第17話
マキシムからの電話を切った後、挫けそうになっていた雄馬だったが、不思議と、この世界で生きていく意欲が、また、湧いてきていたのだった。
そして、いつもの生活に戻った雄馬が、今の生活に何か新しいことを取り入れてやろうと思い、行動に出たが、、、。
電話が切れた後、リビングの方からアヤメが俺を呼んでいる声が聞こえたので、すぐにケータイを引き出しにしまって、リビングの方へ向かった。
『あなた、誰かと話していたの?』
リビングに行くとアヤメがそう尋ねてきたが、俺は余計な心配をかけまいと思い、DSTDのことをアヤメに一度も話したことがなかった為、とっさに嘘を取り繕った。
『誰とも話していないよ。少し歌っていたんだ、歌うことは健康にも良いっていうしね。』
『あらそう。それはそうと、あなた、ご飯はまだかしら?』
『ご飯の時間までもうすぐだから、おやつでも食べて待っていようか。それから、アヤメ、君の趣味って、なんだったかな?』
『趣味、、?なんでしょうね、、、?』
『君が子供の頃に、よくしていた遊びでもなんでも良いんだ。』
『子供の頃、、それなら、、よく探検ごっこをしていたかしら。』
『探検ごっこ?それは一体、どんな遊びなんだい?』
『私が自転車に乗れるようになった頃に、仲のいい友人達と、この住み慣れた街中で隠れ家みたいな場所がないかって探すんだけどね、そんなある日、林を見つけたの。
私達は、夢と希望に胸を膨らませ、その林の中に入っていって隅々まで探検したんだけれど、どこにも隠れ家なんて見つからなくてね。でも不思議と、見つからなかっていうのに、今でも思い出せるくらい楽しかったの。今思えば、隠れ家を見つけることじゃなくて、探検をしていたことが私の中での宝物になっていたと思ってね。』
『そうか、、なんとなく、、なんとなくだけど、君が楽しんでいた姿が想像できるようだよ。』
『ええ、本当に楽しかったわ。』
俺は、こんな嬉しそうなアヤメの表情を見たのはいつ振りだろうか、、と思いながら、アヤメの嬉しそうな顔をじーっと見つめていると、あることを閃いたのだった。
『じゃあ、、今度は俺と一緒に探検に行かないか?』
『ええ、行きたいわ。』
その後の運命を左右したのは、その会話がきっかけだった。
数日後、俺は、約束通り、アヤメと探検に出掛けた。
家から歩いて15分くらいの場所に、ちょっとした林があった。そこに向かって俺とアヤメは歩き始めたのだった。行先はアヤメには告げていなかった。着いてからのお楽しみにして、アヤメを喜ばせたかったからだ。数日前に、自分一人だけで下見をしに行ったのだが、そこは、俺自身も子供の頃に、友人と昆虫を捕まえに来たり、かくれんぼをしたり、缶蹴りをして遊んだことのある、想い出の場所だった。今は、林の中に、人が歩ける道も作ってあり、昔より、ずっと、歩きやすくなっていた。
俺はアヤメの喜ぶ顔を思い浮かべワクワクしながら、アヤメと離れないように、出発からしっかりと手を繋いだ。だが、病の後遺症もあり、その歩く足はアヤメより俺の方が遅れていた為、アヤメに合わせて歩いて貰うように歩いていた。アヤメもどこかいつもより嬉しそうな表情を浮かべていた。
そうして、目的地の林に着くと、アヤメが話始めた。
『あなたが私を連れて来たいと話していたのは、ここなの?』
『ああ、ここだよ。どうしてだい?』
『ここ、私がこの間話していた、子供の頃に良く遊んでいた林よ。なんであなたは、ここを選んだの?』
『俺も、昔、ここでよく遊んでいて、林と言ったらここが一番に思い浮かんだからだよ。』
『そうだったの、、、。それにしても、あなたとこうしているのは何年振りかしら?あなたとこんな共通点があったなんて、とても嬉しいわ。』
そういうと、アヤメはにっこりと微笑んだ。アヤメのそんな微笑みを見たのはとても久しぶりで、それにつられて、俺も自然と笑顔になっていた。
その日はとても天気のいい日だった。暑過ぎず寒くもない、ただ、心地良い風が吹いていた。何もかもが全てにおいて恵まれた一日だった。そんな気持ちを保ったまま、林を抜けると、Uターンをし、来た道を辿って、とても穏やかな気持ちで、帰路についた。
それからというもの、天気の良い日には、決まって、二人で、散歩に行く様になった。そして、その散歩の甲斐もあってなのか、俺の病気の後遺症も、以前より大分、回復をして、アヤメも物忘れの頻度が大分減り、回復してきたそんな時だった。
いつものように、天気がいい日に、アヤメが俺を散歩に誘ってきた。俺は、その日に限って気がのらず、散歩に行くことを断ってしまった。すると、そのことに対して、アヤメは激怒した。
散歩をし始めてから、俺が断わり、散歩に行かなかったのは、その日が初めてのことだった。俺は、たった一度きり、行かないと言っただけでなぜそんなにアヤメが激怒するのか不思議でたまらなく、それをアヤメに言ったことが原因で大ゲンカとなった。
そして悲劇は起こった。
その口論の途中、アヤメが胸を抑え苦しみ始めた。俺が声をかけても、聞く余裕もない程の苦しみ方だった。
俺はその様子を見て、急いで救急車を呼んだ。救急車はすぐに到着し、俺もアヤメと一緒に、救急車に乗り込んだ。
アヤメは絶えず苦しんでいる様子だった。俺は思わず、アヤメの手を握りしめた。すると、アヤメの心の声が聞こえてきた。
(く、くるしい、、くるしい、、私はどうなるの?このまま死んでしまうのかしら?誰かが、私の手を握ってくれているわ、、誰なの?あなた、、あなたね、、?
あなた、さっきはごめんね。最近ずっと調子悪かったんだけど、心配かけたくなかったから、黙っていたの。でもあなたとのお散歩は唯一の楽しみだったから、わがままを言ってしまったの。ごめんね
。許してね。あなた、愛してるわ。)
その心の声が途切れたのと同時に、心電図モニターの心肺停止の音が救急車の中に鳴り響いた。その後、すぐさま救急隊員が心肺蘇生を行うも、アヤメが息を吹き返すことはなかった。
それから俺は、しばらくアヤメの亡骸を抱きしめながら、泣き叫んでいた。しばらくして、救急隊員の方に肩を掴んで声をかけられ、俺はようやくアヤメの亡骸から離れたのだった。
そうして、泣きじゃくって、涙で視界が滲んでいたものの、それだけは俺の目にはっきり映った。
アヤメは、天使のような笑みを浮かべ、ただ、眠っているだけのような表情を浮かべていた。
それから数日後、葬儀なども終え、アヤメがいなくなってからというもの、俺は、抜け殻のような生活を送っていた。
そんな時、またDSTDが鳴り響いた。
アヤメを失ってしまい、抜け殻のようになってしまった雄馬。そんな時、またDSTDが鳴り響いた!!




