第4話
キャシーの両親であるグラジオラスとクレマチスを見つけた雄馬とキャシーは、ひとまず何をどうするべきか分からなかった為、二人の様子を伺うことにしたが、、、。
「ねぇ、グラジオラス、ようやく私達一緒に暮らせるのね。」
「そうだね。」
「私とても幸せだわ。この結婚、あなたのご両親にはあまり良くは思われていないようだけれど、それでもあなたと一緒に生きてゆくことをお許し下さった。だからあなたのご両親にはとても感謝しているわ。それに、私はあなたと一緒に生きてゆけさえすれば、誰に何を言われても平気なの。」
「僕も本当に幸せだ。用があって地球に行ったあの日、たまたま立ち寄った場所で、日の出がとても綺麗で見とれていたら、そこには、同じものに見とれていた君がいたんだ。俺は、偶然だと思った。君がそこにいたことも、僕があの場所に行ったことも。
僕は君にそこで何をしているの?と声をかけたら君は、日の出の光がとても心地良いから見てると言ったね。」
「そうだったわね。あの日私は、家も仕事も恋人も失って、あの高台から落ちて死のうと思っていた。両親は小さな時からどこの誰かもわからなくて、同じような環境の年齢の近い仲間達と、盗みをしながら食べて暮らして育った。とにかく生きていく為なら何でもした。そしてついに帰る当てもなくなって、自分は生きていてもなんの価値もないと思い始めて、死のうと思ったところにあなたが姿を現した。死の直前の姿なんて誰にも見られたくなかったから、誰も来ないようなあの場所で誰も来ないはずの時間帯を狙ったのに、突然あなたが現れたから。とっさにそう言うしかなかったの。」
「そうだったね。そんな風に涙を流しながら明らかな嘘をつく君が、堪らなく愛おしく思えたのを僕は今でもはっきりと覚えているよ。」
「私は死のうとしていた時に、明らかに嘘だと分かる嘘を何も言わずただ頷いて聞いて側にいてくれたあなたにこの命を救われて、それから、あなたをどんどん好きになっていくなんて、想像もできなかったけれど、今はあなたが私を想うより、私の方があなたを愛しているかもしれないわ。」
「いや!きっと僕の方が君を愛しているんだ!そして、、その高台の上で、しばらく君の隣にいてから、hmsringが光り輝いていることに気が付いた。きっとあれは偶然ではなかったんだよな。」
「そうね。」
俺達は、そんなグラジオラスさんとクレマチスさんのラブラブ熱々な会話を聞いていた。すると、キャシーさんが何やら恥ずかしそうにしながら話し始めた。
「なんだか、私の両親のこんなところお見せしてしまってすみません。」
「いいえ、俺は別になんの支障もありませんよ。あ、、、でもそっか、自分の親のこういうの見られるのって恥ずかしいかもしれませんね。」
「そうなんですよ、、お母様の昔の話や、両親がどんな出会い方をしたか、それを知ることはとても嬉しいことなんですけど、さっきから、二人の子供として聞いて、更に雄馬さんにも聞かれていると、どこか
、くすぐったくてというか恥ずかしくてというか、それはもう、、、。」
「ですよね、、、ちゃんと想像してみれば、俺も同じ状況でキャシーさんと逆の立場だったら絶対恥ずかしいですもん、、でも俺はキャシーさんのご両親に対して恥ずかしいとは一切思っていませんから大丈夫です!!」
「雄馬さんがそういうことを馬鹿にしないことは分かりますが、やはり恥ずかしいというか、、むず痒いものですね、、、。」
「そ、、そうですね、、、。」
俺達がそんな話をしていた矢先に、グラジオラスさん達は挙式の準備の話をし始め、そのまま部屋を出て行ってしまった。だが、部屋を出ていく直前にまた一瞬、クレマチスさんと目が合ったような、こちらに気が付いているような気がした。二度目のことで本当に偶然だったかが気になり始め、キャシーさんにもクレマチスさんがこちらを見ていたように見えなかったか聞いてみることにした。
「あの、、キャシーさん、さっきクレマチスさんだけ、僕たちのことに気が付いていたというか、こっちを見ていたように感じなかったですか?」
「いいえ、私はそうは感じませんでしたが、、、。もし気が付いていたとしたのなら、なぜ私達に気が付かないフリを?それに、この世界の人たちとは接触できないはずなのに、なぜお母様とだけは接触できるのでしょう?きっと気のせいですよ。」
「でも確かめてみる価値はあるとは思いま、、」
「やめてください!、、、、、、、、ご、、、ごめんなさい、大きな声を出してしまって。もうやめましょう、そんなこと確かめて何になるっていうんですか?それより、お母様たちの後を追いましょう。」
「それもそうですね。」
俺は何か余計なことを言ってしまったと思い、一旦その話をやめることにした。
