第3話
水星人に触れることも話しをかけることもできなく、かといって、元の世界に帰ることもできな雄馬とキャシーは、水星の地下へと続く穴に飛び込んだ。そうしている間にも地球では宇宙船が飛び立つ時間と
、人類を避難させなければならないタイムリミットが刻々と迫っている。そんな不安を抱えながら二人はこの状況を切り抜けていけるのだろうか?!
地下へと続く穴はとても深く、おそらく人間の俺がそのまま落ちていくと体が摩擦で擦れて大怪我するであろうだった為に、穴に入ってすぐにキャシーさんが体の形を変えて、俺を抱え込み覆い包んで、地下まで降りていくのに手を貸してくれた。そのおかげで無事、地下へと行くことができたものの、地下へ行ったところで、物や壁に触れることができても、通り過ぎる水星人たちに触れたり話をかけることができない状況は何も変わらなかった。
何をどうすればいいか途方に暮れていた俺たちは、とりあえず話し合い、知り合いがいると分かっているキャシーさんの実家を目的地として歩いた。キャシーさん曰く、その途中途中で街の風景が所々ガラッと変わっていた様に見えたらしく、水星を後にしてからの3年の間にこんなにも変わってしまうものなのかと、驚いていた様子だった。そうして歩いている内に俺達はキャシーさんの実家に到着した。頑丈そうな門の前に門番が立ちはだかっていたが、ちょうど門番の交代の時間が来たようで門が開かれたので、その隙に俺とキャシーさんは建物の中へと入った。建物の中はキャシーさんが案内してくれた。
まずはグラジオラスさんを探すこととなり歩いていると、途中ですれ違った人物が、グラジオラスさんは地球に行っており、あと数時間したら戻ると話していた。考えてみれば今日は、水星人が地球に居住しにやってくる日なのだから、その際にグラジオラスさんがどうするかは知らなかったものの、グラジオラスさんが水星に不在で、地球に向かっていても全くおかしくないことに、今更になって俺とキャシーさんは気が付いた。それがわかって今の状況に安心してはいられなかったものの、すれ違った人物が次に口にした話によって、俺達のたった今考えていたことや状況への不安は、とりあえずのところは、一旦、全て不必要なものと化したのだった。
「今日は、グラジオラス様がクレマチス様を水星に連れて戻られる日で、お戻りになられたら、明日はお二人の挙式ですね。」
その一言を耳にして、俺とキャシーさんは初めは意味が分らなかったのだが、数秒後その意味を察した。その通りすがりの人物たちの話が本当であれば、ここは、過去ということになる。
すると、その話を耳にしたキャシーさんが突然走り出したので、はぐれてはいけないと思い、キャシーさんの後を追いかけて走って行くと、この星の大きなデジタル時計のようなものが置いてある部屋に辿り着いた。俺にはその時計のようなものの見方は分からなかったものの、それを見たキャシーさんは、驚いた表情で話した。
「私達、過去にタイムスリップしたみたいです。」
「はい、さっきの人たちの話によるとそうみたいですが、、、一体何の為に過去に?そしてなぜ水星に?
」
「わかりませんが、、、私、、、今とても嬉しいです。こんな状況の時に本当は喜んではいけないとは思うのですが、今、涙が出る程すごく嬉しいんです。」
「どうしてですか?」
「私は、私が赤ん坊だった時にしか母とは会ったことがなかったのですが、この大きな機会は、この星の時を示している機械で、今指している時間を見る限り、私が生まれる前の時間を確かに指していることがわかって、そうなると、記憶では覚えていない写真や映像でしか見たことがない母をこれから肉眼で見て、そして、会えると思ったら、嬉しくて嬉しくて堪らないんです。たとえ話をかけることはできなくでも、母がどんなことに感動して、どんなことで悲しんでどんな風に笑ったのか、どんな風に怒ったのかをこの肉眼で目にして焼き付けておきたいんです。母の記憶がない私は、年齢を重ねていく程に尊い存在だと思う気持ちが強くなっていきました。だから、会えると思うと、ただただ嬉しいんです、、、」
そう言ってキャシーさんは顔を手で覆ってむせび泣いていた。
「そうだったんですか、、、。この状況はあまり良い状況とは言えないけれど、キャシーさんの願いが叶ったのは、本当に良かったです。俺は母親がいないっていうことを経験したことがないからその気持ちは分からないけれど、一度、俺も親と疎遠になったような時期があって、今は元に戻ったけれど、親を失うって、どこか気持ちが寂しいような落ち着かないような、そんな気持ちじゃないかとは想像が、ほんの少しできます。少し疎遠になるのと実際に死んでしまうのとは全く違うとは思いますが。
