第10話
グラジオラスが背を向けて部屋から去っていき、部屋には沈黙が続いていたが、そのこととは別に、もっと辛い出来事が雄馬を待ち受けていた。
しばらく沈黙が続いた後、へたり込んでいたキャシーが突然大声をあげて泣き始めた。それを見た仲田は何も言わずに駆け寄ってキャシーを抱きしめたのだった。キャシーは段々と正気を取り戻して様子が落ち着いてきた頃にその場の空間が歪み始め、その歪んだ空間に吸い込まれるようにして俺たちはマキシムのいる世界へと戻ったのだった。
元の世界に戻り、目を開くと、そこにはマキシム達が姿を揃えて俺たちのすぐ目の前にいた。俺はすぐに周りを見渡して、仲田と神菜、キャシーの姿を探した。だが、そこには三人の姿はなかった。俺はマキシムに問いかけた。
「おっさん!神菜達はどこだ?!実験はどうなったんだ?!」
「それが、、戻ってきたのは君だけなんだ。」
「どういうことだ?!そんなはず、、だって、さっきまでは、確かに一緒にあの空間に吸い込まれて、一緒にいたんだ!なのにどうして?!」
「落ち着かないか、雄馬くん。」
「この状況が落ち着いてなんかいられるかよ!!どこだ!どこなんだよ!隠れてないで出てこいよ!俺をからかってるんだろ?!冗談はもうよせよ!神菜!仲田!キャシーさん!」
「気の毒だが!!!実験は失敗した。」
「どうしてだ、、、?さっきまで一緒だったんだ。一緒に帰って、この世界を、、、俺たちの未来を救うんだよ、、。なのにどうして、、。どうして、、、。」
「現実を受け止められない気持ちはわかるが、そういうリスクもあることも知りながら、この実験に挑んだのだろう?ならばその事実も受け止めて、別の未来を救う方法を考えるしかあるまい。今はそうは思えんかもしれんが、まぁ一旦、気持ちの整理がつくまで少し休むといい。」
「休みません!俺がDSTDを使って、神菜達がどんな世界にいたとしても連れ戻します。」
そう言って、DSTDの8を押そうとしたその時、マキシムは俺を殴りとばした。
「少し落ち着かないか。行動を起こす前にまず冷静になるんだ。DSTDはしばらく僕が預かっておくことにするよ。君は、少し休め。」
そう言うと、マキシム達は部屋から出て行った。俺はしばらく頭の中が真っ白になって、その場にへたり込んでいた。
数時間後、俺はへたり込んでいたが、なんとか立ち上がり、マキシムの宇宙船内の一室で椅子に腰をかけて休んでいた。これから、一体何をどうやって、未来を救えばいいのか。むしろ、神菜達がいない、俺一人でどうにかできた未来なんて、もうなんの意味があるのかわからない、とすら考え始めていた。だが、そう考えていた俺の脳裏に突然、大きな違和感が浮かび上がってきた。
と、その瞬間、キャシーさんが部屋に入ってきた。
俺はそのことを確かめずにはいられなくなり、それをキャシーさんに確かめてみることにした。
「キャシーさん、今ちょうどお聞きしたいことがあったんです!」
「なんでしょうか?」
「未来の俺である、おっさん(マキシム)がこの時代で存在しているのは、俺の身が安全だったからわかるんですが、他のナンシーさん、ケイシーさんとこの時代のキャシーさんはなぜ存在しているんですか?もし、はぐれてしまったまま俺が神菜達とこの先会えないのだとしたら、あなた達もこの時代で四人、一緒にいないはずではないのだろうかと不意に思ったんです。」
「それはどうでしょう?時空を行ききして、様々な情報を私達は変え過ぎました。それによって時空の流れが狂ってしまい、私たちが安全で、過去のあなた以外の三人の存在が消えてしまっているということも考えられます。」
「考えられるってことは、一つの可能性であって、そうじゃないかもしれないってことですよね。それならやっぱり俺、あいつら探しに行ってきます。」
「それは止めた方がいいと思います。これ以上何かをして、あなたまで失踪することになれば、それこそ
