第1話
5年の月日が流れていた。
地球と水星の人々は、互いの存在を知ってからは少しずつ互いの理解を深めていき、今はとても友好的な関係となっており、地球に水星人が出入りすることも、水星に地球人が出入りすることも珍しいことではなくなっていた。そして、かつては稀に見た水星人と地球人が夫婦となることは、そのような情勢になってからは、たった五年の内に急増しており、日常化していた。
hmsringの運命に抗った為に、三代にも渡って続こうとしていたキャシーの先祖からの呪いのような状況は、一代目を救うことはできなかったものの、四人の勇気ある科学者の行動によって、その栄誉は歴史には残らなかったものの、星々の記憶と雄馬の記憶に刻まれ、和平な現実として、今の時代に確かに確実に繋ぎ止められていた。そして彼らの研究は、水星人と交友することにより更なる発展を遂げつつあった。
そして、勇気ある四人の科学者のその後はというと、、、
相も変わらず研究に明け暮れていたものの、四人には新しい家族が加わっていた。
雄馬と神菜の娘ゆな、仲田とキャシーの息子デイシーだ。二人とも同じ年齢で3歳になる年を迎えていた
。
「こら!ゆな!デイシー!研究室の中で走り回るなと何度言ったら分かるんだ!」
「は~い!」
俺が二人に注意するも、二人は元気よく研究室内を走り回り続けた。
「雄馬さん、いくら言ったって、ダメっすよ。俺もさっきから何度注意してるかもう覚えてません。それにあのくらいの年の子供は遊びたい年頃でしょうし、遊ばせてあげましょう。」
「でも、、何かにつまずいて転んだりしたら危ないじゃないか。そう思ったら、、、。」
「あなた、そんな叱り方じゃだめよ。見てて。」
喋りかけた俺の言葉に神菜が割り込み、ゆなとデイシーの前に立ちはだかった。
「ゆな、デイシー。」
「なあに?」
二人は首を傾げながら神菜の方を見た。
「言うこと聞かない悪い子のところには、、、モーモーが来るんだよー!!!」
神菜がホラーと恐怖を匂わせるような声と表情遣いで二人にそう言うと、二人は慌てた様子で神菜に抱きついた。
「ごめんなしゃい、ごめんなしゃい、言うことちゃんと聞くから、モーモー来ないよね?」
「そうだねぇ、、ゆなとデイシーが大人しくパパママ達のお仕事が終わるの待っていられたら、来ないんじゃないかなぁ?」
「わかった、、わかったよ、、!僕たち大人しく待ってるから、モーモー来ないで!ね?!ね?!大丈夫だよね?!神菜おばたん!」
「おば、、、た、、ん、、そ、そうね!大丈夫よ。じゃあいつものお遊びするところで待ってられるかな
ぁ?」
「うん!待ってる!」
「今日はママ達がお仕事終わったら、夜は美味しいご飯食べに行こうね!」
「本当?ご飯に行くの?!」
「本当よ~!」
「やったぁー!楽しみにしてるねぇー!!」
そう言って、ゆなとデイシーは研究室内のいつものお遊びスペースで二人で大人しく遊び始めた。
「なんだ、そのテクニック、、神菜いつの間にそんな技を身につけたんだ?」
「技というか、、私が子供の頃に、母が私にいつもそう言っていたのを思い出して、、それを真似しただけよ。」
「そんな子供の頃のこと、よく覚えてるな。」
「そうかしら?それとこの方法は、この間キャシーにも教えたのよ。ね?キャシー。」
「ええ、この間聞いて試してみたんだけれど、まさに効果抜群だったわ!教えてくれてありがとう神菜!
