暗転
加奈子ははじめ新しい家の中を物珍しげに歩き回っていたが、次第にそれにも飽き始めた。その様子を見た悟はちょうど自分も退屈していたところなので、公園に行こうと誘う。公園はアパートのすぐ近くにあることを、車でその前を通った時に記憶していた。
「公園に行ってくる」
大家に遠慮して普段より小さな声で母親に告げる。
「公園? ああ、あそこの――。道は分かる?」
「大丈夫」
「後一時間したら帰るから、公園以外の所に行っちゃ駄目よ」
「分かった。行ってくる」
「行ってきまーす」
母親の言いつけに兄弟そろって応じる。
先に外に出た悟はアパートの敷地の外で加奈子を待つ。悟はまだ、気づいていない。
加奈子が遅れて駆けだしてきたところでようやく気づく、異変があるということだけを。
居眠り運転のトラックがまるで吸い寄せられるように兄弟に向かう。悟はトラックがかなりの速度で近づいて来るのが目に入ると一瞬、思考も体も停止した後、加奈子の手を取って車をよけようとしたが、間に合わない。
二人はそのままトラックにはねとばされた。
次に悟が目を覚ました時、悟は病院のベッドでたくさんの管につながれていた。淀んだ意識の中、少しずつ状況を把握していく。
(トラックに……ひかれて……どれくらいのけが……?)
体を起こそうにも起きあがれず、指もほとんど動かない。
「あ……あ……」
声だけはかろうじて出る。それを聞いて傍らにいた看護婦が両親を呼びに行く。
泣きはらした両親の顔は無表情の悟とは対照的だった。母親は「大丈夫?」の問いを繰り返しながら何が起こったかを悟に説明する。それを聞いた悟はゆっくりと聞いた。
「……加奈子は?」
両親は何も答えない。涙を浮かべ、小さく首を振る。それを見て悟は加奈子が死んだのだと理解した。悟の目にはゆっくりと涙がたまっていく。
その涙がこぼれだしたころ、悟は呟いた。
「…森に……行ったのかな……?」
「森? 行ったって何? どこの森? ねえ、何の話をしているの?」
悟は答えない、答えられない。両親の叫ぶような声掛けを聞きながら、次第に悟の目は閉じられていく。