大人になってから親って、直接的に大きく何かしてもらえたって感覚がなかったとしても、俺自身は、自分が何かと向き合わなきゃいけなくて変わっていかなきゃいけない人生の節目節目で一番、親の存在の大切さに気付かされたりしていたので。親の存在や記憶って、なんとなくですけど、自分を肯定できる力の源になっているようなそんな気がしています、俺は。
だからこの過去の空間で、少しでもキャシーさんが自分のお母さんの記憶やぬくもりに触れられる良いなって、俺はそう思います。」
「ありがとうございます。私は、元々母がいなかったも同然の生活をしていたので、お父様の前では、周囲が噂していたようなお母様の様に、明るく気さくにお父様や周囲に振る舞うことが私の在り方だと思って生きてきました。けれど、父の監視は度を越していく一方で、、、疲れてしまったんです。ですが、今は仲田さんも皆さんもいらっしゃるので、寂しくなんてこれっぽっちもないんですけどね!今は、小さな頃から会いたかった、お母様に会えると思ったら嬉しくて、ただただ嬉しくて仕方がないんです。突然泣き出したりなんかしてしまって、ごめんなさい。」
「それとこれとは違う寂しさですよ。だから、悲しい時は泣いてもいいと思うし、泣きたい時は泣くのが健康にも精神にも、きっと一番良いです!!」
俺がそういうと、キャシーさんは涙を拭いながらクスクスと笑った。
「なんで笑うんですか?」
「いえ、なんでも、、雄馬さんは本当にお優しいんですね。」
「そんなこともないですよ!」
「いえ、お優しいです。」
「それはそうと!これからどうしますか?」
「ええ、、、ここから元の世界に戻ることもできないですし、少し休みながら、お父様たちが水星に帰るのを待ちましょうか。」
「そうですね。」
俺とキャシーさんは、グラジオラスさんとクレマチスさんが水星に帰るまで、待つこととなった。
気が付くと俺とキャシーさんは、時計のようなものが置いてある部屋にあった椅子に腰を掛けたまま、いつのまにか眠ってしまっていた。
どのくらい経ったのか、目を覚まし慌ててキャシーさんを起こすと、キャシーさんも驚いた様子で目を覚まして、時計のようなものをすぐに見た。
「どうやら、私たちはぐっすりと眠ってしまって、丸一日が経ってしまったようですね。」
「俺達、丸一日も眠っていたんですか?!そんなに長時間眠れるタイプじゃないのに、、、。」
「私もです。」
「キャシーさんもそうなんですね。」
「はい。」
目を覚ました俺とキャシーさんはその会話からなぜか約一分くらい沈黙していた。そして、最初に口を開いたのは俺だった。
「そしたら早速、グラジオラスさんのところに行ってみましょうか。」
「そうですね。」
そう話していた矢先に部屋の扉が突然開いて、何者かが部屋の中へと入ってきた。思わず、身を隠すポーズをしたが、その数秒後に自分の姿はこの世界の人たちには見えないことを思い出して、身を隠すポーズを解きながらまたキャシーさんに笑われるかと思いながらもキャシーさんの顔を見ると、視線は部屋に入ってきた何者かの方にくぎ付けとなっていた。
キャシーさんはその人物を見ながら呆気に取られた顔をしていたので、俺もそちらに視線を向けると、そこにはグラジオラスさんと一人の女性がいた。
「お母様、、、。」
その人物を見たキャシーさんはそう言った。
「あの人が、キャシーさんのお母さんなんですね。」
「はい、私のお母様です。写真でしか見たことがありませんでしたが間違いありません、あの方は私のお母様です。」
キャシーがそう言い切ると、一瞬、クレマチスさんと思われる人物が、一瞬こちらを見つめていたように思えたが、一瞬でその目線は逸らされてしまったので、きっと勘違いだろうと思うことにした。そうこうしていると、またキャシーさんが微笑みながらも、嬉しさのあまりにか、泣き始めてしまったが、少しの間キャシーさんをなだめると、俺たちは二人の会話が聞こえるくらいの距離で、しばらくグラジオラスさんとクレマチスさんの様子を伺うことにした。
水星に来てしまったと思っていた雄馬とキャシーだったが、更にタイムスリップもしてしまっていたことに気が付いた二人は、キャシーの父と母であるグラジオラスとクレマチスの様子を
しばらく伺うことにしたが、二人が過去の水星にタイムスリップして来てしまったのは一体なぜなのだろうか?!