、次はどうなるかわかりません。」
「でもこのままじゃ、、、わかりました。とりあえずその話は一旦おいておきます。それで、俺たちがDSTDを使ってあっちに行っている間のことって、キャシーさん達は見ることができたんですか?」
「マキシムさんが真っ白な世界に行っていた時と同様に、今回もあなた達がDSTDを使ってどんな世界に行けていたかは、私達が見ることはできませんでした。あちらの世界では一体どんなことがあったのですか
?」
「キャシーさん、あなたが何者なのかも、あなたの家庭の事情も詳しく知りました。そして、あなたのお父さんを賢いやり方ではなかったかもしれないけど、説得をして、過去のあなたを連れてDSTDでこちらに戻ってこようとしていたんです。」
「あのお父様をあなた達が説得したのですか?」
「はい、、というよりも正しくは、過去のあなたであるキャシーさん自身がグラジオラスを説得しました
。」
「私が、、ですが、、、?どんな風にお父様を説得したのですか?」
そう聞かれた俺は、水星であった出来事を全てキャシーさんに話した。するとキャシーさんは俺に頼みごとをしてきた。
「そのこと、マキシムさん達には黙っていてもらえませんか?」
「今は良いですが、このままじゃ、いつグラジオラスさんの追手が来て襲撃されるかわかりませんよ。だから早い内に、、、。」
「それでも!もう少しだけ、黙っていてもらえませんか?余計な心配をマキシムさん、ナンシーさん、ケイシーさんにさせたくないんです。」
「もしかして、それを言う為に一人でここに来たんですか?」
「そうだとしたら?とにかくもう少しだけでいいんです。」
「もう少しだけって、どういうことですか?」
そう聞き返したタイミングで、ちょうど、マキシムとナンシーとケイシーが部屋に入ってきた。
「やぁ、調子はどうだい?」
部屋に入ってきたマキシムは俺にそう聞いてきた。
「ああ、まぁ、、、。」
マキシムからの質問に中途半端な返事をしながら、キャシーからの微かな視線を感じていた。その瞬間、
心の中で静かにキャシーとの話を一旦保留にすることを決めた。そしてそのことを察したのか、キャシーは俺から視線を外したのだった。
「ところで雄馬くん、まだ完全に心が癒えていないだろうが、このまま何もせずに時間だけ経つのを待っていても、状況は何も変えられないのが現実だ。それでまず初めに、失敗したといえど、DSTDを使って行ったあちらの世界では何が起こったのか、聞かせて欲しいのだが。以前、僕が真っ白な世界に行った時と同様に、今回も君の行っていた世界を僕達が見ることはできなかったんだ。」
「今ちょうど、キャシーさんとそのお話をしていたところだったんですが、こちらに帰って来るまでは全て順調に事が運んでいました。神菜と仲田と一緒に水星に行くことも、キャシーさんを水星からこちらに連れて帰ろうとすることも、水星人にお願いしたら、割とあっさりとキャシーさんを引き渡してくれました。」
俺は「割とあっさりと」と、それ以上深く聞かれないように嘘をついた。
「そうか、分かったよ。今回のことは残念だったね。けれど、僕達で力を合わせて、また一から作戦練って一緒に未来を切り開いていこう。」
「それはそうなんですけど、、やっぱり、神菜達を俺がDSTDを使って探しに行くことが、リスクは高いかもしれませんが、一番良い方法だと思うんです。」
「それは、ダメだ。君まで失踪したとなれば、次は僕たちの存在すら在ることが保証されない。」
「そうかもしれませんが、じゃあ、それができないで、これから何ができるっていうんですか。」
実験で失敗をして、神菜と仲田とキャシーとはぐれてしまった雄馬だったが、DSTDを使って探すと、マキシムに申し出てみたものの、賛同はされなかった。マキシムは一体どのような作戦を考えたのか。




