第6話
母親と生まれて初めて会話をするキャシーだったが、母親のフランクな雰囲気に包まれて、すぐに打ち解けていったキャシーだった。しかしそんな幸せな時間も束の間だった。
それからもお母様の質問は止まらなかった。
「若い頃の私に、、お母さんに会えて嬉しい?」
「うん、、、。」
そんな調子でお母様の質問はその後数分間続いたが、気が付いた時には緊張は解けて、お母様にとても馴染んでいる自分がいることに気が付いた。しかし、その時間は来てしまった。
「もっと話していたかったんだけど、私そろそろ戻らないと、、また沢山話そうね!それから、、あなたのお父様、とっても優しい人よ!その分、きっと娘が可愛くて可愛くて閉じ込めちゃうかもしれないけど
、許してあげてね!まぁそうなったら私もいるし、、あの人を上手くなだめるわね!だからボーイフレンドができたら、まずは私に相談してね!って、もういるのか、、、。彼氏がいることは、グラジオラスにはちゃんと話せた?あの人、、、どんな反応してた?、、、まぁ、、、またゆっくりと聞かせてね!じゃあまたね!」
そう言って、お母様は部屋から出て行ってしまった。お母様が思い描いていた未来と私がお母様に注いでもらいたかった愛情も、この先の未来では何一つ叶わないと思うと、涙が止まらなくなり、しばらくその場で一人泣いていた。涙がようやく止まった頃、雄馬さんと合流する為に私は部屋を後にした。
俺はグラジオラスさんの後を追いかけて部屋を出た、つもりだったが、扉を出た先にあったのは別の空間だった。その場所は広い中庭で、よく見ると少し離れた場所にグラジオラスさんと、クレマチスさんが二人でベンチに腰を掛けているのが見えた。二人がいるということは、ここは水星であることが分かったものの疑問に思うことがあった。ここは水星の地下であり、陽の光も当たらないはずなのに、なぜ中庭があり、草花があるのかということだった。そう思い、近くの花に触れてみるとその花は造花であることがった。その近くにあった草などにも触れてみると、それらは全て造り物だということがわかった。なぜ、こんな場所が造られたのだろうかと考えていると、背後から何か物音がした。すぐさま振り向くと、そこにはキャシーがいた。キャシーは首を傾げて不思議そうな表情を浮かべていた。
「あれ?雄馬さん、、私は今、お母様の部屋から出てきて廊下に出たと思ったのですが、、、ここは、、
、城内にある中庭ですね。なぜここに、、、?」
「俺もさっき、キャシーさんと同じような反応をしたばかりです。グラジオラスさんの部屋から出てきたと思ったら、廊下じゃなくてここ出たんです。ここは、城内の中庭なんですね。草花は全て造り物だということが、たった今分かったんですが、ぱっと見、造り物だなんてこと全く分からなかったです。ここはなんの為に造られたんですか?」
「私が生まれる前からここは造られてあたり前のようにあった場所のなので、なぜ造られたのかは分かりませんが、子供の頃はよくここで遊んでいました。」
「そうだったんですね。」
「それはそうと雄馬さんにお話しなければならないことがあります。」
「なんですか?」
「私のお母様、クレマチスだけには私達の姿が見えていたということが分かりました。それから、二人をつけていた時の私と雄馬さんの会話も聞かれていたので、私が娘だということも知っていました。」
「それは、、、良かったですね、、!ちゃんとゆっくり話せましたか?!」
「は、、はい、まぁ、、。」
「そうですか、、、ということは、今あそこにいるクレマチスさんにも僕たちの姿は見えて、話しかければ話せるってことですよね?!」
「そうなのですが、、、実はお母様、この世界の人達やお父様はもちろん、誰にも私たちが見えるってことは話していないみたいなんです。元々お母様は、現世のものではないものが見える体質でそれを他者に話すことを嫌っているようで、お父様には隠しておきたいみたいなんです。ですので、お母様に話しかけるのは、お母様が一人になった時だけにしていただけないでしょうか。」
