死の彷徨
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深夜、悟は起きあがり、ベッドから降りて歩き出した。体の痛みは残っていて、手足も思うように動かせないがそれでも歩ける。
かなりの時間をかけ、病室を抜け出し病院の外に出た。それでも悟は歩みを止めない。そこが目的地ではないからだ。
薄い患者着の隙間から夜風が入り、身を縮めながらもゆっくり一歩ずつ足を進める。どの道を行けばいいかはっきりとは分からないが、何かに導かれるように悟は歩いていく。目的地へ。
街を出た頃にはいったん日が昇ったが、歩き続けている内にまた日が暮れた。ほとんど疲れも感じず悟はただただ歩く。例えけが人で無くても普通はそんな事できるはずもないのに。
偶然なのか人と出会うことは少なく、患者着のままうろつく姿を見とがめられもしない。
どれくらい歩いたのだろう。全身の痛みは耐えられないほどではないが少しずつ大きくなってきた頃、悟の目には見慣れた景色が入ってきた。病院から車でも数時間かかる、自分の住んでいる村へ戻ってきていたのだ。
徐々に悟の通っていた小学校も近づいてくる。しかし悟はそこでも立ち止まらずひたすら歩み続ける。
「あっ」
悟は何かに気づいて声を上げる。それは病院から抜け出してここまで来る間に初めて発した声だった。
加奈子が、悟の数十メートル先を歩いていたのだ。死んだはずの加奈子が。加奈子は足でもけがしているのか片側にだけ体重を乗せて危なっかしい足取りで歩いている。
すぐに悟が追いつくと、加奈子は一瞬驚いた後安堵の表情を見せた。
何故ここにいるのか、悟も加奈子もお互いに聞こうとはしない。何となく分かっているからだ。死んだはずじゃ、と悟が聞く事もなかった。代わりに悟は加奈子の足について心配そうに尋ねた。
「足、痛いのか?」
「うん、いたい」
悟の脳裏に地面に叩きつけられる妹の姿が映る。加奈子のほとんど動かない右足が、事故にあったという現実を思い出させる。
「おんぶしてやろうか」
加奈子は黙ってうなずいた。