それから俺たちは、部屋を出て行ったグラジオラスさん達を見失わないように少し焦って部屋から出た。だがそこは廊下ではなく、振り返ると時計の部屋の扉が消えて、ゴージャスなシャンデリアが照明で壁も綺麗に装飾されたお城のパーティー会場のような室内に出たのだった。そこには、室内に椅子やテーブルの席が用意されていてその席にはぎっしりと水星人が座っていた。
「おかしいですね、、、さっきまでここはただの廊下だったのに、一体ここはどこでしょう?」
「ここは、私の家の室内です。いつもお祝いごとや催しごとがあるとこの部屋を使ったものですが、、、どうやら、お父様とお母様の挙式の最中のようです。」
キャシーさんは視線を会場の一番前の方にやりながらそう言った。そこにはグラジオラスさんがタキシード、クレマチスさんはウエディングドレス姿で大勢の前の用意された席にとても幸せそうな微笑みを浮かべて座っていた。
「本当だ、そうみたいですね。グラジオラスさんもクレマチスさんもとても幸せそうですね。」
「ええ、本当に。お父様があんな風に微笑んだお顔をされているのを初めて見たので、とても驚きました
。」
「そうなんですね。俺もグラジオラスさんと会ったのは数回だけですが、グラジオラスさんがあんな表情をするのは俺もちょっと意外だって思ってしまいました。。」
「そうですよね、、、。実の娘である私ですら、小さな頃からお父様の仏頂面しか見たことがなかったので、ただただ驚いています。」
「人の親に向かってなんだか失礼ですよね。そういうつもりで言った訳ではないにせよ、ごめんなさい。
」
「良いんです。それはそれで事実ですし、そんなことは気にしないでください。それより、何かお父様が話し始めたようです。」
俺とキャシーさんはグラジオラスさんが公の前でするスピーチのようなものを真剣に聞き始めた。
「本日ここにお集まりいただいた皆さん、この城の外にいて、スピーカーからこの話を聞いて頂いている水星の民の皆さん、既にご存知かとは思いますが、この星の王子である、わたくしグラジオラスは、地球で生まれ育ち暮らしていた地球人であるクレマチスと生涯を共にすることとなりました。これは前代未聞のことで、皆さんを大変を驚かせてしまい、申し訳ないと思っています。ですが、これはhmsringの導きです。皆さんもご存知のように、hmsringに導かれたということは、個人的に愛するという感情も伴ってきます。しかしそれは水星人の皆さんに共通することではありませんか。それを私情だけで世界を振り回すという風に捉えられるのは、少々身勝手ではないかと思えましたが、わたくしにもこの件以外の面でも、そういった身勝手さはあるということを振り返ってみて思い、何を今更戯けたことを自分は思ってしまったんだろうと思いました。
そして、地球人に水星が侵略されるなどの話が浮上していますが、地球人に水星が侵略されるなどといったこともありませんし、水星という星が終わるのではないかという噂もありますが、それもありません。一方的にわたくしのhmsringだけがクレマチスに反応しているという事で、別の誰かに誤って反応しているのではないかという説もありますが、間違いなくわたくしのhmsringはクレマチスに反応しており、地球人であるクレマチスにはhmsringがないという事実がそこにあるだけです。
水星人や地球人だけに限らず、全ての全宇宙に生きる生命体に共通することだとわたくしが考えていることを今からお話しします。生きる上で変化というものは、全生命体にとって、度合や程度がそれぞれ違うだけで、潜在的に苦手とされるものだと考えています。しかし歴史の中でわたくし達生命体は変わり続けてきました。何がわたくし達生命体を動かせてきたのでしょうか。その答えが何かはわたくしにはわかりません。しかしこの星の、この宇宙の行く道を、わたくしとクレマチスを受け入れた上で、共に歩んで、共に答えを探してはいただけないでしょうか。どうかお願いします。」
グラジオラスさんのスピーチのようなものが終わると、拍手の音が聞こえたが、その中に罵声のようなもの声も聞こえてきた。俺は、冷酷で保守的なグラジオラスさんしか見たことがなかったが為に、こんな風に誰かの為や、まだ見えない未来にある可能性にかけることのできるグラジオラスさんの姿を見て、自分は今この人のようにこの人以上に未来に希望を持って生きられているだろうか?と思った。と同時に、こんなに強い希望を持って生きていた人物が将来、誰かに絶望を与えるような生き方をする人になってしまうと思うと、俺は、自分も例外ではないと思った。
冷酷で保守的なグラジオラスは、かつては雄馬と同じように又はそれ以上に、未来に夢や希望を持って生きていたことを知った。雄馬は絶望的な状況で、かつ、前にも後ろにも進めない状況の中、一体どういう未来に進んでいくのだろうか。




