第10話
経営していた店を二店舗潰してしまった雄馬だったが、、
店を潰してから、俺は酒に溺れた生活をした。真昼間から酒を飲み、飲みに出ては、朝帰りをし、そんな生活を繰り返している内に、アヤメとの夫婦仲の溝も、だんだん深くなっていった。
そして、娘が学校でいじめられていることを知ったあの日から、七ヶ月が過ぎようとしていたある日のことだった。
俺はいつものように酒を飲み、朝帰りした日の事だった。俺は、自分の目を疑う光景を目にした。
部屋に入ると、アヤメが苺夏の髪を鷲掴みにし、何かを大声で叫んでおり、苺夏は、大泣きしながら母親のアヤメに何度も大声で謝り、許しを請う姿があった。
すると、俺の姿に気が付いたアヤメは、苺夏の髪から手を放して、こちらを見てこう言った。
『全部、あなたが悪いのよ。』
俺は、妻が口にしたその言葉よりも、たった今、目にした光景を受け入れることが出来ないまま、気が付くと、アヤメの胸ぐらを掴み殴ろうとしていたが、その時だった。娘の苺夏が小さな体で、母親を庇おうと、俺にしがみ付いて、必死で止めようとしていた。
俺はそれを見て、正気を取り戻し、アヤメから手を放した。
アヤメはその場で泣き崩れ、苺夏は俺の足元にうずくまり、すすり泣いていた。
そして、その途端、苺夏が俺の足に微かに触れていたせいか、苺夏の心の声が聞こえてきた。
(パパは家に帰って来なくて、ずっとお酒を飲んでる。ママは、お金が無くて、いつも悩んでいて、パパの帰りを、助けをいつも待ってる。私はそれを分かっていたのに、ママに欲しい物を買ってとねだってしまって、ママをもっと苦しめた。ママはパパがいないときは、いつも、怖い顔をしている。私がママの助けにはなれなくて、私がいることが邪魔みたいだ。学校に行けば、何かと理由をつけていじめられるし、どこに行っても邪魔な私なんていっそのこと、、、)
俺は、その苺夏の心の声を聞いて、この世界に来てからの自分の子供の頃のことや、現実世界で会った神菜という子の生い立ちの話を思い出していた。
そして俺は、気が付かない内に、我が子にも、自分の子供の頃の苦しみ、、、それ以上の苦しみを連鎖させてしまっていたことに、その日、初めて気が付き、深く後悔をした。
『ごめんな、苺夏。パパ、自分の事ばっかり可愛くて、お前が学校で苦しんでいる時も、こうしてずっと苦しんでいた時も、ずっと助けてやれなくてなくて、本当にすまなかった。父さん失格だな。そして、アヤメ、今まで本当にすまなかった。』
『もう遅いわよ、、貯金も底をつきそうだし、これから、一体どう生活をしていけばいいの?謝ったって、使ったお金は戻ってこないのよ。』
『お前の言う通りだ。今まで、店を潰してからの数ヶ月、俺はロクに働きもせず、散々金も使い果たし、酒に溺れ続けていた。だから、急にそんな俺を信じてくれなんて言ったって、信じられるはずがないよな。けど、もう一度だけ、俺を信じてくれないか?』
『あなたの何をどう信じろって言うのよ?』
『数日中に、必ず仕事を見つけてくる。その答えは、俺のこれからの行動で示して行こうかと思う。もし、それで俺がお前たちを守れなかったら、その時は、、、』
『分かったわ。もう一度だけ、あなたを信じるわ。』
『それともう一つ。アヤメ、俺と約束をしてくれないか。』
『何?』
『苺夏に手をあげるのだけは止めてくれ。』
『私は悪くない!この子が反抗するから、ちょっと叱っただけよ!』
『それでもだ。叱るにはやり過ぎだと、俺は思うんだ。それを守る約束をしてくれれば、俺は酒を断ち、ちゃんと仕事もする。頼む。』
『分かったわ。』
その約束をアヤメとした数日後、知り合いの紹介を受けて、とある工場に就職が決まった。だが、それだけでは生活していけそうになかったので、夜は交通整理の旗振りをし、掛け持ちをして、収入を得て行くこととなった。
それから半年が経とうとしていたころ、ようやく生活の基盤ができ、家庭内にも、かつての活気溢れた空気が、徐々にだが、戻り始めており、三人で食事をしながら、よく笑みを浮かべるまでになっていた。そんな頃、俺は、とある場所へと向かっていた。
都会から離れた、のどかな田舎町。俺は、その田舎町に住む、二人のある人物を訪ねようとしていた。
紙に控えていた住所を見ながら、ようやくたどり着いたその場所には、二階建ての立派な佇まいの家が建っており、その周りには、綺麗で広大な畑があった。
その家のインターホンを押そうとした瞬間、背後から、俺の名を呼ぶ声が聞こえたのだった。
背後から雄馬を呼んだ声の主は一体?!




