少し後回しに出来ただけで結果は変えられなかった。
運命のように、決まってしまった流れからは逃れることが出来なかったのだと悟は感じた。
(加奈子があの森へ行きたいと言い出した時にはもう手遅れだったのかな……?)
少年は、加奈子があの時点でもう死ぬことが決まっていたのではないだろうかと思った。森へと行く人たちを、生き物を何一つ止められなかったように。
そして自分はどうだったか考える。四六時中森のことを考えていた。その時からだろうか。もしかしたらあの犬が森へ向かっているのに気付いた時には――。
森は木々が鬱蒼としていて中が見通せない。木と草があるだけなのに、そこに入ってしまうと少年は自分の体がバラバラになるか、切り刻まれるかのような恐れを感じた。
足は止まらない。どれだけ近づいても闇しか見えなかった。汗も心臓の爆発しそうな音も止まらない。
何が待っているのか。何かが待っているのか。
手が届く距離だと悟が考えたその一瞬後、加奈子が泣き声か悲鳴のような声を上げ、二人が森に足を踏み入れ――
終わり