「わかりました。ですが、俺とキャシーさんがこうしてこの世界に来て、何度もグラジオラスさんとクレマチスさんのいる時間いる場所にタイミングよく飛ばされているということは、この世界に俺たちが来た理由が、あのお二人に何か関係していることを指しているように感じてならないんです。なので、またすぐに話がすぐにかけられずとも、あのお二人の後を追って様子を見ることは何らかの意味があるのかもしれませんので、やはり近づいて二人の様子を見続けることにしましょう。それに近づけばこちらにも気が付いてもらえるでしょうし、クレマチスさんが一人になるタイミングも見計らいやすくなりますし。」
「そうですね、では二人に近づきましょう。」
ベンチに腰を掛けて座っていたグラジオラスさんとクレマチスさんの側に行くと、俺は軽くクレマチスさんに会釈をした。すると、微笑みながら軽く会釈し返してくれた。すると、やはりグラジオラスさんが会釈するクレマチスさんを見て問いかけた。
「誰に会釈したんだい?」
「いえ、、、ちょっと、足元に何かが落ちているように見えたので、頭を下げただけよ。」
そう話したクレマチスさんのお腹はとても大きくなっていた。おそらく、結婚式のあの日から一気に数か月か数年が経過した時間に飛ばされ、キャシーが生まれる目前の時期まで飛ばされてきたのだろうと俺は推測した。そうして、俺たちはじっとその場に立ち尽くして、二人の会話を聞いていた。
「そうか、、。それにしても、もうすぐでこの子は産まれてくるのか、私たちの子だ、きっと玉のように可愛いんだろうな。」
「そうね。」
「地球人は自分の生まれて育った場所で出産するという話も聞くが、クレマチス、お前は本当にここ水星で出産するので良いのか?まだ時間はある、地球での出産を望むならばいつでも言っていいんだぞ。」
「あなた、、ありがとう。でも地球にいても水星にいてもどこにもいても、あなたが私の帰る場所よ。私はあなたがいれば、それだけで十分よ。それに出産する私を気遣って、地球にそっくりな場所をここに、こうして造ってくれた。その気持ちが嬉しいのよ。本当にありがとう。愛しているわ。」
「私もだよ。君を愛している。何か不満があったらすぐに言うんだぞ。」
「ありがとう、でも何も不満はないわ。あなた、少し歩きましょう。」
「ああ、そうしようか。」
そういうとグラジオラスさんは、立ち上がろうとするクレマチスさんの手を取り支え、立ち上がらせるとゆっくりと歩き始めた。
「あなた、私は地球では本当にあまり良い思い出がなかった。全てが悪い思い出ではなかったし楽しいこともあったけれど、あなたと出会ってからはもっともっと幸せです。なぜならあなたを愛しているし、あなたも私を愛してくれるから。愛がなんなのか分からないと考えるよりも速く心で繋がれ、深い愛情であなたとは繋がり合えるからです。誰かと出会うということは、いつか別れが来るということ、その恐怖を考えるよりもあなたの側にいることを私が望めたし望めるからです。こうして、言葉で表してみはしたものの、きちんと表し切れているかどうかも確かではありません。この幸せが永久に続くとも限りませんが、それでもあなたが良いしあなたの子を授かれると思うと、幸せで胸がいっぱいになります。」
「私もだよ。永久に続かせてみせるさ。私が君とお腹の中にいる子を永久に守っていくとも。」
グラジオラスさんがそう言うとクレマチスさんは満面の笑みを浮かべた。そして次の瞬間、クレマチスさんは急にお腹を押さえて苦しみ始め、その場に膝をついた。それは陣痛だった。
クレマチスさんは分娩室に運ばれ、俺は分娩室の外で待ったが、グラジオラスさんとキャシーさんはずっとクレマチスさんの分娩に立ち会った。
キャシーはこちらの世界に来てからは、実の父親グラジオラスの見たこともない優しい顔を次々と目の当たりにし、会ったことのなかった母親の温もりを沢山感じ、自らがまだ生まれる前
からどれだけ両親に愛されていたのかを目の当たりにし、それを肌で感じる。しかし、DSTDで来たこの世界は一体なんの為にそれらを雄馬たちに見せるのだろうか?!




