第7話
寿命が縮むことを知っても尚、DSTDを使い、異世界に行くことを選んだ雄馬。大学受験の勉強も間に合わず、それに手を出す術しか残されていないと考えた雄馬が見る異世界とは一体?!
目を覚ますと、俺は自分の部屋のベッドの上で眠っていた。以前にも、同じようなパターンがあった
ことをほんの少し思い出しながらも、ベッドから起き上がり、自分の部屋から出ると、リビングには
誰もいなかった。ここは異世界だと思いながらも、いつもならまだ、神菜と仲田がいる時間だったが
誰もいないことに違和感を覚えた俺は、誰か家にいないかと、仲田の部屋の扉を開けた。
すると、仲田の部屋の中は空間が歪んだようになっており、俺はその空間に吸い込まれると気を失っ
てしまった。
気が付くと、仲田の部屋の床に横たわっていた。顔を上げると、そこには仲田の姿があり、仲田に声
をかけたが、仲田はまるで俺の姿にも声にも気が付いていない様子だった。
俺は気付いて貰えないあまり、仲田の肩に手をのせようとしたが、その手は仲田の肩に触れることな
くすり抜けてしまった。俺はまるで、幽霊のようになってしまったのだった。
仲田に声をかけても気が付いて貰えないことを自覚した俺は、仲田の部屋から出て、部屋の外の様子
を見ようと、ドアを開こうとしたが手がドアノブをすり抜けてしまって開くこともできず、だからと
いって壁をすり抜けることも出来なかった。じっとその場に立ち尽くすしかなく、一体なぜ自分がこ
こにいるのかを考えていたが見当も付かなかった。
部屋にいる仲田はさっきから、俺に背を向けて机に向かって、ひたすら何かをしている様子だった。
机の上を覗き込んでみると、そこには大学で使っている教材やテキストのような物が山のように積ん
であり、仲田は延々とテキストの問題を解いていた。そのテキストの中に埋もれて、いつかに俺と神
菜と仲田の三人で撮影した写真がいつでも仲田の目に入るような位置に置いてあった。その横に並ん
でおいてあった時計を見ると、深夜三時を回っていた。しかし仲田は勉強をやめる様子はなかった。
それから二時間後、朝五時になると仲田は二時間程眠り、朝七時になるとバタバタと身支度を始め、
部屋を出て行った。俺は仲田が座っていた椅子に腰を掛けて、改めて机の上を見渡していた。すると
テキストなどに埋もれて、机の隅っこに、立派なA4サイズの皮表紙の手帳のようなものを見つけた
。俺は見てはいけないと思いつつもそれを開いてしまった。
そこには、ここ二、三年分の仲田の日常を綴った日記が書かれていた。悪いと思いながらも、俺は1
ページ1ページ読み進めていってしまった。
すると、俺が仲田と神菜に一緒に暮らそうと話した日のことが書かれているページを見つけた。そこ
にはこう書かれていた。
『今日は矢中さんが、俺と有村さんに大切な話があると月の和膳に呼び出すなり突然、三人で一緒に
住もうと言ってきた。正直、俺はこの人は何を言っているのだろうと思い、その次に、とても馬鹿に
されているような気持ちになった。きっと、矢中さんは俺が有村さんのことを好きだったことに気付
きながらも有村さんと付き合ったんだろうし、その後の俺の気持ちを知った上で、まだ俺を巻き込み
たいのは、矢中さんに負けて失恋をした俺を愚弄して、矢中さんは楽しんでいるに違いないとすら思
えた。だけど今日、この話を月の和膳に来て、俺と同じタイミングでしか聞いていないし、その返答
に戸惑っていた有村さんを見て、矢中さんの真意がそうではないことを知った。そして有村さんは、
矢中さんが帰った後に、俺に、『怖い』と言ってきた。俺は最初、矢中さんの無謀さが怖いと言って
いるのかと思ったけれど、有村さんは無謀な行動をしようとする矢中さんが怖いのではなく、夢に夢
中になるあまり、恋人としての自分の存在が矢中さんの心の中から無くなってしまうのではないかと
いうことを恐れて怖いと言っているのだった。俺は、まだ失恋してから日も浅くて正直、まだ悔しく
て悲しいという気持ちがあったから、このまま矢中さんと別れるように有村さんに上手く話をして、
あわよくば俺の彼女に、、、と考えもしたが、それだけ有村さんが強く矢中さんを想っているのに、
運よく付き合えたところで、俺には虚しさが残ると思ったのと、不思議とこの二人の恋の行方をどう
しても見届けたいと思った。そして俺は有村さんに『君もあの人以上に、科学を愛して、真っ直ぐに
張り合っていればいいんだよ。そしたら、その先で、夢も恋も本気だったって証明できるんじゃない
かな?』って話すと、有村さんは俺の言葉をそのまま素直に受け取って、『こんな、夢も恋も本気に
なれる環境、他にはないし、絶好のチャンスなくらいですね!』と前向きな言葉を返してくれたか
ら、『俺で良ければいつでも相談にのるよ。』って言ったけど、なんでだろう?俺は、有村さんにそ
う言ったくせに、今、こんな風にこんな日記書きながら泣いてんのは、なんでだろう?俺が入る隙な
んか一ミリもなくて、悔しいし辛いけど、でも矢中さんの科学に対する想いとか無性に納得できちゃ
うし、有村さんには笑ってて欲しいし、今は確かに辛い、、辛いけど、だからこそ俺は俺で、夢も恋
もこの二人に張り合えるように、いや、それ以上になってやろうと思った。』
俺はそのページを読み終えると、机に日記を戻した。
確かに俺は、仲田が神菜のことを好きだったことに気が付いていた。俺はDSTDを使って、神菜と
の恋愛関係が、今の俺の立場と仲田の立場が逆になった、もしかすると俺が通るかもしれなかった未
来の世界を見てきた。
俺はDSTDがあったから、今こうしているのかもしれないけれど、仲田はDSTDが無くても、自
分のやりたいことに気が付き、それを行動に移し、神菜との恋愛が上手くいかずとも、それでも夢に
真っ直ぐだ。俺は、仲田の方がよっぽどDSTDを持つにふさわしい人間なんじゃないかと思った。
なぜ俺がなんの為にDSTD持つことになったのかをますます知りたくなってしまった。しかし、今
それを知る術はなく、まずはこの部屋からどうすれば出られるのか、もう一度試しに、部屋のドアノ
ブに手を掛けてみると、ドアノブに手が触れることができるようになっていた。
勢いよくドアを開けると、ドアの向こうはまた空間が歪んだようになっていて、俺はまた、その空間
に吸い込まれて気を失ってしまったのだった。
目にしたことがなかった仲田の勉強している姿や、どんな想いで仲田が共に大科学者を目指そうと言ったのかを知らなかった雄馬は、それを知り、DSTDを自分が持つことに対して疑心暗鬼になり始めていた。そんな状態のまま、また、歪んだ空間の中に吸い込まれた雄馬だったが、、、