」
「いいえ、キャシー、これからも一緒に頑張りましょうね!」
「ええ、頑張りましょう!」
神菜とキャシーのそのやり取りを見て、仲田と俺には気が付かなかった団結力が二人には芽生えている様に見えた。
「ところで今度、金星と火星に、政府の人達の付き添いとして、星同士の更なる交友関係を築く為の交渉をしに行くんだろう?そのあとは木星、土星、天王星、、海王星、冥王星、、そして、新しく発見された星にも。政府の人達はそう話していたけれど、そんなに一遍に色々な星と交友関係を築けるのかな?と思
ってさ。だって、同じ星の中ですら、国同士で争ったり、内乱だってあるくらいなんだ。むやみやたらに
、一遍に色々な星と関わって宇宙規模で戦争が起こったりしたら、、、って思わないのかな?」
俺がそういうと、キャシーがその問いかけに答えた。
「雄馬さんのおっしゃる通り、私が水星にいた時に父からそのような話を聞いたことがあります。水星人は、別の星へと簡単に移動できる手段を持っていたので、いくつかの星とは既に交友関係を持っているのですが、逆に仲の悪い星もあります。そしておそらく、政府の方々が金星と火星から行くと考えたのには、地球以外で、私の父グラジオラスが、最寄りの知っている星の仲でも最も友好的な関係を持っている二つの星だった事が、政府の方が優先的に交渉すると決めた理由になったのではないかと私は考えています。やはりまずは友好的なところから着手していった方が色々な意味で話は早いですし、考えなしに動いているというわけでもないとは思います。」
「そうか、、でもなぜ政府やグラジオラスさんは、どんどん新しい星と関わり合いを持ちたがるのでしょう。このままでも十分に幸せだと思いませんか?確かに、科学技術に対しての興味や好奇心はありますけど、これ以上に欲張って、また新しいリスクを抱えるくらいなら何もしない方が良いと思うんです。」
「あなたは、この世にリスクのないことなんてあると思うの?」
神菜が突然そう言い放った。
「それはないかもしれないよ。でもできるだけリスクの少ない平穏な道を選んだほうが、この幸せを手放さずにいられるじゃないか。」
「そうかしら。仮にそれで無難に平穏に生き続けることができたとして、あなたは一生それで後悔しないと言い切れる?」
「ああ。だって俺は君と、、みんなと一緒にここでこうしていられることがとても幸せなんだ。だからこれ以上に、また新たな星々と関わることによってリスクを背負うくらいなら、ここでこのまま静かに無難に生きていたいと思うんだよ。」
「あなたがそう思うのは仕方がないと思う。けれど、あなたが思う程、平穏を守ることは容易ではない。私はそう思うわ。」
「そんな風に未来のことを不安に思う方が、うまくいかなくなるよ!」
「そう。」
俺たち二人のやりとりを見ていた仲田が会話に割り込むようにして入ってきた。
「まぁまぁ、とりあえず交渉しに行くのは、水星が友好的な星からですし、今はそこまで不安に思わなくても。それに、新しい星と交流していくことは、新しい科学との出会いになるって考えると、俺たち科学者にとってはとても興味をそそられることじゃないですかー!」
「でもその好奇心で家族や仲間が傷付く可能性が少しでもあると思ったら、いてもたってもいられないんだ!お前みたいにお気楽に生きているやつには俺の考えなんて分からないだろうな!」
「俺だって!色々考えてますよ!!だけど、俺たちがやってることはもう世界や宇宙に影響していることなんですよ!俺たちだけの問題じゃないんすよ!なんにも考えてないし周りが見えてないのは雄馬さんのほうですよ!それに雄馬さんの科学に対する興味や熱意や愛情ってそんなもんだったんですか?!今だけの科学以外の幸せにしがみ付いて、科学を手放して生きていこうとする雄馬さんなんて、俺は見たくなか
った。」
「結婚して子供が産まれてから考え方が変わっただけで、科学を手放そうとしてるわけじゃない!」
「そうでしょうか。俺には、科学を手放して、自分の家庭だけの幸せを見ていたいって、そういう風に聞こえましたよ。」
「だったら何が悪いんだ!」
「悪くはないですよ。ただ、そんな半端な覚悟でいる癖に、俺たちと同じ、大科学者名乗らないで欲しい
って、そう思っただけですよ。」
「お前!なんなんだよ!!一体何が言いたいんだよ!」
「別に。そんな中途半端な生き方してて悔しくないのかなって思っただけです。」
「んだと!」
頭に血が上って、拳を降り下ろそうとしたとき、仲田が俺の目を直視して言った。
「殴ってみろよ!」
俺は仲田の顔面の前で拳を握ったまま、殴れずに寸止めしていた。
「雄馬さん、あんたが今言ったことが全て本心なら俺を殴り飛ばせたはずなのに、俺を殴り飛ばさなかった。それがあんたの本心ですよ。」
「俺も少し言い過ぎました。でも一緒にここまでやってきた仲間として、あんたがそんな弱気なことを、
、科学者として消えていきそうな発言をしているのが俺は寂しかった。すいませんでした。でも、、、だからというわけじゃないですが、しっかりしてくださいよ!」
そう言って、仲田は鼻水を垂らしながら泣いていた。
「悪い、仲田。ちょっと俺も、気が緩みすぎてた。でも、これだけは信じて欲しい。俺は家族も科学もこの世で一番愛してる。その愛し方が違えど、愛してるのは、お前だって一緒だろう?」
「はい。どっちも愛してます。」
「仲田のその気持ちや考えを聞いた上で、俺は正直に生きるから、俺を嫌うならそれからにしてくれないか?」
「わかりました。」
少し喧嘩腰になってしまったものの、俺と仲田は、本心でぶつかり合うことができた気持ちになっていた
。しかし俺は仲田とキャシーさんには未だにDSTDのことを話せずにいた。
そしてそんなタイミングで、ちょうど噂をしていた政府からの連絡が入った。
五年の時を経て、地球と水星の文化や科学技術はめっきり変わっていた。その中で、平穏に浸りきった生活をしているかのように思えていた雄馬だったが、仲間の心は違い、目的の見直しをさせられるようなやり取りを仲間たちとした雄馬だった。水星と友好的になった地球は、水星だけに限らず、様々な星への進出を目標としていた。家族と科学の双方を愛していると言った雄馬だったが、果たしてその想いは、雄馬にとって、この全宇宙にとって、どのような未来を生み出すことになるのだろうか。




