第9話
アヤメの涙の訳とは、、
しばらくして俺は、アヤメから腕を解いた。そのあと、お互いに照れてしまって、ロクに会話こそ出来なかったが、連絡先は交換し、アヤメを家まで送ると、俺も家に帰り、眠りについた。
朝になり、目を覚ますと、俺は部屋の景色に違和感をおぼえた。まだ寝ぼけてぼやけている目を擦りながら、部屋を見渡すと、そこは自分の部屋ではなかった。
状況がうまく呑み込めずに、ベッドから上半身だけを起こして呆然としていると、部屋の扉が開いた。
『あなた、おはよう!朝食が出来たわよ~、起きて~!』
そこには、そう言うアヤメの姿があった。更に状況が呑み込めずにポカーンとしていると、次の瞬間、俺の頭の中に、急に、膨大な量の情報が流れ込んできた。
ここは十年後の世界だった、俺からすれば、昨日の夜、その数日後から、アヤメと頻繁に連絡を取り合うようになり、何度か会っている内に、同棲を始めた。俺はアヤメに言った通り、アヤメを守っていく為に必死で働いた。ホストとして働きながら、独学で経営学を学び、お金を貯めて、その後、自分のホストクラブを二店舗出し、ようやく、人並みの生活ができるようになり、アヤメと結婚をした。そして、結婚後、間もなく、子供を授かった。女の子だった。俺とアヤメはその子に、苺夏と名付けた。現在は小学二年生にまで成長していた。
しかし、なぜ、十年後という今に、俺は来たのか、、そう考えているとアヤメが繰り返し声をかけてきた。
『ねぇ、あなた!大丈夫?寝ぼけてるの?』
『ああ、うん、大丈夫だ、今起きるから!』
『本当に大丈夫?、、美味しいご飯作ったから、しっかり食べて元気だしてね!』
『ありがとう。今行くから。』
そう言って、食卓へ向かうと、先に起きていた苺夏が座っていた。
俺が、おはよう!と言うと、苺夏はあまり元気が無さそうに、おはようと言葉を返した。
俺は仕事が忙しいあまり、苺夏とコミュニケーションをとることができていないから、苺夏との心の距離が出来てしまったと、思っていた。そして朝食をほとんど残して、苺夏は席から立ち、こう言った。
『ごちそうさま!もういいや!行ってきます!』
そう言って、食事もロクにせずに学校へ行こうとする苺夏の手を俺は掴んで、苺夏に質問をした。
『苺夏、待ちなさい。全然ご飯、食べれていないじゃないか。どこか、具合悪いんじゃないか?』
『大丈夫だよパパ。ちょっと眠たいだけだから、心配しないで!』
そう言う苺夏の姿を見て、アヤメも心配そうにしていた。
そしてそう言った、苺夏の心の声も同時に流れ込んできた。
(全然大丈夫なんかじゃない。学校に行けばまたいじめられる。でも学校に行きたくないなんて言ったら、パパとママが心配するに決まってるし、それに話して、もしママやパパが学校になんて言ったら、私、ちくったって、きっと、もっといじめられる。)
そして、苺夏は俺の手を振りほどいて、家を出ていった。
アヤメは俺が、人に触れると、人の気持ちを読める能力を持っていることを出会ったあの日に話したが、信じてはいなかったし、それから、その能力のことはアヤメには、なんとなく、、あえて、伝えてはいなかった。その為に今、苺夏の心の声を聞いたことは話せなかったが、それとなく、アヤメに苺夏のことを話した。
『苺夏、学校でいじめられてるんじゃないか?』
『なんでそう思うの?』
『なんとなく、そんな気がしたんだ。』
『そうね、、私も前から苺夏の様子は気になっていたし、帰って来たら少し、話を聞いてみるわ。』
『すまない、俺が聞いてやりたいんだが、今日も仕事のスケジュールが詰まっていて、帰りが遅くなるんだ。すまんが、頼む。』
しかし、その話題に触れることもなく、数ヶ月が過ぎようとは、俺はその時、思いもせず、それでいい、アヤメに全部任せておけばいいと、俺は思ってしまったんだ。
朝食などを済ませた俺は、家を出ると、二店舗の店の様子を見に行った。昨夜は、片方の店で、ナンバーワンホストの誕生日があり、売り上げは、いつもの十倍程になったと、店長から聞いていたので、金庫の売り上げを見るのが、いつもより少し、楽しみだった。
そして、店に着いた俺は、カギを開け、店の中に入ると、金庫の方へと向かい、カギを開け、中を確認した。
しかし、金庫の中は空っぽだった。
俺は、即、店の大半を任せている店長に電話をした。だが、店長と電話が繋がることは、その後、一度もなかった。
俺は店長が横領したことをすぐに察したが、通報はしなかった。腹は立ったものの、むしろ腹が立ったからこそ、たった一日の売り上げ分くらい、店長がいなくとも、通常の営業で取り戻してやると、俺は意地になった。
だが、その意地とは裏腹に、その店長が飛んでからというもの、売り上げがガタ落ちし、足りない経費などを、もう一店舗からの売り上げでまかなっている内に、その店舗の経営状態も傾いてしまい、半年後、二店舗とも閉店せざるを得なくなってしまった。
やっとの思いでつくった自分の店も、潰してしまった雄馬。収入元も失い、何もかも失いそうな雄馬はこれから一体、、




