気になってるのは
肩をゆすられて起こされる。
短い時間だったがいつの間にか眠っていて、私の肩をゆすっていたのはウエダだった。
グラッと体が揺れて私の肩がコバシの肩に当たる。
「あ!ごめん!」慌てて体を元に戻すとコバシがニヤニヤしていて、「お前、ニヤニヤすんな」とウエダが言う。
「降りないと」とウエダ。
慌てて立ち上がる。「ごめん、ありがとう」
「カリヤ、先に降りて」ウエダがそのまま立っていたカリヤさんに言った。「カミバヤシ連れて降りるから」
カリヤさんはウエダではなく私の方を切なそうに見つめたが、私が目をそらすと先に降りて行った。コバシも降りて、ウエダが棚から私の荷物を取ってくれる。なんだか私がカリヤさんに悪い事をしているような気になって来る。
「お前、よく寝るよな」
いや、そんな事もないけどいろいろグルグル考えてたら寝てしまってたんだよ。
「あれはオレが頼んで言わしてたんじゃないからな」
「ふん?」
「コバシがオレの事言ってたやつ!」
「あ~~…」
「『あ~~』ってなんだよ?」
「うん…」恥ずかしいな。「…コバシ君友達思いだなって…」
「…」
今度はウエダが恥ずかしそうにした。
バスを降りるのは私たちが最後だ。先に降りながら、そしてちょっと振り向いてウエダが言った。
「夕べ停電の時…」
ドキッとする。
「あれはオレだって、お前…ちゃんとわかってた?タケノシタだとか思ってるんじゃ…」
慌てて首を振った。「思ってないよ!…わかってた」
ウエダだってわかってた。
「ならいいけど」と言った時にはウエダはもう私を見てはいなかった。
山の8合目くらいにあるそう大きくはない駐車場にバスは泊まり、駐車場の脇にある遊歩道へ続く道の手前が集合場所だ。ウエダと集合場所へ急ぐ。
…あ、見ないでみんな…こっち見ないで欲しいな…
「はいはいはいはいはい」と拡声器を持った施設長の声だ。声だけじゃなく、もちろん前の方に本人がいるのが見えた。ここまで一緒について来てくれてるんだ…
施設長は続けた。「はいじゃあ、ちょっとここで言い伝えを一つ」
ザワザワザワザワ…
言い伝え?
「静かにして下さいね」と施設長。「これ、大事なやつだから。大事なやつっていうか私が話したいやつだから。…むかしむかし、はるかむかし、この地の下の方を治めていた王様が、鏡が原に住まうという神様に貢物をささげにやって来ました。来てみるとそこは広い広い草はらで、神の気配を感じるような大岩も大木も何もない。草しかない。それで従者を休ませた後、その草はらの真ん中まで一人で行ってそこで一晩夜を明かしたのです」
ザワザワザワザワ。
「はい、ザワザワしない。…すると明け方、空が白んできた時に空の真上から渦巻状にクルクル回りながら降りてくる虹色の光の輪あったのです。王はそれに気を取られ、近付く気配に気付きませんでした。背後から声をかけられ瞬時に刀を抜き振り向きましたが、それはこの世のモノとは思えないようなたいそう美しい女の人だったのです。女の人は『空の、光のうずまきを見ましたか?』と王に聞きました。見たと王が答えると、『それでは私とあなたは結ばれる運命なのです』とたいそう美しく、歌うように笑って答えたのでした」
ザワザワザワザワ…
なんだろう…これ、言い伝え?むかし話?こんな話初めて聞くけど…
施設長は淡々と続ける。「女の人は天女だったのです。うずまきは女の人が天から舞い降りた時の光で、それを人間に見られると、もう天には帰れず人間として、その見てしまった人間と添い遂げなければなりません。添い遂げられた場合のみ、また天女として生まれ変われるのです。だからイケメンのめっちゃかっこいい王に見られた天女はラッキーだったのかもしれません」
ザワザワザワザワザワザワザワ…
ザワザワ感ハンパなくなって来たけど。
「それでも天女は試す事にしたのです。早々人間の事なんて信じられなかったのです。しかも相手は権力ももったイケメンです。もうすでに奥さんと子どもがが山ほどいるかもしれません。でも王は誠実でまだ結婚していませんでしたし、婚約者もいませんでした。何人かと付き合った事はありましたが、浅い付き合いだけなのでした」
ザワザワザワザワザワ…
どうしたんだ、この話。結構長めでとりとめがない感じなのに先生たちの誰も止めようともしないし。
「王も天女が気に入りました。天女のツンデレ感がツボだったのです。二人は素直にすぐ付き合っても良かったのですが、天女はやはり王を試す事にしました。ツンデレをツボられているので、そこは突き詰めなければ、と思ったのです」
ザワザワザワザワ…
「『城へ帰ってそれでも私に会いたくなったら、その城の中にあるここへ通じる道を探し出して、そこから会いに来て』、と思わせぶりな態度を取って天女は姿を消してしまいました。…あ~~、みんなかったるい?もう少しだから。お城へ帰った王は天女に会いたい一心で鏡が原へ通じる道の入口を探しますが、遠く離れた草はらへ通じる入口なんていうファンタジックなものはなかなか見つかりません」
ザワザワザワザワ…
「んん~~~やっぱザワザワし過ぎだよね、話す気失せて来ました。じゃあ鏡が原までチャチャッと登っちゃいましょう」
そりゃあ確かにみんなざわついていたけれど、途中で止められたらすごく気になるんだけど。
周りにいた子たちが、この話を知ってるかと他の子たちと聞き合っている。私もユリちゃんに聞かれたけれど、もちろん知らないと答えた。
誰も知らないみたいなのだ。「なんか気になる」と結構みんな気にしている。
そしてカリヤさんがこそっと私とユリちゃんに、「どうしよう私~~、さっきの話の王様をウエダ君で想像しちゃった~~」と言うので私も想像しそうになり、恥ずかしくて急いで頭から追い出した。
お城に入口はあったのかな…それとも見つけられずに天女とは結ばれなかったのかな…
まぁいいや、と思う。気にはなるけど天気が良い。空気も澄んで…そう思いながら前を行くウエダを見てしまう。ウエダにバスを降りる時に言われた事が胸の中で大きくなっていく。
『あれはオレだって、お前…ちゃんとわかってた?』って。
思い出して顔が赤くなりそうだから、必死で思い出さないようにするのだけれど、やっぱり思い出すし、実際に手を繋がれてた時の事とか、その後キャラにもなく私に手を振って来たところとか、それを友達に言ってたとコバシから聞いた事や、日直の前のくじ作りからこっちの事を止めどなく次々と思い出してしまう。
「やっぱ付き合っちゃうの?」とユリちゃんがこそっと聞いてきた。
付き合う?ウエダと?
…いや…そんな事…
そうだ、ウエダはコバシ達に私に告るのかと聞かれて、そんな事はしないって前に答えてた。それに実際、まだ直接『好きだ』とは言われてない。
手は繋いで来たのに。
「私、好きだなんて言われてない」
私が言うとユリちゃんは笑って言った。「それはちゃんとウエダの口から告白して欲しいって事?」
思わず首を振ってしまうと、ふふっとユリちゃんは笑った。
「ジュンちゃんももう、たぶんウエダの事を結構好きなんだよ」
そうなの?私はウエダを好きなの?タケノシタ君じゃなくて?…いや、タケノシタ君は彼女と寄りを戻したがってもんね…
それに…それに私が本当に気になってるのは…
…気になってるのはやっぱり、ウエダの事だ。




